謎解きと演劇の組み合わせについての一考

本編は、 AtoZ謎解き公演「続く絶望、希望の終わり」のX面として書かれたものです。セットとなるA面とX面後編は以下からご覧ください。
A面:本作の物語面の解説
通常、A面書いたらB面を書くのがセオリーですが、今回B面には落とし込めないフワッとした話があるので、冗談でX面というのを先に書きます。公演を通じで私が思ったことであって、直接的に今回の「続く絶望、希望の終わり」に関することではありません。無駄に長いですが、中身はやっぱり思いついた順に書いているので薄っぺらいですすみません。

謎解きと芝居

一時期…というか、しょっちゅう話に上ってくる「謎解きは装置でしかない」という話ですが、今一度整理をすると、「謎解きは物語そのものではなく、物語を進めるためのコマンドでしかない」ということです。だから、イベントから謎を一切失くしても、一つの物語が出来上がるものこそ体験型としての謎解きイベントなのだと思う訳です。逆に謎を抜いて一つの物語にならないイベントは、謎が主人公の物語、あるいは試験会場だと思います。

謎解きという世界への没入問題

本作は謎と演劇がバランスよく楽しめるものを作るということが、テーマとしてあったようです。それで、AtoZでは『シアトリカル謎解き』と呼んでいました。『謎解きイベント』でも『体験型イベント』でもなく、『シアトリカル』な『謎解き』。実験公演の様相は明らかでした。美麗な謎とバランスを取る、演劇とは何か…今回はこの点ですごく考えさせられました。

デバッグの時。パトラさんに言われたのは「ここまで演劇だと思っていなかったので、演劇過ぎて逆にイベントに入り込めない人が居そう」という事でした。当時告知時点でシアトリカル謎解きという事は前面に出されておらず、確かに従来よりも演劇によって世界観を構築している部分が多かったと思います。ただ、失礼な話、パトラさんのおっしゃっていることを私は最初、理解できませんでした。ミステリーイベントでは登場人物の見せる世界観によって構成されている、要は、自分が中心でない以上は外野の登場人物を眺めるという『演劇』…を理解して謎を解かなければなりませんので、演劇を見せられることにはあまり抵抗感を感じない、という考えがあったからです。今にして思えば、本作は私も演じる側だったので客観視に欠けた考えだったなぁと反省しています。と共に、そういえばここまで演劇を盛った謎解きは、東京ボウズぐらいかもしれないと思いました。…東京ボウズの場合は、演…寸劇そのものが面白いので、また少し話が違うと思いますが。

本作は、今までの謎解き公演と比べて異質です。その中でも本筋を書いていたアキラさんがこだわっていたのは、紙の説明資料を作らないという事でした。気付いた方がいるかわかりませんが、所謂「最初に読んでください」的な注意事項や参加者の立場を説明するような配布資料を、本作は一切配っていません…というか、謎も回収して繰り返し利用可能な仕組みをとっていたので、本公演で参加者が持ち出せるものは写真と目に焼き付けた思い出以外ありません。資源問題という見方もできますが、個人的深読みマンにとって、①希望から絶望への転換をネタバレさせずに持っていくには状況説明は無粋、②(A面に記しましたが)参加者にとって少年が分身になる可能性がある以上は夢から現に持ち出すものがない方が望ましい、という2つの演出の為に配布資料がなかったのだと解釈しています。それで、説明がないならば口頭で…演劇で表現しなければならない。だからがっつり演劇パートがある、という事になったのだと思っています。

イベント全体の構造

公演中。何せワタクシは闇落ちしてから40分間皆様の活躍を黒布の向こう側から見ていることしかできませんから…手隙だったので、時々アンケートを読んでいました。アンケートのコメント欄を見て考えたのは、『没入感がない』というコメントが5~6件ほどあったこと。因みに同じ回&同じ班の参加者ではありません。没入感がない理由もそこには書いてありましたが、大凡「演劇パートが長い」という話でした。では実際に長かったのか。録画を確認すると、以下の構造になっていました。

導入(計25分)============
 ①オープニング 5分
 ➊小謎とき 5分
 ②魔法使いの告白~闇落ち、黒い封筒まで 8~10分
 ③アキラ氏解説 5分
本番(計45分)============
 ❷謎解き本番 40分
 (④各闇落ち部屋 1.5~2分)
 ⑤5分前カウント 1.5~2分
 ⑥エンディング 3分
解説(計20分)============
 ❸解説 15分
 ⑦挨拶 3~4分

実際に没入感はどうなったのか?

