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七転八起の末に

昨年度、10回にわたってデーリー東北の「ふみづくえ」に投稿した編集長のエッセイを紹介します。


我が家の恒例行事となっている初日の出を拝んでから早いもので2週間が経とうとしている。今年も元旦の早朝には、ご来光スポットとして親しまれる久慈港半崎地区の海岸沿いに車列が連なり、駆け付けた市民が1年間幸せに過ごせるようご来光に願いを込めた。私も家族の健康と充実した仕事ができるよう静かに手を合わせた。日の出に手を合わせるほんの数時間前、私はテレビに向かって手を合わせていた。


大晦日のテレビ番組といえば「紅白歌合戦」やダウンタウンの「笑ってはいけないシリーズ」など毎年恒例の特別番組がお茶の間を楽しませてきたが、その裏で熱狂的ファンから熱い眼差しが注がれてきたのが格闘技の大型特番だ。

20年ほど前から始まった大晦日の格闘技中継は、それまでバラエティが中心だった番組構成を一変させた。リビングで紅白歌合戦を楽しむ家族を尻目に、すれっからしの格闘技ファンは、白熱した試合の連続に選手と一緒になって感情を爆発させた後、心地よい充実感とともに新たな年を迎えている。

そんな熱狂の坩堝と化す大晦日のリングに、久慈市出身の若武者が降り立ったのは2年前の事だった。

久慈市出身の扇久保博正選手は2018年から総合格闘技の国内最高峰イベント「RIZIN(ライジン)」に参戦。どんなに苦しくても攻撃の姿勢を崩さない、何度辛酸を舐めさせられても這い上がる、そんな無骨なファイトスタイルに多くの格闘技ファンが胸打たれている。

昨年末、扇久保選手は2年前に続き2度目の大晦日大会に参戦。半年前から始まったバンタム級の王者を決める戦いに挑んだ。

1日に2試合を行う過酷なスケジュールとなったが、扇久保選手はトーナメントの準決勝とこの日の大トリとなる優勝決定戦を制し、地元ファンの悲願を見事に叶えてくれた。さらに、扇久保選手はかねてから交際中の恋人にリング上で公開プロポーズを演じ王者の栄冠だけではなく、人生の伴侶まで手に入れてしまった。テレビの向こうで幸せいっぱいの笑顔を広げる扇久保選手にこちらの感動も2倍となったのは言うまでもない。

そんな熱きファイトで久慈の名を全国に発信している扇久保選手を後押ししようと、昨年11月に地元後援会が発足した。後援会の会長には久慈市内で総合格闘技の道場「ラッソーナ」を運営する鹿糠智樹さんが就任。鹿糠さんは扇久保選手にとって最初の師匠で、格闘家としての道を作った恩人にあたる。

現在、岩手県内と青森県三八地域在住者を対象に会員を募集中で、会員から寄せられた会費は、扇久保選手のサポート費用などに充てられる。

扇久保選手は帰省する際、講演会やトークイベントに登壇し周囲への感謝を忘れず前向きに生きることの大切さを示してきた。野球を知らない人でも大谷翔平は知っている、扇久保選手もそんな岩手が誇る英雄としてこれまで以上に親しまれるよう、微力ではあるが弊誌でも引き続き後押ししていきたい。(2022年1月12日掲載)

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