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6時間だけの家出をしよう

きっかけはささいなことだ。忙しい彼はわたしとコミュニケーションを取るリソースがない。わたしは少しでいいからリソースを割いてほしかった。そのすれ違い。それだけで今のわたしには家出をする気持ちが固まった。
一緒に住んでいれば、ストレスは見えなくても溜まっていく。言わなくてもわかるでしょ、は誰に対しても通用しない。わたしも彼もことばを通して気持ちを伝えていくしかない。
でもそれができないのであれば、どちらかが、あるいは両方が落ち着くまで、顔を合わせないほうがいい。
彼は無口だ。良くも悪くも話さない。
わたしはことばが下手だ。うまく相手に気持ちを伝えられない。
だから、ことばがまとまるまで、家出をすることにした。
家と職場は歩いてもそこまで時間がかからない。時間をかけてたくさん寄り道をして、普段行かない街を、道を、人を見る。そしてわたしの中にあるまとまらないものたちを形にしていく。それしか今のわたしにはできることがない。
日付が変わるぐらいには家に着く予定だ。
家に連絡がつく方の携帯は置いていく。死んだと思われては心外だから、一言くらいの置き手紙は残すつもり。
夜中にこっそり帰ってきて、こっそりお風呂に入って、こっそり布団に入る。
帰ってくることがわかっているなら、どうせ明日も仕事があるのだから、彼はいつも通りの生活を送るだろう。わたしがいてもいなくても、そこは変わらないだろう。
これはわたしのための家出だ。
わたしが、わたしに整理をつけるための家出だ。
うまくいかないことがあるのなら、うまくいく方法を歩いて探すだけ。
彼と話をするのは、それからでも遅くはない。

探さないでください。そのうち帰ります。

見つけてくれてありがとうございます またどこかで会いましょう