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ロバート・ノージック「アナーキー・国家・ユートピア」

ロバート・ノージック「アナーキー・国家・ユートピア」

P1序
国家についての本書結論:暴力・盗み・詐欺からの保護、契約の執行などに限定される最小国家は正当とみなされる。それ以上の拡張国家はすべて特定のことを行うよう強制されないという人々の権利を侵害し、不当であるとみなされる。

P8:非政治的な状態から出発して、そこから政治的状態が如何にして生じるか、または非政治的に記述された政治状態から出発して、その非政治的記述から諸々の政治的特徴を演繹していく。

スミスの労働価値説
アダム・スミスは『国富論』で「労働こそは、すべての物にたいして支払われた最初の代価、本来の購買代金であった。世界のすべての富が最初に購買されたのは、金や銀によってではなく、労働によってである」と述べ[4]、労働価値説を確立した。ただしスミスの見解には二つの観点が混在していた[5]。彼は「あらゆる物の真の価格、すなわち、どんな物でも人がそれを獲得しようとするにあたって本当に費やすものは、それを獲得するための労苦と骨折りである」

正当な国家の可能性

ロージックが最小国家を導き出す過程

①自然状態
議論の出発点は、ジョン・ロックの『市民政府論』に描かれたような自然状態
そこでは各人は、生命・自由・財産に対する権利を持っている。自然状態は概ね平和な状態である。
※しかし、紛争が起こった場合、報復合戦が起こる。個人の権利を主張できない場合が多々ある。
②複数の保護協会の設立
このような不都合を解消するために、人々は共同して保護協会を作る。
協会はメンバーの権利を防衛する。侵害された場合、処罰や賠償をし、次第に組織化する。
③支配的保護協会の台頭
始めは同一地域内に複数の保護協会が共存するが、弱い保護協会は次第に淘汰され、いには一つの協会が支配的な地位を占めるにいたる。

④超最小国家の出現
支配的協会に加入していない独立人にも、自己が正しいと思う手続に従って自己の権利を保護するために実力行使をする権利はある。言い換えれば、信頼性のない手続を自分に対して適用して来る者を処罰する

⑤最小国家の成立
一般に、権利侵害行為そのものではないが、他人の権利を侵害する危険性があり、ある人がこの行為をする時には特にその危険度が高いという理由でその人に対してその行為を禁止する場合には、自分の安全性を高めるためにこの禁止を行う者たちは、禁止を受けた人に対して与える差別的不利益につき賠償しなければならない。
⑥以上の過程はノージックによれば、誰が意図したのでもない「見えざる手」によって進行する。
ロックとの違い
市民政府論「全員の同意」によって政治社会が形成されると唱えられているが、これだとアナキストの存在がネックになって国家を成立することができない。
※ロックは「暗黙の同意」という概念を持ち出してこれを切り抜ける。

ロックの自然状態:ジョン・ロック『統治二論』
第二編第2章八:自然状態においては、各人が各人に対する権力をもつようになる。~つまり、賠償と抑止との二つだけが、ある人が他者に対して、われわれが刑罰と呼ぶ危害を合法的に加えることができる理由をなす。
→よって、侵害者は人類にとって危険な存在となる。
第二編第2章十七:他人を自分の絶対的な権力の下に置こうと試みる者は、それによって、自分自身をその相手との戦争状態に置くことになる。それは、相手の生命を奪おうとする意図の宣言と理解されるべき。
→つまり、権威を上にもたない状態がロックの自然状態。それに対して「万人が万人のために闘争」状態にあるとしたのがトマス・ホッブス。

→同意による国家の正当化はありうるのか?
ロックの社会契約説は同意理論と自然権論の結合
①個人は自然権を持ち、それを保護するために政府が設立される
②政府は一致の同意によって正当に樹立される
③政府が正当な機能を越えた場合は人民に抵抗権がある
という構造になっている。
→内的に整合していない可能性があるのでは?

