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人類史のなかの定住革命

遊動生活から定住生活へ

人類の祖先が誕生したのは400万年~700万年前。現生人類 = ホモ・サピエンスは20万年前にアフリカに生まれた。その数百名ほどが約6万年前にアフリカを出て地球上に散らばったと考えられている。
サルや類人猿などの高等霊長類は、100頭程度の社会集団を形成し、その集団に固有の一定の地域を毎日のように泊まり場を移りながら生活している。人類も出現してからの数百万年を遊動生活者として生きてきた。
およそ一万年前、人類は遊動生活を捨てて定住生活を始めたと言われている。

「農耕の開始によって定住が始まり、文明が生まれ国家が誕生した」という従来の歴史観はかんぜんに覆された【橘玲の日々刻々】

ここで従来の歴史観を示しておくと、農耕の開始によって定住が始まり、文明が生まれ国家が誕生したという通説である。つまり、人類史の展開では、農耕による食料生産が始まったことが何より重要視されており、その後、町や都市が発生し、道具や装置が複雑になり、社会が分業化され改装されていったという歴史観である。
しかし、定住化現象の人類史的な意味についてはこれまで議論されることは少なく、食料生産よりも、定住生活の持つ意味とその出現過程を問うことが、ここ一万年の人類史の特異な様相を理解するのより重要なことではないだろうか。

我々に今は想像するしかない遊動生活者がなぜか定住を望んでいるかのように、この考えの発想には定住することが当たり前であったという見方が含まれている
しかし、人類は数百万年前に出現したにも関わらず、定住生活を営んでいるのはこの一万年だけである。とすれば、ホモ・サピエンスは、人類が獲得してきた肉体的、心理的、社会的能力や行動様式は遊動生活にこそ適しているのではないだろうか。
少なくとも一年前までは遊動生活をすることが当たり前だったのであり、そのような遊動生活の伝統を捨てて定住することになった、このことはむしろ遊動生活を維持することが破綻した結果として出現したのではないかという視点が成立する。

カラハリ砂漠に住むブッシュマン

遊動の条件
①キャンプサイズの調節のため ── 食物の分布や密度の季節変化
②大型獣の協同狩猟、儀礼、行事のため
③病気、ケガに対して安全性を高めるため
④必要物資の調達・交換の為
⑤友人、親族の訪問や配偶者を探すなど
⑥不和や緊張の解消

狩猟採集民や遊牧民がキャンプのメンバーを離散集合させるのは多くの民族に認められている。

以上、自然を最も有効利用するために
大きな理由としては、人が定住することでその土地が汚れてしまう。つまり環境汚染の防止のために遊動していた。遊動生活をしている人類も、我々定住生活をしてきた一万年の人類も、食べ物や残りかす、排泄物のゆくえについてはほとんど注意を払わない。遊動生活の大きな利点は、この環境汚染をキャンプの移動によって消去できるようになる。
キャンプ移動のあいだ周囲の植物を人間が食べ続ければその植物生活は一様に変化してしまい、生態系を変えてしまう。

マレー半島のセマン

数日間連続してキャンプを移動したセマンの民族は、移動の距離が200メートルの時もあったことを観察している。このようなキャンプの移動に明確な理由を求めることは困難であり、遊動民は明白な理由がない場合でも「なんとなく」キャンプを移動させてしまうことがあるようである。

このことは何を意味しているのだろうか?

人類学的観点、または生態学的観点からみると、動物には備わった能力を発揮しようという強い欲求がある。
それは、身体を動かす、コミュニケーションをとるということ。
巨大化した大脳に新鮮な情報を送り込むことで、備わった情報処理能力を適度に働かせようとすることは、この強い欲求と決して矛盾するものではない。もし新鮮な情報の供給が停止することになれば、大脳は変調をきたして不快感を感じることになる。現代人のいうところの退屈というのがこれであろう。
キャンプを移動させていれば、この退屈はなくなる。
キャンプを移動させれば、キャンプを設営し、移動してきた場所の周囲を探索し、またその場についての古い記憶を呼び覚まされることによって、多様の新鮮な情報が大脳を激しく駆けめぐることになるだろう。


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