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秋分 第四十六候 雷乃収声

いよいよ二十四節気は秋分となりました。その初候はかみなりすなわちこえをおさむ。期間は9月22日から27日。
前日の21日は中秋節なうえに珍しくちょうど満月。それを皮切りにお彼岸だったり、昼夜の時間が同じになる秋分の日があったり、節目が重なる時期です。とはいえ本当に昼夜の長さがほぼ同じになるのは今年は29日頃。暦と本当の天体の運行は少しずれていたりしますし、体感で夜明けが遅くなっていること、日の入りが早まって、どことなしすがれた秋の実感があるのも実際の天体の運行に則している気がします。暦はその先触れなのかもしれません。

祖先を供養するといえば北タイにも8月半ば(今年は13日)に、祖先の霊を迎えて饗応するお盆の儀式がありますし、お彼岸のようにそして9月から10月の雨季明け直前の頃、つまり雷の声もおさまり、スコールも落ち着きだす頃の満月の前後に、やはり自身や祖先、一族の功徳を積むためにお寺に寄進をする「タンクワイサラク」というお祭りがあります。

「タンクワイサラク」は特に北タイのランナー文化ならではの行事だそうで、9月から10月の農繁期が終わった頃、現金や電化製品から衣類や食器、食品に洗剤などなど、高価なものからささやかなものまで、それは沢山の品物をお寺へ寄進しますが、面白いのはお坊様たちへの分配の仕方です。
仏教説話に基づいた方法だというのですが、くじ引きで奉納されたものの何がどのお坊様が手にするか決まるのです。どうやらその人のもつカルマによってその時々に手にするものが決まる、カルマによって人が負っているものは皆等しいから、長い目で見れば平等になるのだと考えられているからだだとか。
そして集まった品物はお寺を通して貧しい人にも分配されるのだそうで、収穫によって得られた富をいったんお寺へ集め、その地域全体で分け合い、困っている人にも分配し、互いを助け合う役割も果たしているのだそうです。いかにも優しいタイらしい感覚です。

このお祭り、地域によってそれぞれ異なる個性があり、いずれも美しく素敵なのですが、圧巻と言ったらランプーンのお寺、ワット・ハリプンチャイで行われるものでしょう。

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近隣の地区ごとに捧げ物を大きな山車のような形(実際は高杯に贈り物をもりつけた形が素ですが、大きすぎるために山車に見えてしまうのです)に仕立てたものをお寺の境内に設営するのですが(写真の赤や青の塔のようなものは紙や布でできていて、その間に捧げ物も一緒に吊り下げられています)、植物や紙を用いて作るその飾り付けは、北タイの手工芸の香りがしてなんとも素朴でいて華やか。(下の写真の神獣ナーガは、花やバナナの茎や葉など植物の葉を折り畳んだものでできています。)

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その間を、民族衣装を着て幸せそうにそぞろ歩いたり参拝する人たちや、くじ引きにちょっぴり胸を躍らせているお坊様たちの様子を見ていると、なんだか「天竺のお祭り」という言葉がいつも思い浮かびます。
根底に誰もが等しいこと、助け合うやさしく敬虔な気持ちがあって、けれどクジ引きという遊び心もあり、それが美しい色や形と賑わいになったこの古いお祭り、熱気球で有名になりすぎて、爆竹と人混みで騒然としてしまったロイクラトーンよりも北タイらしさに溢れている気がします。

昨年、今年はやはりパンデミックの影響で、このワット・ハリプンチャイに限らず、この祝祭的な儀式も規模が縮小されたり、寄進だけに簡素化されてしまいましたが、来年こそは、スコールに洗われて夾雑物のない澄み切った青空や満月の下に、贈り物の装飾の鮮やかな色が乱舞する中を、美しく装った人たちが微笑しながら行き交う姿を見たいと、美しいけれどちょっと寂しい今年の月の下で願わずにはおれません。

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