演劇パートは白丸数字、謎に関係するパートは黒丸数字です。確かに導入が25分もあると長い感覚はありますが、先にも申した通り、これは説明のための部分があるからでしょう。しかし説明然としているわけではなく、演劇を見るという立場に立っていれば、長いとは思わないかなもなという印象です。実際に、没入感は置いといたとしても、演劇パートに対して好印象を持った参加者もいました。畢竟するに、本質的には演劇パートが長い=没入感がない、ではないということです。当然といえば当然というか、謎解きをARGと捉えれば、自分が関わらない物語は長くなれば長くなるほど「物語から疎外感を感じる」という話になっているのだと思います。この点、本作は参加者に求める立場が非常に微妙でした。参加者のあの空間での立場は、舞踏会に迷い込んだ人たちです。ですから、舞台上で繰り広げられている内容は自分事であるはず。しかし分身役の人間がいる以上は、繰り広げられている内容に対して外野になっていました。観劇に対して基本的に没入できる人(感情移入なのだろうか)は問題ないのですが、舞台上の出来事として捉えてしまう参加者は、見せられている感覚の方が強くて没入できないことになる。

なるほど。そういえば戸田のサバゲフィールドで開催された『ゾンビバトルロワイヤル』で私が不満に思ったのは、「物語が長すぎて醒める」でした。あのイベントでは参加者が強制的に物語に取り込まれながらも、全く自分たちの関与しない物語が眼前で発生し続けている感覚が強かったのです。感情移入できない。失礼だけれども、役者の質についても文句を言ってしまってました。たぶん本作に参加して「演劇パートが長すぎて没入感がない」とい感想の参加者に、同じように役者の質については言われているだろうなと思いました。それぐらい、没入できないということは他の点にも目が行って不満が募るのです…。

き、気を取り直して(?)。はじめ、アンケートのコメントを見た私は、「謎が没入感の装置になっているみたいな感想だな」と思いました。この感想を今一度考えると、本作においてはあながち間違っていないかもしれません。なぜなら、先ほど述べた参加者の微妙な立場からして、参加者が本作の物語に関与できるのは、まさに謎解きの部分だけだからです。本作の冒頭は、没入感の装置がなかった。…では、謎解きとバランスのとれた演劇は、謎がない分没入感を別の方法で補完できたほうがいい。演劇の完成度でもだいぶ変わるだろうが、どうすれば参加者は演劇に対する評価も高くなったのでしょか。

当たり前の話ばかりだなと思った方、すみません。一個一個かみ砕いで結論に向かって行こうとしているので、最後のパラグラフまで読み飛ばしていただいても構いません…って今言ってもって感じですか。まずはここまで読んでいただいてありがとうございます。

謎解きと演劇を仲良くさせる方法は?

さて、やり方は幾つか思いつきました。一応本作の物語を前提にし、特に「長い」といわれる対象となっていた導入部分について検討してみました。
①参加者に問いかけをする、参加型演劇にする
②演劇パートを見ていないと解けない謎を後に用意する
③周遊等にして参加者とキャストが対面になる演劇形式をとる

1つ目、参加者に問いかけをする演劇にするというもの。寸劇にならないように気を付ける必要はありますが、参加者の目は確実に舞台側に向くとともに、参加している感はあります。しかし、本作でその形式が取れるのは「①オープニング」だけ。ただし、オープニングでその形式をとった時に運営として怖いのは、その後の"野次”。本作は「②魔法使いの告白」の時に多少の笑いは取りますが、内容としては真剣です。要するに、闇落ちに続く展開のどこかで野次が飛ぶ、あるいは笑いを誘われてしまうと世界観に響く。だから本作ではあまりとりたくない形式だなと思いました。因みに1日目の1公演目か2公演目、闇落ちした私に対抗して叫んで笑いいてる方がいて、大変失礼ですが空気読めと本気でキレて突っかかりました(長澤さんがめっちゃ抑えてくれました、ありがとう)。闇落ちしているのでキレても何ら支障はなかったのですが、要はそういうことです。

2つ目、ミステリーイベント同様、演劇パートを見ていないと解けない謎があるというもの。これも確かに参加者の注意を引けますが、そもそも冒頭でその事実を伝えないとアンフェアになるので、本作のように物語の内容を殆ど公開しなかった場合には不向きな形式です。

