今野さんのこと追加/いろいろとキャスティングの話。

今野さんのこと②/いろいろとキャスティングの話。

やがて今野さんは事実上定年ということになった。
そして今野さんは俳優業に転向して人力舎所属タレントとなる。
というのも、その前から今野さんには元芸人というキャラクターもあったので、たびたび何らかの出演の依頼が来ていた。
ビシバシステムは、「東京バビロン寄席」だったか「人力舎祭り」だったか「バカ爆発!」だったかで出演オファーをした。
昔取った杵柄、というより生活のタツキであったSAXをネタで吹いてほしいとのこと。
カッコつけた場面だった。女性といい雰囲気になっている。舞台の後ろでは老サックスプレイヤーがムーディーな曲で場の空気を盛り上げている。照明も甘美な気分を盛り上げている。
筈だった。
が、本番は散々だった。練習はしていて、何度か稽古場で合わせてもいたのだが…。
「入れ歯の調子がうまくないのよ。」
そう言っていた。入れ歯使用者には理解できるでしょうが、入れ歯って日によってコンディションがかわったりするのんです。
マウスピースをうまく噛めないとサックスはうまく音が出ない。
稽古始めはプピー、ヒャラア~、ブペペーとかしか出なかった後が何回かやっているうちにいい感じになっていった。これなら大丈夫と思っていたが…。
でもね、コントだから。意図したものとは違ったが何とか笑いにして成功。
このあたりから本格的に今野さん、タレントでもいけるんじゃね?なんて考えるようになったみたいだ。
そして、フジ「ボキャブラ天国」である。
まだ深夜番組だった頃の話だ。制作会社のハウフルスと自分は仲が良かったのだよ。深夜だった頃はスタジオの出演者も少なく、ほぼ視聴者から送られてきたものをVTRで紹介するだけの番組だった。「そら耳アワー」の日本語版みたいなもの。
たとえば人力舎所属のLAUGH-BOXの出演シーン。
「伊藤!」
「よう、加藤!」
カメラがズームすると「イトーヨーカドー」の屋上看板。
ね。実にくだらないでしょ。いい意味で。
今野さんは水戸黄門役で毎回呼ばれていた。スケさんカクさんはバラライカの松澤くん(「シン・ゴジラ」出てたよね)と山本くんだった。
自分は、小劇場の役者やら無名芸人など、多い月で60人くらいキャスティングしていた。
ちょいとエピソードを挿入する。
毎月ハウフルスの会議室でその月出演したギャランティーを相談するのだが、お金の話がどうも苦手で、なんか胃袋が毎回キュッとしていた。
ある月、そのギャラ相談中、「ちょっと待ってください、今テレビ観なくちゃいけない時間なんで」と中断。
テレビをつける。逸見政孝さんが癌であるとの会見が始まった。
あら、そういえばハウフルス制作の番組に出てらしたなあ。
「これ、知ってました?」と聞こうと思って振り向いた。
聞ける空気ではなかった。
しばらく無言が続いた。ギャラ交渉どころじゃなかった。
3ヶ月後の葬儀の時、三木プロさんと仲良くさせてもらっていたので葬儀の手伝いをすることになる。