①と②は両立しない。同意が正当性の媒体であるなら、諸個人が自発的に自然権を組織的に侵害する政府に同意することも考えられる。
→政府が自然権を侵害しても個人で同意する人が出てくる、という自由が残る。
→「政府Xは一致によって設立されたから正当であり/政府Xは自然権を侵害しているから正当でない」という矛盾に陥る。

ノージックの「見えざる手」理論は、こうしたアポリアを回避するのには有効。
つまり、個人の同意如何にかかわらず国家は生じてしまう。

<支配的保護期間はいかに行動しうるか>
P163~164
最初は地理的区域内で複数の保護協会が存立するが徐々に競争によってそのサービスの 質は向上し、寡占や独占が進み1つの協会が 1 つの地域を支配するようになるだろう。ク ライアントにとっても多くの顧客を有する保護協会と契約した方がより手厚いサービスを 受けられるため、ますます独占は進む。こうして支配的保護協会が誕生する。 しかし他の個人を侵害する外道機関も現れるかもしれない。もしこの外道機関がもっと もらしい正義の主張を行わずにただ強奪を行うだけであれば人々は自分たちをそれのクラ イアントではなく犠牲者とみなすようになるだろう。そのため外道機関が支配的保護協会 になることはないと考えられる。

仮に、多数の保護協会や外道機関がまだ存在するとして
個人と支配的保護協会が契約をしておけば、クライアントとして保護協会のその個人の権利を保護する。
その際、問題となるのが、他の保護協会や外道機関が信頼できる手続きをとってきた場合である。その際、保護期間はその者による有罪判決を受け入れ、クライアントが無実であるとかその可能性があるとう前提に立ってそれに介入することができなくなる。
P163~164
もし保護協会がその手続きを信頼できないと見離すか、それの信頼性如何を知らないなら、保護期間はクライアントの有罪を推定する必要はなく、自分自身で問題を調査することができる。

→以上のように一つの支配的保護期間がその地域の契約について請け負うことになる。


P164
虚偽の無実申立に対する一種の抑制
保護協会が他の協会や外部機関から当協会のクライアントの有罪判決を迫られたとして、そのクライアントが無罪を主張している場合、クライアントの意向に沿って調査することが予測されるが、結果クライアントの虚偽が発覚した場合、その差別的不利益をクライアントに賠償できる。
※問題点として、この虚偽の無実申立に対する抑制機構は、無実ではあるが反対の証拠が圧倒的に多いような人々が、無実を主張することを抑制するだろう。
無実を主張しても合理的に有罪と判決される可能性が高いため、さらにその虚偽についての賠償まで背負わされる可能性があるため。
→その場合、合理的疑いの余地なく有罪と認定された者だけ、偽証罪で罰すべきという法を付け加えるべき。

P166
保護期間は正義を信頼性のないやり方で実行する者を、すべての危険行為の遂行者に対すると同じように取り扱うことができる
保護協会の危険行為の対応(第四章)
①禁止、協会侵害を受けた者に対する賠償
②協会侵害の危険を蒙ったすべての者に対する賠償

Wikipedia

ノージックは、国家の樹立に対しては、社会契約に基づいた構成物ではなく、スミスが論じた市場での神の見えざる手と同様に、意図しない自然な結果として発生したものであると論じる。
また、彼は、諸々の個人が相互に権利を保護するための協会を設立し、これは警備会社と保険会社を兼ね備えるような組織となると考える。そして、この権利保護協会は、最初は複数の協会が並存しているが、市場競争を経て独占状態が発生することになる。この支配的な保護協会は、他者に依存せずに自らの権利を実現する個人に対しては、個人の自由な行為を制約する代わりに補償を行うことで、無料で保護のサービスを提供する。こうして、支配的保護協会は、領域内において全ての住民の権利を保護する最小国家が成立することになる。
ノージックは、最小国家の道徳的な正当化を行い、財産の再配分を行う福祉国家に対して批判している。ノージックによれば、このような再配分は、特定の人々の権原を侵害しており、彼らを他の人々のために利用する行為である。なぜなら、人間の身体と労働は、本人の所有物であるためである。このノージックの権原理論は、取得の正義に関する原理、移転の正義に関する原理、そして過去の不正義の矯正における正義の三つの原理から成立している。個人の権原を侵害しない最小国家のみが正当化しうる国家である。
また、ノージックは、原理主義的なアナキズムに反対し、ミナキズムを実現可能なユートピアとして論じる。社会の複雑性と人間の人生目標の多様性を前提とするならば、ユートピアには人生の理想を試行する多種多様な共同体が存在しなければならない。そして、人々はそれらに参加と脱退を繰り返すことで淘汰される。人々は、独自の目標を達成するために、各々の共同体を結成する自由を持っている。そして、ノージックによれば、このような枠組みこそがユートピアのあり方である。

参考文献
正義論としてのリバタリアニズム


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