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5分間の休息

 手の指を二本重ね会社の同期に向けてタバコを吸う仕草をする。仕事の小休止の度に僕らは喫煙所へ、のそのそと足を運ぶ。吸うのは2人の時もあれば気づいたら6人で紫煙をくゆらせているなんてこともある。仕事中は煙の匂いが染みつくのが望ましくないと思い電子タバコを吸い始めた。電子の良いところは5分間きっちり吸えることにある。美味さは紙より劣るが、まあ悪くない感じ。他の人たちも元々は紙巻きタバコを吸っていたが皆同じような理由で機械を握りしめて気だるそうに吸っている。

喫煙所で話す内容といえば研修の内容がどうとか、同期の誰々が可愛いだとかたわいもない感じ。自分はというとハイライトは労働者階級の味がしていいだとか煙草について話すもので、いつの間にかヤニ語り二キという愛称がついてしまった。タバコについて語ることは楽しい。

 前にカラオケに行った時、歌い疲れて同期2人で喫煙所に行った。2人で吸ってたら20代くらいの女の人が入ってきた。知り合いはその人に話しかけ「タバコの交換しません?」と言う。相手の人も応じてくれて図らずともヤニ交換をする形に。紙は自分だけ吸ってたので自前のハイメンとマルボロを交換。マルボロ久しぶりに吸うなぁと思い大学2年の頃の懐かしさと共に煙で昇華してやる。マルボロ美味いっすねとか言いながらここでも所謂タバコミュニケーションが発生する。知り合いに、さっきみたいに話しかけてんのとか聞いてみたら、まあたまにかな、と返ってくる。一歩間違えればナンパまがいだがコミュニケーションの形として、こういうのもあるんだなあと少し感心

 元々会社の同期と仲良くなったのはタバコのおかげでもある。マスクを外し箱からタバコを取り出し火をつけて吸う。その時僕たちは無防備な状態にある。握手も私は何も持っていません安全ですよといった意味を持つらしい。つまり喫煙者にとって吸うことは握手なのだ。そして吸ってる時間は何も考えなくていい。頭を真っ白にして過ぎ行く時間を感じるだけ。

  そうして頭を空っぽにしながら、とぼとぼと職場へと向かい、今日もまた頑張りますかと決意を固める。昔、柳田国男がハレとケについて語っていたことがある。日常と非日常、オンとオフがあるから人は頑張れる。今の僕たちは煙草を吸うために働いてるのか働くために吸っているのかわからなくなってしまったわけだ。いつまでこの生活が続くのでしょうかね


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