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実録経済小説 FTX破産 #2 〜鼓動②〜

11月7日 月曜日 自宅

最近朝は家で珈琲を淹れるようにしている。お気に入りのコーヒーショップで何種類試飲した後選んだ銘柄を細挽きにしてもらったパウダーを、フランス製のモカに入れて火にかけると3分ほどで香ばしいコーヒーの匂いが漂ってくる。

珈琲が用意できると、いつもならゆっくりとダイニングテーブルに新聞を開くところだが、ダンは妙な胸騒ぎがして携帯を手元に寄せると少し焦るような気持ちでTwitterのタイムラインを眺め始めた。

Twitterは仮想通貨関連の情報を集めるには一番のツールだ。もちろんプロジェクト一つ一つを深掘りする場合はDiscordがいいかもしれない。だが、仮想通貨界で何が起きているのかを知るにはTwitter以上のメディアは無い。

親切なことに様々な事象を細かく分析してくれる、所謂「良スレ」を書いてくる人が日本にもアメリカにもそして世界各地にも居る。それを見て、アクションすることでダンもチャンスと利益を掴んできた。

Twitterのタイムラインを追っていくと、何やら界隈が騒ついている様子が伝わってきた。11月6日、日曜日、仮想通貨取引所バイナンスのCEO、チャンポン・ジャオが業界二番手に上り詰めてきた取引所、FTXの「取引所トークン」FTTの売却を示唆するツイートをしていたのだ。界隈は上位取引所のトップがバトルする「頂上決戦」が始まる、と興奮した様子だった。

そして正に昨晩7日の米国時間、FTXのカリスマ創業者兼経営者として抜群の知名度と人気を誇るサム・バンクマン・フリードの祖業である旗艦ファンド、アラメダ・リサーチから、そのFTTを$22で買い取る、とのツイートがなされたところだった。

ツイートの主はキャロライン・エリソン。アラメダの現CEOらしいのだが、ダンはそれが誰であろうと今まで気にしたこともなかった。アラメダもFTXも、全てはサム、SBFの支配下なのだから。

続け様にSBFのツイートが飛んでいるのも確認できた。問題ない、顧客資産の引き出しには無制限に応じる、顧客資産は投資に使ってはいない、と。多少焦りを感じさせる連発ツイートながら、ダンにはこれは強大な敵CZに対する防衛策なのだと思われた。

しかし、同時に嫌な予感もする。$22で買い支えるというキャロラインのツイートは悪手なのではないか?まるでUSTを$1に支えるためにLUNAを無限発行して沈没していったTerraのようではないか。CZのFTTはLUNAのようなものだと示唆するような攻撃的なツイートで、そうでは無いにしてもイメージが悪すぎやしないか。。。

心に不安を抱えたままダンは仕事に出ることにした。

軽い胸焼けか筋肉痛が胸全体を覆うような気持ち悪さを感じながら、ダンは自分が何をすべきかを迷っていた。正に今、FTXから資産が引き出され続けているのは分かっていた。FTXには踏ん張ってほしい。なぜか自分も引き出すという方針を保留しながらダンは考え続けていた。

………

今日も仕事が遅くなった。仕事を終えてすぐTwitterを開くダンの目の前にFTXから衝撃の通知をするツイートが現れた。

顧客資産引き出しの凍結だった。

ダンの心臓の鼓動が一段と早く高く鳴り響き始めた。

続く

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