アニメ『風が強く吹いている』- 敗者の美学
2019年ごろ。深夜にちょっとテレビをつけてみたらとても静かなアニメが放送されていました。
心にずっしりと響く作品ですが、基本的にはコメディタッチなので笑えるシーンが多いです。
箱根駅伝がテーマで、ランニング・シーンは疾走感にあふれます。
ちょっと見るつもりが気づいたら毎週見ていました。
アニメは全23話。原作は、三浦しをんさん。
クレジットで名前を見つけた時、ドバーッと鳥肌が立ちました。
あらすじ
寛政大学のとある寮に住む9人。
この寮に住む清瀬灰二の誘いで、俊足の蔵原蔵原走がやってくる。
ハイジには大きな夢がある。
箱根駅伝に出場すること。
もともとハイジは将来を期待される長距離選手だったが、ケガで諦めるしかなかった。でも夢を捨てることができず、リハビリで走れるまでに回復。それと同時にやっていたのが、駅伝出場者候補を集めること。ハイジが駅伝の素質のある人物を寮に集めていた。それを知らない寮生たち。
ハイジは、この寮の食事や掃除、雑用すべてをひとりでこなし、今までみんなに貢献していた。その貢献に報いるために全員が立ち上がる。
一方、カケルは将来を期待される陸上選手だったが、ある事件をきっかけに陸上から距離を置いていた。カケルの入寮で箱根駅伝出場に現実味が出る。
この2人を中心に、個性あふれる10人で箱根駅伝を目指す。
日本特有なのか
箱根駅伝は日本で長距離をしている人にとってある意味最終地点です。陸上選手という仕事が確立されていない日本では、大学で一区切りを付ける選手が大半です。そんな彼らが最後に挑む箱根駅伝。
全力で挑む姿はかっこよく「敗者の美」をこんなにも感じる競技はないと思います。優勝するチームよりも、負けたチームの方が魅力的に輝く競技は日本特有かもしれないです。
箱根駅伝で思い出されるのは、途中でリタイアする選手や、たすきがつながらなかったシーン。泣き崩れるシーン。
箱根駅伝は20チームほどの大学が出場し、1チーム10人、それぞれが20kmほどを走ります。
20kmを1時間ほどで走る選手たち。その1時間にいろんなドラマが詰まっていて、人間性まで見えてしまうのが箱根駅伝です。
映画とアニメ
2006年に作品が発表されてから様々な作品が発表されています。
映画版
監督・脚本:大森寿美男
日テレのバックアップのもと、たぶん箱根駅伝のシーンは実際の映像を使ってスケールが大きいです。ゴール地点の大手町もしっかり映っています。小出恵介、林遣都が話の軸になっています。
素人の混じるチームが出場者ギリギリの10人、たった1年で挑戦するストーリーは現実味がありません。この設定に批判的な人も多みたいですが、僕はこの危うい設定ですらすんなり受け入れてしまいました。
人物がとても魅力的に描かれているので、ストーリーに納得してしまいました。
人の持つ魅力に気づかせてくれる作品です。
実力者が集まったからイイわけではなく、誰と一緒にやるかが実は大事だったり……。結局、最後は「人」なんだな、と思う作品でした。
ハイジの圧倒的な魅力
ハイジはリーダーシップがあり、客観的な視点を持っています。映画版では、小出恵介さん、アニメ版では豊永利行さんが演じています。この2人がマジでいいです。
言葉遣いがすごく丁寧で、品の良いしゃべり方をします。ふつう、丁寧語や敬語を話すとよそよそしさがでます。でもなぜか、ハイジからは親近感が感じられます。
特徴的な言葉として「きみ」という言葉をハイジはよく使います。この言い方に嫌味がまったくありません。これは俳優2人によるものが大きいと思います。
ハイジの振る舞いはとても魅力的です。
でもこれにはちゃんと理由があって「本人が大きな挫折を経験している」ということが関係しています。
映画でのハイジの特徴的なシーン
なかなか記録が伸びない柏崎茜(あだ名:王子)。走力が足りずみんなの足をひっぱってしまいます。
箱根駅伝は10人の実力が必要なので、タイムが上がらない王子にイライラするカケル。カケルはきつい練習をするのが当たり前で、箱根駅伝に挑戦する厳しさも知っています。
だからこそキツくあたります。
この王子をカバーする姿が、ハイジのリーダーとしての威光を放っています。
男気。
アニメ版はさらにオススメ
映画版もいいですが、映画版の唯一の弱点はハイジとカケルにしかスポットライトが当たっていないことです。
アニメ版は23話あり、ちゃんと10人のストーリーが語られます。
どのスポーツでもそうですが、花形選手に注目が集まります。ですが、今回の10人はそもそも陸上を志していたわけではないので、似ているキャラクターが集まっているわけではありません。
それぞれに魅力的なストーリーが詰まっています。
アニメではこの10人のストーリーが語られているので、オススメです。
また、テーマソングもとてもいいです。特に、向井太一さんの「道」。テーマにぴったりです。
走る表現がアニメ版ではとてもおもしろく描かれています。映像マジックです!
小説から、映画、舞台、漫画、ラジオドラマ、アニメにまで作られているとても魅力的な作品です。
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