南部虎弾さんの訃報

電撃ネットワークの南部虎弾さんが亡くなった。
もう40年近く前、キムチ倶楽部の頃に初めて会った。六本木のバナナパワーだったと思う。キムチ倶楽部は南部さんと後にダチョウ倶楽部になる上島肥後寺門の4人組。
迫力のある変な人だという印象。頭をぶつけたら鼻から髄液が流れ出たとか、稽古中の理不尽な発言などのエピソードもたくさん聞いた。
その後円山見番寄席でも一緒になった。今と違って若手の芸人の数が少なかった頃だったこともあって、何か現場があるとしょっちゅう顔を合わせていた気がする。飲みに行く機会もあったが、なんだか変なことばかり言ってくるので困った記憶もある。
そんな話を中村ゆうじ君に言ったら、そんなことは言わないで、とのリアクション。フランスにパントマイム修行にも行ったこともある凄い人なんだと。ピンとこなかったが。中村くんもフランスにパントマイム修行に行った人。南部さんの結婚パーティーの司会もしていた。仲良しだったんだ。
電撃ネットワークを結成した後も何度か現場でご一緒した。キムチ倶楽部時代に作家の下等ひろき氏の考えた言葉に頼らないスラップスティックな笑いを極端に発展させたものをやっていた。
下等氏はバナナパワーの店長もやっていた。そこではキムチ倶楽部だけでなく、うちのブッチャーブラザーズ、B-21specialも出演していた。
バナナパワーが閉店する時のパーティーに自分も招待されて行った。この店のウリはお笑い芸人のステージと男性ストリップダンス、そしてラストはパイ投げ。芸人が売るパイを買ってそれを芸人にぶつけるのだ。ギャラに還元されるので、芸人は嫌がりながらも客にガンガン売りつける。日頃のストレス解消にどうぞ。
お店のラストということで最後にオーナーが挨拶をしていた時、誰の発案かわからないがオーナーに盛大にパイをぶつけようということになった。当然の演出だよね。盛り上がるわ。
だが、逆上したのかパイまみれのオーナーが消化器をステージに持ち出して客席に向けて噴霧開始!
あっという間に前も見えない状態になる。呼吸困難で死にそうになる。人に向けて使っちゃダメなやつでしょ!
外へ!パニック!階段の下にある受付スペースまでも白煙で視界ゼロ。息ができない。臭い。大丈夫か?誰かケガしてないか?
ほうほうのていで外まで出た。振り返ると窓から白煙がまだ上がっている。オーナーはどうしたかなあ?
服が白い。臭いがずっと残っている。手触りも変。たまたまそこに一緒だった人たちと飲み直そうか?なんて話をしていた。みな初対面の人たち。元おニャン子倶楽部の子もいたなあ。
つらい経験を共有した人たちが仲良くなる現象ってやつ?
そこへ南部さんが来た。
どっか行くんですか?ご一緒していいですか?
あ、ちょっとめんどくさいかなあ…、と思っていたら、他の男性が
いえ、もうみんな帰ります。
と。
南部さんは、
あ、そうなの。
と言って別の集団の所へ。
そしたらその男性が、
早く行きましょう。南部さんを早くまかなくちゃ!
って。
南部さん、避けられてるよ。
なんか面白くなってきちゃった。
で、近所の広めのパブに落ち着いた。
自己紹介して乾杯してさっき起こったことで盛り上がっていたら南部虎弾登場。
……!
なんでここ分かったんですか?
なんとなく。

恐ろしい。しかも嗅覚がいいのかまいた筈なのに店まで探し出された。
しばらく「南部さん、まかなくちゃ」が自分の中の流行語になった。なんでだろうなあ?

内臓系の病気で移植手術もしたりして何度か死線をさまよったことはニュースで聞いていたが、まだまだしぶとく生きていくイメージがあった。ついこの前のエスパー伊東さんの訃報でのコメントをYahooニュースで見たばかりなのに。

あの方はずっとトンガっている人だったように思う。
「若さ」って「トンガリ」とイコールみたいなとこあるじゃない?
自分はひととは違う、なんつって、「異質」な存在になろうと努力したりして。
南部さんはそんな意識のまま生きていたんじゃないかな。こんなこと誰もやらんだろうということをやりたがる、奇抜な衣裳を着る、場の空気を変えるような発言をする、常に逆張りをしたがる、なんてイメージが南部さんにはあった。
「ザ・芸人」を目指して生きていたんじゃないか?
でもなあ、今の時代で? なんて思う。
もうメディアどころか価値観も指向性も全て多様化しているのよね。
「異質」を目指していたら「異物」扱いされてしまう時代になっちゃったよ。
だから早く南部さん、まかなくちゃ。

上島竜兵、夏まゆみ、南部虎弾。バナナパワー関係で知り合った人が亡くなっていく。
同時代を共有してきた人がいなくなっていく。

ご冥福をお祈りします。寂しいね。

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