タバコから感じたアンビエント

最近一人でタバコを吸う時は音楽を聴くのをやめた。

少し前まではギターが紡ぐメロディーを聴きながら吸うタバコが堪らなく好きだった。哀愁溢れるサウンドが自分をロードムービーの主人公に仕立て上げてくれているような気がしていた。

正月休みの帰省から戻って間もない頃、いつものようにタバコを吸おうと思い、金属カスがこびりついたAirPodsをケースから取り出して耳にはめた。音は鳴らなかった。充電が切れていたのだ。

仕方なくその時は音楽を聴くのを諦めた。
皺だらけのソフトパッケージから一本の赤マルを咥えて東京湾が見える屋上へ向かった。

風が強い日だった。自分の遥か上でカモメが流されていた。コンクリート色の空から太陽が地上の様子を伺っているのが見えた。一月の風が砂浜に打ち上げられた海藻の匂いを運んでいる。Tシャツとパーカーだけでは防ぎきれない寒さに耐えながら赤マルの先に火を灯す。風を背負ってbicライターの狙いを定める。やっとの思いで着火した赤マルを咥えて再び東京湾を望んだら。

それまでノイズキャンセリングで隠していた世界が聴こえた。軋む椅子のように鳴いているカモメの声。明らかに載せすぎている軽トラの音。風になびいて擦れる木の枝。意識して聴くことのなかった音が鮮明に響いていた。

その時初めて”アンビエントミュージック”を肌で感じた気がした。Brian Enoが”家具の音楽”にインスピレーションを受けて生まれた「空気のように間断なく循環する"環境音楽」が何なのか分かった、気がした。

いつもならここでLe Makeupの”愛のしるし”を聴いて上機嫌になっている所だ。
「これは私の 愛のしるしだ くたびれたシャツと 昨日見た映画」
その日は自分で歌ってみた。凍え掠れた歌声は潮風で容易に掻き消されたが、それすら美しく思えた。



このnoteを書くのに1時間半かかった。
そろそろタバコが吸いたくなってきたのでここまで。

それでは

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?