3つ目、周遊型というか、参加者が物語を自らの足で追うというもの。これは参加者のアンケートのコメントにも「周遊向き」という話がありました。あいにく6月4日にリアルシネマ『渋谷大爆破』に行くので適当なことを言うもんじゃありませんが、参加者がきちんと物語の空間・時間に入り込める体制下で演劇というか登場人物の対応を参加者に見せるということかなと思いました。「④各闇落ち部屋」は少しだけ該当すると思いますが、これを冒頭でするとなると、2つの点で本作の意図とズレてきます。まず、本作は「②~闇落ち」以降の変化対象が従来の登場人物や手元の資料ではなく、会場そのものにありました。そのため、参加者が物語を追った移動先が絶望の空間では本筋で楽しんでもらいたいところとズレてきます。次に、これはA面にも書きましたが、本作の参加者の分身は長澤さんの演じていた人間ですが、人によっては少年が分身の場合もあるのです。すると(想像が難しいのですが)、周遊で本作を展開した場合、少年が物語のなかのアウトサイダーになっていく表現を少年自身でなく参加者自身がすることになってしまいます。うーん、言い換えると、参加者が周遊するということは、参加者はページめくり(移動中)は物語から消えてしまうのです。そのため、少年の闇落ちを参加者自身が抱えたまま物語を進めてもらうのに、周遊は向かない。つ、伝わります?

ここからはAtoZの根幹制作メンバー、アキラ氏、コウ氏、マーサ氏の思惑を外れ、この形式をとった理由をスーパー深読みマンが自分なりに考えて書きます。周遊を提案いただいた参加者や…「キャストとの触れ合いがもっと欲しかった」と回答した参加者の方々がいらっしゃいましたが、本作は"どうしても”それらの方が求める形式にはできなかったと思っています。必ずしも、キャストとのふれあい=きゃっきゃうふふの事を指している、とは勿論思っていません。参加者が物語に没入するために、物語のコアに居る登場人物と会話をするという手法は、よくあることです。ただ個人的に…X面の後編「演者と役者」にも関わりますが…本作をもう一度俯瞰した時、果たして絶望している空間で登場人物に深く干渉する隙があってよいのかという話なのです。先述した参加者の立場と字面の意味では相反するので変な感じですが、結局あの空間での参加者は物語の登場人物たちから見て部外者・外野に他なりません。目撃者や干渉者にはなれても、住人にはなれないのです。外野の過干渉は、時に提供しようとする世界観が変わってしまうことになる…『シアトリカル謎解き』と名乗ったことから推測するに、参加型・体験型を優先したのではなく物語を優先した、より言えば世界観の完成を優先したからこそこの形式だったのだと考えています。この触れ合いをなくしたからこそ、A面に書いたような少年=自分の分身という見方をすることができた人が居たんだなと思っています。ストーリー性のある謎解きイベントで自分以外の登場人物に感情移入させるって、とても想像しにくいことなので、そこのあたり本作はすごいのです(感想が小並感)。

結論がどうも横暴な感じになりかけましたが、もう一度考え直して、①・②・③の従来の謎解きとは違う方式を1個思いつきました。とはいえパトランドの公演でできたかどうかは不明ですし、「超名案!」とも思っていませんが…

④参加者がキャスト(世界観の住人)になる仕組みを作る

そういえば、ディズニーランドって参加者が能動でなくても楽しませる仕組みがありますよね。その要素は諸々あると思うのですが、今回注目したいのは来場者=ゲストが世界観に染まるということを外観的に作るという点です。ドレスコード。あるいは、その世界の住人である体の何かを配布…例えば懐かしのドロッセルマイヤーズの『嘘つき村の人狼』で配布された三角頭巾のような世界観の作り方。この方法は私もよくやるのですが、まあ所謂「まずは形から入」って気持ちを整えるのです。これは経験上、結構有効です(推理ナイトをはじめ、推理展示でも非公式ですがドレスコードを設けるのは実際これが理由です)。そういうことじゃないんだ感はありますが、没入感を作る術の一つにはなると思います。

さいごに

こんな感じでざっくりと色々なことを考えていましたが、謎解きと芝居、単純に合体するのは難しいということを、本作でつくづく感じました(正直、周遊・街歩き系謎解きは謎解きと芝居の合体とは思っていません)。でもたぶん、謎解きと芝居のバランス黄金比は存在していて、更にこの芝居部分を支える要素は、大凡ここで述べた参加者の観客としての要素と、後半で述べる「演者と役者」の要素の2つのバランス次第といったところでしょうか。そういえば今度、謎解き声優の久木田さんを主宰として芝居と謎解きのイベントがあるそうなので、どんな作品になるのか楽しみにしています。

近年、謎解きやミステリーをテーマにした観客参加型のイベントを実施する劇団さんが増えてきました。単純にこの“増えた”件について言いたいこともあるのですが、今後謎解きと芝居が「あ、ジャスト!」というイベントがどんな形式として出てくるのか、楽しみでありつつ、自分でも考えていけたらなと思っています。

ね、なんか尻切れトンボな終わり方でしょ。お酒飲んで適当に書いているからです、悪しからず(言い訳)何か、「ここに書いてあること違う、こうだよ!」とか「こんなこと書いてアホか」みたいな意見ありましたらおっしゃってください。ちょっと…飲み行きましょう(え)。ご清読頂き、ありがとうございました。


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