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秋分 第四十七候 蟄虫坏戸

秋分 第四十七候は、むしかくれてとをふさぐ。 期間は、9月28日から10月2日。
夏、活発に活動していた虫たちが、徐々に冷えてきたあたりの様子に、地中に姿を隠す頃ということだそうです。

タイではまだ雨季の後半で、朝夕こそ空気はひんやりしますが、昼はまだ30度くらいあり、花もあちこちで魅惑的な香りを放っているので、大きな蝶たちが賑やかに舞っていますし、ちょっと怖い蚊も油断すると集まってきますし、夜の虫の声も盛んです。隠れて戸を塞ぐという風ではないかもしれません。

そんな中、少しだけそんな風情があるのは雨季になると現れ、雨季の終わりとともに姿を消すカブトムシでしょうか。
深夜、次の世代を残すためのパートナーを求めて飛び、力尽きるのか、朝になると路上はテラスに動かなくなった雄の姿を見かけます。
また、庭のコンポストで、雌が半ば土になりかけ、発酵熱でふんわりと暖かい芝の破片の山の中へゆっくりと潜っていきます。きっと、充分な深さまで潜ったら卵を産み、自分はそこで土へ還ってゆくのでしょう。

一方、北タイの生活の中、雨季でカブトムシと言えば、「闘兜虫(メンクワン)」です。
闘魚や闘鶏のように、カブトムシを戦わせ、本当はいけないことですが、こっそりお金を賭けたりする村の男性たちの雨季の楽しみです。
とはいえ、お金をかけなければそれは禁じられているわけではなく、あちらこちらに、皮を向いたサトウキビにしっかりしがみつき、甘い樹液を吸っているカブトムシを売る屋台が出るのは、北タイの雨季の風物詩。大人でなくても、男の子たちがカブトムシを買って、道端で闘わせているのを見かけたりします。

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写真のように、小さな男の子たちが遊んでいる様子は、のどかで可愛らしいですが、大人の男たちのそれとなるとちょっと違います。しかもそれが、賭け事となると。

では、その大人の闘兜虫がどんな風かと言えば、中に雌を入れた竹の小さな鞍馬の上で闘うカブトムシと、それを見つめて汗を浮かべ、何十人もがみっちりと肩を寄せ合って、腕を振り上げ、紅潮した顔で叫んで、なんとも暑苦しい様子となります。
その暑苦しい人々を、細かく観察していくと、鞍馬の傍らにはカブトムシのオーナーである、2人のおじさんが細い棒で鞍馬を叩いてそれぞれ自分のカブトムシを、闘うようにあおり立てています。
その傍らには、賭けを仕切るおじさんが、まるでディアハンターの、ロシアンルーレットの場面のような狂躁感を漂わせ、シャツの胸ポケットをお札で溢れそうにしながらなお、血がのぼった観客からバーツ札を預かりながらやっぱり叫んでいます。そのまわりでギャラリーたちは、小さな虫に、そしてそのオーナーに、賭けの胴元を中心に円陣となって拳をあげて叫び、あたかも小さなカブトムシの戦いに数十人の大の大人がトランスに近いような熱をあげているような大変な雰囲気になるのです。

老いも若きも、男たちがカブトムシ遊びに血道をあげているかたわらで、幸いにもその舞台にあげられなかったカブトムシたちは、しずかに土へと還っていきます。

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