10. 教え方のコツ
教えられる側に立つと教え方のコツがよくわかる
アルバイトでの出来事とはちょっと内容が外れてしまいますが…
中堅社員や管理職の方の研修を行っていると、
「最近の若い人に仕事を教えるのが難しい」
「説明しても理解してくれない」
「シツコク言うと機嫌が悪くなるし、叱ると立ち直れなかったり辞めてしまうから叱ることも出来ない」
という声が増えてきました。
また今は、管理職としての職務だけを担っているわけでなく、業務を担当しながらマネジメントも行っている「プレイングマネジャー」も増えてきたので、若手の部下を指導するコツがわからないだけでなく、時間もないのが現状です。
ありがたいことに私は25年以上、専門学校生や大学生の講義やカウンセリングに携わっているので、学生を取り巻く環境や学生の特徴の変化を肌で感じている分、若い方の接し方や指導に苦労したことはありません。
また、曲がりなりにも母親として二人の娘(現在31歳と29歳)を育ててきたので、子育ての過程でどう接すれば良いかを身につけることが出来ました。
大変失礼な言い方かもしれませんが、自分のやり方に固執して現状をしっかり捉えることをせず、自分の子どもの世話を妻に任せきりにしてきたオジさまたちには、若手の育成なんて難しいに決まっている。
と思っていたりします。
大学生のカウンセリングをしていると、男子学生の口から父親ではなく「母に相談してみます」と言う言葉が出ることからも、家族関係の現状が見えてくるようです。
しかし、専門学校や大学で長年にわたって講義やカウンセリングを担当しつつけていても、自分の子どもを育ててきたとしても、教える側に立った指導法を研鑽しているに変わりありません。
教え方のコツを掴むには、教えられる側に立って教えてもうことが一番だと思っています。
全く出来ない状態から出来るようになるまでに、指導して下さる方が何をどう伝えてくださったか?
出来ない状態が続いているとき、落ち込んだ時に、指導する人からどのように声をかけてもらうことで、その状態から抜け出すことが出来たか?
それを身を持って実感していないと、相手の立場に立った指導は出来ないんじゃないか?と思っていました。
ですから、時々、自分が教えられる側に身を置いて、自分自身の指導の在り方ややり方を見直し改善するように努めています。
最初の体験は、40歳の時。ドラムが叩けるようになりたいと思って音楽教室に通い始めたことです。ここで出逢った先生に、指導する上で大切なことを再確認させてもらいました。
私より10歳若い先生で、19歳のときにインストラクターとなり、100人以上の方にドラムの指導を行っておられました。
ドラムは10代の頃、ちょっとだけ叩いた経験がありますが、基礎からきちんと教えてもらうのは初めてのことでした。レッスンは、毎回基本となるテクニックの練習を行って、ある程度それが出来るようになったらそのテクニックが含まれている曲をマスターすることになっていました。基本をきちんとマスターするには地道な練習が必要です。簡単なものばかりではなく苦手なものもたくさんありました。
でも、苦手なものをそのままにしていたら、次に進むことはできません。ひたすら練習あるのみです。最初は、長く苦しいレッスンが続きました。
先生は、喜怒哀楽をあまり出されない方で、私がドラムを叩いている間静かに見守っておられました。上手く出来ているときも、上手く出来ていないときも、表情を変えずにずっと見ておられるのです。上手く出来ていないときは、情けなくて恥ずかしくて途中で叩くのを止めてしまうのですが、先生はその都度、たった一言「続けて下さい」とおっしゃいます。私はその言葉に従ってまた叩き始めます。
『なんでこんなことが出来ないの?』って思われているんじゃないだろうか?
『年甲斐もなくドラムなんて…』と思われてるんじゃないだろうか?
そういう気持ちが情けなさや恥ずかしさを生んでいたのだと思いますが、先生の前ではそんなことを考えずに、ひたすら出来るまで叩き続けようと思えるようになりました。
また、私が叩いている様子をじっと観察されていたのは、どのようにアドバイスをしたらスムーズに演奏できるようになるかを見極めておられたからでした。そして、「○○○○してみてください」と実に具体的にわかりやすくアドバイスをして下さり、そのアドバイス通りやってみると「あっ!そういうことか!」と思うくらいスムーズに出来るようになったこともけっこうありました。
また、やってもやってもなかなかマスター出来ないときは、
「大西さん、今、とってもしんどい時期かもしれないですね。でも、最初のことを思い出してみて下さい。ここまで出来るようになったんですよ。そして、大西さんがドラムを始めた動機を思い出してみて下さい!」
と励ましてくださいました。
「この前にも言ったように」とか「何度も言っていますが」なんて言葉は一切出てこなかったのです。まさに教え方のプロでした。
随分レッスンに通った頃、「先生の説明がとってもわかりやすくて、“もう少し頑張ってみよう”と思えるような教え方で勉強になりました」と伝えたことがありました。
すると先生は、「私自身がドラムが全然叩けませんでしたからね。出来ないことが出来るようになる中で学んだことがたくさんありました。だから、皆さんと同じ気持ちが共有出来ているんじゃないかと思いますよ」とおっしゃっていました。
ドラムは趣味として「出来ないこと」を「出来る」に引き上げた体験でしたが、次は、趣味ではなく仕事の現場で「出来ないこと」を「出来る」に引き上げるために必要なことを学びたい!とずっと思っていました。そのチャンスが、今回 巡ってきたのです。
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