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仏教系の新興宗教の勧誘の方を論破しようとしたら、いつの間にか仏間でお経読まされてた話

るり子さんの「うさんくさい経験を思い出せ!」が面白かったので思い出した話。

私は結構怪しい話に絡みがちな人生を送ってきた気がする。

大学時代の友人ががっちりマルチにはまってサークルが崩壊しそうになった話とか、終電逃して小田原城で寝てたら怪しいサンスクリット語を喋れるというおじさんと仲良くなってお祭りの屋台のアルバイトあっせんしてもらった話とか、明らかに怪しい就活教室に大金を払ってしまったとか。

結構仲良くしていただいていた方が、容疑者として新聞に載ったことも2度ある。(1度目の方は収監され、2度目の方はどうなったかしらない)

で、今回の話は私の人生で一番最初に出会った「怪しい話」

季節は高1の秋

あれは高校1年生の秋だったかと思う。

学校にもずいぶん慣れて、友人もできて、3度目の初恋の人ができて少女漫画にはまってたくらいの時期だ(その子が少女漫画好きだったんだ)

ただ、過ぎていく日々の中でどこか寂寥感というか、物足りなさを感じていたのも事実だ。

何せイメージトレーニングだけは完璧にしてたのに、学校にはテロリストも現れないし、一向に私の中に眠る超魔力(サイキック・メイガス)は目覚める気配もなかった。

そう、私は中二病の治りがずいぶんと遅くこじらせてるタイプだったのだ。

この話の発端となる電話がかかってきたのは、そんな季節だった。

謎のOBを名乗る人についていってはいけない

母親から受話器を受け取ると、電話先の相手は「君の小学校のOBなんだけど」と切り出した。

その時点で全く顔も浮かんでないし、一度もお会いしたこともない。

当時は個人情報なんてザルだったし、卒アルに住所とかもあった気がするから、どっかから俺の名前と家の電話番号を見つけたんだろう。

彼の名は覚えているけど、とりあえずここでは仮にコガ先輩としよう。

コガ先輩は平たくいうとこういったことを言った。

「君の人生にとってすごく重要な話があるんだ」

さて、あなただったらどうするだろうか?

普通の人は、さらっとここで「結構ですー」と切るだろう。

しかし、私は違った。

(ついに、俺の物語が動き出す…か。意外と早かったな)

そう、私は中二病を高校一年生にもなって、いまだにこじらせていたのだ。(2度目)

そういうわけで、「とりあえずお話だけでも…」と駅近くの公園で会うことになった。

一貫性の原理を利用されてはいけない

コガ先輩は、図書委員でもやってそうな眼鏡でひょろっとして育ちがよさそうな方だった。ちなみに男性。

どうもーはじめましてーととりあえずお話して、ベンチに座ることにした。

大体こういった勧誘系の人たちのしゃべりというのは似通っていて、やたらと人生観に関する話とかを聞いてくる。

まずは丁寧にジャブを打ってくる感じで、相手の反応を探るのだ。

「どんな部活やってるの?」

「ボランティアとかっすかねー」

「へーなんで、やろうと思ったの?」

「人の役に立ちたいみたいな感じですかねー」

(実際は友達に誘われて入った。とはいえ、この部活が私のその後の人生に大きな影響を与えるのだけど、それはまた別のお話)

このやり方の巧妙なところは、一貫性の原理を突きやすいというところにある。

人間だれしも、自分の言動には一貫性を持たせたい。

なので、「人の役に立ちたいっていう君にはぜひ聞いてほしい話なんだけど」みたいな、『あなたが言ったことを前提に話しますよ』的な話のもっていきかたをされると若干距離を詰められやすい。

