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落選したエッセイ「交尾できない、ただの大飯食らいは邪魔」

「はちみつ」に関するエッセイ落選してたので載せます。
今後、落選したエッセイをちょこちょこ載せていこうと思います。


「ドローンと呼ばれて……」

琥珀色の甘い誘惑、とろける食感。
蜂蜜を紅茶に入れて飲む優雅な午後ティーは、乙女なら一度は憧れる一杯。
だが、蜂蜜は高価で、私のような貧乏人は口にすることができなかった。
手に入らないとなると、欲望はますます膨らむ。なんとか蜂蜜を手に入れようと、蜂の巣を追い求め、古い屋敷の軒下を覗いたりもした。だが、見つけたからといってどうやって蜂蜜を取り出せばいいのか、わからない。
そもそも、蜂蜜とはなんぞや。私は何も知らなかった。当時はグーグルのようなツールもなく、蜂蜜への探究心は調べる面倒臭さが勝って、三日坊主で消え失せた。

ようやく、大人になって再び蜂蜜が気になった私は、早速ミツバチについて検索。ウェブにはミツバチの雄は、ドローンと呼ばれ、なまけものや居候の意味を指すと書いてあった。働き蜂の雌たちと違い、なにもせず、ただ食って寝るだけの存在だからだそうだ。
そのせいで、人間のニートとも比べられていた。
だが、あまりに雄蜂に失礼だろう。
ドローンという仇名も誰が付けたのかしらないが、全くもって酷い。
ニートは交尾できなくても食わせてくれる親や他の誰かがいれば餓死は免れる。
だが、雄蜂は女王蜂と交尾して死ぬか、交尾できずに飢死にするか、過酷な二択の運命しかないのだ。
自ら稼がず、親に食わしてもらい、結婚もせず、子孫も残さない人間のニートと比べるのは腹違いだ。
人は、自分で道を選べるではないか。習性から悲運しか選択できない雄蜂とは違う。

 ページをスクロールしていくと、秋になって巣を追い出され、息絶えた雄蜂が横たわる画像が出てきた。

 「交尾できない、ただの大飯食らいは邪魔」

 私はちょっぴりセンチメンタルな気分になり、雄蜂の生態が記されたページを閉じた。今日の午後は、ちょっと贅沢をしておいしい蜂蜜紅茶を飲んでみようかな。私は財布を掴んで寒空の中、スーパーまで自転車を走らせた。額にあたる風が冷たかったが、甘い蜂蜜を想うと気分がほっと温もった。冬は、もうすぐそこまで来ている。

運命……o(TヘTo) 

……まぁ、そりゃ落選するわな(笑)


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