上司と後輩(短編)

俺の貴重な連休が台風と喧しいやつらのせいでことごとく潰されている…腹立たしい。はあ。どいつもこいつもタイミング悪すぎるだろ。タイミングが悪いのか、俺の運が悪いのか……。殻になったたばこの箱を潰してズボンの後ろポッケに突っ込み、灼熱の暑い中
歩きながら最後の1本のたばこを吸っている。
くそ、あちい…
真夏の太陽がジリジリと俺の肌を焼いていく。
歳も30後半だが、いろいろ理由があって実家暮らしをしている。
子供の頃の夢は警察官や探偵だった。
今はそれが儚い過去になり俺は事務仕事をしている。実家暮らしは楽だが痴呆の祖母と祖父との暮らしは苦痛でしかない。
自分の事を棚上げし、こっちの話は一切聞かない。小言もうるさい、声が大きい、家にいても全然休めず、ただストレスが貯まるだけの日々。貯金もしたいがストレスでパチンコやギャンブルに手を染めていたらあっという間に給料が溶ける日々だし。それはひとまず置いておいて、
ちょうど休みの日なので、気晴らしに外で散歩している。
不思議な事に同性や異性からモテる俺。
俺は意外とモテるらしい。自分で言うのもどうかと思うのだが…端正な顔立ちで目が鋭くメガネをかけている。メガネのおかげで少し顔が柔和になる。
と、ふとスマホのが鳴り出す。
電話に出ると同じ職場の後輩塚田だ。
『お〜どうした塚田?』と聞くと、
『お尻の穴が痒いんですよね…』と言ってきたので、
『切るぞ?』とボタンを押そうとすると
塚田が
『いや!すいません!!!ランチ一緒にどうですか?』と聞いてきたので、俺は財布の中を見た。三千円あるから大丈夫かと確認して
『安いとこなー』と言って電話を切る。      スボンのポッケにスマホを仕舞う。
するとまたスマホが鳴る
今度は何なんだ…とスマホに出ると
また同じ会社の後輩の宮本だった。
『せんぱーい!今大丈夫ですか?』と甘ったるい声で聞いてくるので
『あぁ…大丈夫だけど?』と気だるけに言う。
『インコがぁぁぁ私の大事なインコが何処かに行っちゃったんです』と泣きじゃくられる。
『おいおい、落ち着け』と俺は宮本を慰める。
歩きながら慌ててしまう。
『一緒に探そう!なっ!』と慰めた。
宮本は電話越しで鼻水を啜っているのが聞こえる。
俺は何してるんだ…と思いつつも、宮本に
『電話切るぞ。ラインで詳細送ってくれ』と伝えて切る。今は何も考えたくないので、目的も無く歩く。
スマホが鳴る。
塚田からのラインで
『今日の12時に〇〇駅の改札で待ち合わせしましょう〜』と来た。
『わかった』と一言だけ返信する。
またラインが来た。
宮本からのラインで『インコの写真です』と
泣き顔の顔文字も送られてきた。
まだ待ち合わせの時間には早いのでのんびりしつつもインコを探す。
『どの辺りでいなくなったとかわからないのか?』と宮本にラインを送る。
『寂しがりやなので家の近くだと思うんですけど……』と住所も一緒に送られてきた。
宮本のラインにスタンプだけ返信する。
ぼんやりとを空を見ながらインコ(ぷーちゃん)と言うらしい。
インコにぷーちゃんって…と思ったが
困ってるのを放っておけない質だ。
空を見上げたり電柱柱とかを見つめたりして歩くたまにはこういうのも良いのかもしれない。
スマホやパソコンを見つめてる事の方が多い毎日の中で宮本がきっかけをくれた。
宮本、ありがとうなとひとりごちる。
スマホの時計を見ると待ち合わせ時間ギリギリになっていた。
俺は約束に遅れそうなので、塚田にラインを送る。
『塚田!すまん…少し遅れる』と送信して駅に向かう。待ち合わせに向かう途中にペットショップに寄って鳥かごと鳥の餌を買った。
待ち合わせの場所に小走りで向かう。
「塚田〜すまん!!遅れた…」と両手を合わせて、
謝る。
塚田は俺の方に顔を向け手を降ってきた。
列に並んでいる。
『またせた!すまん…これなんの列に並んでるんだ?』と聞くと
「ラーメン屋ですよ!先輩ラーメン好きですよね」と爽やかイケメンな塚田。
「好きだけど…二郎系か?」と聞いてみる。
二郎系ラーメンはあまり食べたことがないのだが気になっていた。
「そうです!二郎系ラーメンです」と宮本。
「二郎系食べたことなかったんだよなぁ。連れてきてくれてありがとうな」と俺がお礼を言うと
「いや!僕の方こそありがとう御座います。一緒に来てくださって」とテヘヘと照れ笑いする。
列はゆっくり、ゆっくり進む。飲食店だし仕方がないか。
「先輩その鳥かごどうしたんですか?」と聞かれ、俺は
「宮本がインコを逃してしまって探してるんだ」と言うと塚田が、
「へーそうなんですね〜。写真見せてください。僕も探します」と言うので写真を見せる。
「あれ?このインコこの公園で見かけましたよ」と言われ、列はまだ動かなそうなので俺は
「宮本、本当すまん!すぐ戻るから…」と列を抜けて公園に向かう。
また違うとこ行ってないよな…と息を切らし、周りを見るとなんと鳩に混じってインコが餌を啄んでいた。
いたあああああと大声を上げたくなったが抑える。
そっとしゃがんで、インコに近づく。
インコはこちらに興味を持ってくれたようでトコトコ近づいてくる。
俺はそっと…ごめんな。と優しく掴み鳥かごに入れてあげた。
宮本からラインが来ている。
『先輩大丈夫ですか?あともう少しでお店入れそうですよ』とのこと。俺は慌てながらも、 宮本に『急いで来てくれ、インコ見つけたぞ』とラインを送る。宮本は公園の近くに住んでいるらしくダッシュで走ってきた。
「せんぱーい!!ありがとう御座います〜!」
いつもは女子力高い宮本が普段着はジャージなのか……干物女か?ついジロジロ見てしまう。
細身で顔も小顔でメイクもナチュラル。ネイルもいつも可愛いらしいネイルをしていて…。
「せんぱい…あんまりジロジロ見ないでください。すっぴんだし」
「塚田が教えてくれたんだ。俺、塚田と待ち合わせしててラーメン屋行かなきゃなんだ。今列並んでてもらっててさ」と伝える。
宮本は「本当ありがとう御座います、助かりました」と深くおじぎをする。
インコのぷーちゃんもお礼を言ったのか
「ピュロロピュロロ」と鳴いている。
これで大丈夫だ、
「すまん、急いでるから」と宮本に
とラーメン屋にダッシュで向かう。息を切らしながら宮本の肩を叩く。
「ちょっ…ちょっと肩貸してくれ、ゼェゼェ」
肩で息を切らしながら俺は呼吸を整える。
「先輩、たばこ止めたらどうですか?」と塚田は心配そうな顔をしている。
「まあ…そうだな」と深呼吸しつつ答える。ギャンブルは飽きてやめた…沼に嵌りそうになった時もあったがそうなる前に助けてくれたのがこの塚田だ。
甘いもの、美味しいお店に連れて行ってくれて、ギャンブル以外の楽しいことをたくさん教えてくれたんだ。
塚田をつい見つめてしまう。
塚田は
「なんでそんなに見つめてるんですか」と照れて笑う。
「いや、なんでもない」と誤魔化す。
二人は仲良くラーメン屋の中に入っていった


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