火属性モンスターに火魔法を使ってはいけない

で、話はいつの間にか「前世」とか「業(カルマ)」とか「天国と地獄」「罪と罰」みたいな話になっていく。

不運なことに私はこの日の前日、天使禁猟区を一気読みしているので、ここら辺の話にはちょっと食いついてしまうマインドセットだった。

とはいえ、怪しいことは怪しいと思うくらいの分別のあるガキだったので、ところどころに論理の矛盾を感じたりするとツッコミというか反論をしていた。

歴戦の2ちゃんねらー(ROM勢)だった私には、数々のスレで見てきたネット議論の経験があった。

いつの間にか「論破してやる!」モードになっていたのだが、これが良くなかった。

だいたい、こういう系の方たちにとって反論するというのは、「火属性吸収」持ちのモンスターにメラゾーマぶち込んでるのと同じなのだ。

コガ先輩の顔が活き活きと輝きだす。

「すごいね、そうなんだよ、それはね…」「君はすごく鋭いね。」みたいにうまく乗せていく。

話は「人類の救済」の話にまで至り、もっとちゃんと話がしたいから場所を変えようと言われたのは公園についてから1時間ほどたった後だった。

見ず知らずの人の車に乗ってはいけない

さて、初めて会った「君の小学校時代のOBと名乗る見ず知らずの人」に別の場所に誘われたら、あなたはどうするだろうか?

普通の頭をしていたら、「予定が…」とか言って断るだろう。

しかし、3度目となるが私は中二病の真っ最中で、天使禁猟区にはまっていて、2ちゃんねるに入り浸っていたのだ。

面白そうだなと思ってふらっとついていった。

隣の駅に移動すると車が待っていた。中には大学生くらいの人が2人乗っていて、コガ先輩がドアを開けて「どうぞー」と手招きしてくれる。

一貫性の原理とは怖いもので、行くといったんだから行かないとね…という気分になってしまっていた私はちょっとビビりながらも車に乗ってしまった。

車でしばらく走っている間、車内では3対1で地獄と救済の話が続いていた。傍から見ればこの状況が地獄。

「〇〇〇〇とお経を唱えれば、その人は救われるんだよ!」

「えーじゃあ、世界中全員がそのお経を唱えたら世界平和になるんすか?」

「そうだよ!」

Oh…この時点でもう会話としては成立しないし、サヨナラバイバイだなと思たったのだけど、車の中なので逃げ場なし。

怪しい書類に住所や名前を書いてはいけない

車が止まると、目の前には古い庭付きの一軒家があった。

毒を食らえば皿までよとの思いで、上がり込む。

連れていかれたのは立派な仏壇がおかれた仏間だった。

「はい、これ君の分」

と言われて数珠と経本を渡される。

なんか入ってきた偉そうな人。

そして急に始まる読経。

こちらは若干のパニックだ。

私の家は「ごくつぶし、ギャンブラー、元ヤン」と3代つづく由緒正しい家柄だし、「人様の信仰の場を荒らすのは良くない」という無駄に高い倫理観もあったので、とりあえず手を合わせてお経を読んでいるふりをすることにした。

読経が終わると、偉そうな人はすっとまたいなくなった。

それを見計らったくらいのタイミングで、大学生Aのほうが私の前に申込用紙をすっと出してくる。

「とりあえず、今日はここに住所と名前、電話番号を書いてもらって終わりだから」

コガ先輩と大学生Bは後ろでニコニコしている。

さすがの私も「これは書いたらヤバい」と確信し、とりあえず今日急には名前や住所を書類に書くことはできないという一点張りでなんとか押し通し、「ちょっと塾に行かないといけないので帰りますね!」と強引に帰ることにした。

帰り道

そこから先はどう帰ったのかあまり覚えていない。

多分、その家を出て近くの人に駅までの方向を教えてもらい歩いて帰った。

幸い国道246号線が近かったため、人が多いところには早めに行けたという安心感と、とぼとぼと歩いた時の脱力感と不安感は覚えている。

その後もコガ先輩からはしばらく電話がかかってきた。

親に言って取り次がないようにしてもらえばよかったのだけど、この話をしても心配させるかなと思って自分で受け取って「もう電話してこないでください」という話をした。

それでも何度かかかってきたので結構げんなりした。

教訓的な何か

どうにも私には、レアなイベントを目の前にすると突っ込んでいってしまう癖があるようだ。

それでも何とかかんとかやってこれてるのは、運が良かったし人に恵まれているからだと思う。

それにこの癖についてはたぶん治らないと思っているし、おかげで、なかなかないような人生経験をしたり、今の仕事に役立ってることもあるので別に嫌いではない。

ヤバい目にあった経験も経験なので、それを活かしながら、うまく回避したり受け止めたりしてより楽しく生きていきたいねという、これはそういうお話。




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