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晴明 第十五候 虹始見


毎年四月半ば頃にやってくるタイ正月「ソンクラーン」は、今は四月十二日から十四日と定められていますが、本来はその年、白羊宮に太陽が移る時を新年としたのだそうです。
ソンクラーン自体は、サンスクリット語で「通過する」という意味で、太陽が次の星座の宮に移ることを古代インドの暦で「ソンクラーン」と言い、中でも白羊宮へのソンクラーンが、季節の節目として特別なものとされたのだとか。
そういえば、インドやネパールでもホーリー祭が、インドネシアにもこの節目を祝うお祭りがあります。
またミャンマーや雲南にもあるこの時期の水掛け祭りの習慣を思うと、タイという場所にはいくつもの文化が綾織りのように混淆しているようです。

ともあれ、暑季であり、最高気温は35度前後と、春や晴明というにはいささか太陽の力が強すぎる感もなきにしもあらずですが、北アジアが春の深まりとともに、空気に水気が増していくように、北タイでは、ソンクラーンの頃といえば、暑季の折り返し点であり、雨季の気配が少しずつ兆す頃。目前にひかえた水の季節の先触れがもたらされるのです。実際、ソンクラーンには雨が降るとチェンマイの人たちは良く言います。
また、雨季が終わって寒季を迎える頃の、夜飛ばす熱気球でも有名なお祭り「ロイクラトーン」も、北タイでは収穫祭やはり季節の端境で、収穫を祝ったりのお祭り。やはり雨が降るというジンクスがありますが、こちらは雨季の雨の名残でしょう。
ソンクラーンは本来は仏教とは関係のないお祭りですが、次第にさまざまな習慣が混淆し、今では日本の花祭りのように、お寺で仏像に香りの良い水をかけたり、輿にのせて仏像を街へ担ぎ出し、やはり水掛けをしたりします。空もまるで聖なる像にもっとも貴い水を降らしているように見えなくもありません。

今年もその言い伝えどおり、あるいはそれ以上にしっかりと、まるで雨季入りしてしまったかのように、ソンクラーン前日から雨が降り出し、第十五候の頃は連日雨模様。朝は例年よりも低めで20度を割る日さえあって、まだ布団をかけて眠るのが心地よいくらい。この季節になれば冷たいタイルの上に寝転ぶのがお気に入りの白いふわふわが、寒い季節のようにソファの上を占領してしまうほどのひんやりぶりでした。

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ここ数年は、昼の最高気温の高さはもちろん、すっかり下がらなくなってしまった夜の蒸し暑さや小雨に苦しめられましたが、今年は久しぶりにかつてのようなエアコン入らずのチェンマイの涼しさが朝夕にあります。人間の活動が控えめになったことで、少し温暖化が抑えられたのか、それともこれからますます荒ぶる気候変動のたまさかの穏やかさなのかはわかりませんが。

今年の雨季は数十年ぶりの降水量の多さとなるという、気象庁の長期予測もあります。
果たしてどんな水の季節が来るのでしょうか。ソンクラーンの雨は、この国らしくなく、終日曇り空の中。雨季ならではのスコールとは全く違う降り方で、そんな空模様でしたから、スコールの後ならば必ず現れる虹も見られずじまいでした。ちょっと待ち人来らずの気分です。雨季まであともうひと月もないのですが。

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