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驚きばかり!デンマーク女王の退位とフレゼリク王の即位

2023年の大晦日恒例のマルグレーテ2世女王のスピーチで、突然の退位が発表され、しかも唖然としている間に、たった2週間後の1月14日に本当に退位し、フレゼリク(フレデリック)新国王が即位となりました。このスピーチで女王はイスラエルの侵攻に明確に反対を示すなど政治的な発言がありましたが、退位の発表にせっかくの内容が一気に吹き飛んでしまいました。
報道によれば、フレゼリクすら3日前に女王の退位を聞いたとされています。また、英国のような戴冠式はなく、メテ・フレズレクセン首相立ち合いの下、まず紫のワンピース姿の女王が退位届に署名し、隣に座ったフレゼリクが宣誓書に同じく署名するだけ、それを見届けた女王が立ち上がり、部屋を出ていくという非常にシンプルな交代劇に驚いてしまいました。フレゼリクは署名する女王を感無量の表情で眺め、その隣には次の国王となるクリスチャン王太子が座っていました。


そのすぐ後、軍服に身を包んだフレゼリク新国王とメテ・フレズレクセン首相がクリスチャンボー宮殿のバルコニーに出て、集まった人々の前で両者が宣言し、人々の喜びの声に包まれました。フレズレクセン首相が下がると、国王の家族がバルコニーに現れ、人々はデンマークの旗を振って盛り上がり、何度かの登場の後に終了となったのでした。


私はまたもやデンマークに驚愕し、デンマーク人とは?と考えさせられてしまいました。一国の王が即位するというのに、ましてや900年ぶり(1146年以来)の自発的退位についての是非などは問われず、女王の意思だからね、とまるで何かの議長が交代するくらいの軽やかさです。
日本の皇室の天皇交代における大変な議論や式典の多さの記憶や、イギリスのチャールズ国王の戴冠式の記憶が新しく、デンマークの簡素さと素早さに拍子抜けしてしまいました。
国民の中にも「なぜ?」などなく、「ほー、そうですか」「次の王夫妻は素晴らしいからいいんじゃない?」という非常にあっさりとした受け入れ方です。

簡素さの理由は、恐らく「やる必要がない」だと思います。
現在の王室は約8割の国民が支持していると言われていますが、それは王室ファミリーメンバー(特にマルグレーテ女王やオーストラリア出身のメアリー新王妃)に人気があるということと共に、外交面やデンマーク企業のプロモーションなどの貢献という経済効果があります。一方、税からの支出となる豪華な戴冠式などは平等主義のデンマーク人には馴染まず、必要がないと考えられているのだと思います。
これは、2022年にフレズレクの弟であるヨアキム王子の4人の子ども達が、プリンス、プリンセスの称号をはく奪され、モンペサ伯爵・伯爵夫人としての称号は持つものの、王室のメンバーではなくなったこととも通じています。マルグレーテ女王はこの決断の発表の際、孫たちに「一般人として、好きなように生きて行って欲しい」とコメントしました。王室の継続を守るために王室にかかる費用をスリム化という「時代に添った」目的であり、女王は一人でこの重い決断をし、ヨアキム王子夫妻には寝耳に水だったと言われています。

さて、フレゼリク新国王は若いときは「王にふさわしくない」という意見も出ていたようです。女性問題の噂も時折あり、2023年11月にもスキャンダルがありました。今回の女王の退任は2023年2月の背中の手術によって女王が考え始めたと女王は言っていますが、このスキャンダルからフレゼリクとメアリーの離婚を避けるための女王の対応ではとも報道されています。多くのデンマーク国民は、「まあ、フレゼリクも普通の男だからねぇ・・・」というような受け止め方をし、「メアリーが許してくれればね」と、さらっと受け流しているようですが。
フレゼリクが将来の国王としてデンマーク国民に受け入れられたのは、彼がかつて何度も軍役を就いたこと、しかもデンマークで最も過酷な任務と言われている海軍フロッグマン隊(彼の同期は12人だけ)に所属したことなどで印象が変わり、信用を得たということがあります。またスポーツ面で非常に優れており、チャリティーランなどでも先頭に立ち、さわやかな印象があります。
一方、日本との関わりで一番印象深かったのは、2011年の東日本大震災のときに、他の国々は放射能を懸念して退避警告などが出される中、6月、フレゼリクは王太子として、寄付と支援物資と共に東松島市を慰問したということでしょう。

1972年1月14日に即位した52年後の同じ日に、83歳のマルグレーテ女王は退位しました。1972年の女王の即位は父であるフレゼリク9世王の逝去に伴うもので、女王は黒いドレスを着て同じクリスチャンボー城の宣誓に臨みました。クラウ首相の傍らで行った、厳かなスピーチと静かな聴衆といった映像が残っていますが、黒いベールが寂しげに風になびき、聴衆の手にはデンマーク国旗はなく、暗い色彩の葬式ムードを引きずったものでした。

1972年。クラウ首相と。


一方、女王自ら退位を決めた今回は、クリスチャンボー宮殿のバルコニーに現れた新国王とその家族は、デンマーク国旗や王冠を模したものを被った多くのデンマーク人の熱狂の声に包まれました。生涯に恐らく一度しか見られないこの交代劇に参加したくて、シンガポールから駆け付けたデンマーク人もいたそうです。

フレゼリク国王は涙ぐみながら「この仕事を生涯待ち望んでいた」「デンマーク国家のために献身的に尽くす」とスピーチした。


さて、1972年と今回のバルコニーの写真を見比べてみると・・・。
男女が逆になっています!
1970年代は女性の社会進出が本格化し、マルグレーテ女王の在位期間はまさに女性が解放され、男女の平等が実現化の時代と重なるものでした。
そして、2024年の男性の国王の宣誓を行ったのが、2人目の女性首相であり、初めての女性首相が誕生した2011年以来、4年間の自由党政権を除く10年ほどの期間を、デンマークは国王と首相というツートップが女性だったのです。
2枚の写真はこうした社会の変革を実感させてくれ、感慨深いものがあります。
ちなみにデンマークは憲法改正により、1953年に男性王位継承者がいない場合の女性王位継承権が認められ、2007年には性別に関係なく長子が王位継承権を持つことに国民投票で決定しています。

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