とにかくけっこういろんな人材とのコネクションがあったんですよ。それで自社タレント以外をいろいろな番組やCMでキャスティングしていたのです。
もともと自分が事務所に入った頃は自社タレントより、所属ではない芸人にたくさん仕事をふって稼いでいた。それと同じようなことをやってみようと思ったのだ。
なにしろ自社所属の芸人だけをいくら売り込んでもなかなか仕事に結びつかないことが多すぎた。
それで自分が主催した「東京バビロン寄席」でつくったコネクションを利用してみようと思ったのだ。
「パラノイア百貨店」。山崎一とか林和義とかがいた。今やお化け屋敷クリエイターの五味くんひきいる「劇団20世紀急行」。ここには相島一之がいた。
宮川賢ひきいる「ビタミン大使ABC」。
ご存知「大人計画」。「劇団健康」。「劇団カムカムミニキーナ」。芸人にはいないキラキラしたキャラクターが沢山いた。演技力もあるので表情管理もできているし。
シティボーイズでできたコネクションで太陽企画さんからたくさんのキャスティングの話もいただいた。温水洋一を最初にCMやテレビに出したのも自分が最初ですわあ。
「11PM」の後番組「EXテレビ」のドラマコーナーのキャスティングもやらせてもらいましたわ。うははは。これは所属のZ-BEAMが毎回メインキャストだったんでね。
で、「ボキャブラ天国」なんかは自分にはもってこいの企画だったんですよ。
でも、ハウフルスから振られたちょっとした出演依頼からそれまで広げられたのは、やはり「タモリ倶楽部」のおかげだったのかも知れませんな。
シティボーイズとタモリさんの相性は良かったようで、たびたび収録に呼んでもらえていた。何しろ「お笑いスター誕生」の出演者と審査員だったし。
少し変わった、というか、こだわりの強いタレントを起用する傾向にある番組なので、やがてビシバシステムもちょくちょく呼んでもらえた。じぶんが現場に行く回数も多かったのです。
で、現場にちょくちょく行っていた自分にある日ハウフルスのプロデューサーから電話が入る。
「早慶OBレガッタ」。早稲田慶應の業界人OBが勝敗を決めるという企画に出ませんか?と。ギャラもでるというのでとびついた。
慶應OBは、ハウフルス社長菅原さん、コラムニストの泉麻人さん、雑誌宝島の編集長、八名信夫さん率いる悪役商会のイケメン俳優。
早稲田OBは自分の他に、真心ブラザーズの2人、テレビ朝日の(今や常務に出世しちゃった)板橋順二さん。板橋氏は彼が学生の頃からの知り合い。
ブッチャーブラザーズやB-21specialが出演していた六本木のショーパブ「バナナパワー」でバイトしていたのだ。そしてその流れで、店長下等ひろき氏が主宰していた劇団「夢知無恥」にも出演していた。入社してからは「テレビ演芸」やら「笑いの王国」でよく会っていた旧知の仲。
ロケ場所は戸田ボートコース。寒い。
練習では圧勝しそうな勢いだった。フォアだし座席がスライドするので難しいのだが、掛け声をかけてなんとかスピードを出すことができた。
本番。オープニングを撮る。タモリさんにいじられまくっていると雨が降ってきた。
ビニール合羽が配られるが、寒さが増していく。
やがてレース開始。リードして始まったのだが途中で真心のYO-KINGの合羽が座席に挟まってしまった。座席がスライドしないと漕げない。ひとりが漕げないと前後の座席も漕ぐことができない。当然ストップする。慶應OBに抜かれた。そのままゴール。負けた。
あのいやいや、マジになってどうすんだ!
でも負けは悔しいのよ。
帰りは板橋氏がミニクーパーで送ってくれた。なんかふたりともモヤモヤしてたなあ。
が、後日ギャラを聞いてビックリ!
自分一人でビシバシステムとかキリングセンスより高かったのだ。何でだよ。
次に「タモリ倶楽部」から別なオファーが来る。企画は「新人マネージャー研修会」。
俺、新人じゃないですよ。
「いいんですいいんです。」
でもタレントの宣伝になったらいいか…。
じゃあビシバシステムのスケジュール確認して…
「いやいや、あの水戸黄門やってる今野さんのマネージャーということで」
何だと!
まさか今野さんありきのオファーではないだろうなあ?
マネージャー主体の回だったのだが、ひとりジジイが混じっているのでよくいじられていた。放送された番組での今野さんはチャーミングだったなあ。その後も構成作家で入っていた高橋洋二氏の“恩返し企画”、「人力舎ギャグ百連発」前後編とかやってもらった。
が、「タモリ倶楽部」といえば忘れられない悲しい記憶がある。仲良くさせていただいた番組プロデューサーが突然亡くなったのだ。高速の出口付近での自動車事故だった。身元がわからなかったが、焼け残った腕時計で誰か特定できたのだという。
葬儀は雨の降るやたら寒い日だった。この方が亡くなってからなんだか人力舎への仕事が減っちゃったみたい。

さて、今野さんに話を戻す。
次は舞台役者になるのだ。
マルセ太郎さんに誘われたのだ。
マルセさんは、それまでは「スクリーンのない映画館」というタイトルのシリーズで「泥の河」や「殺陣師段平」などの映画を一人語りする舞台をやっていた。これが好評だった。永六輔さんの後押しもあり、あれよあれよという間に評価が上がり文化人的な扱いをされ始め、巨匠となってしまった。
それがなにがきっかけだったのか、「マルセカンパニー」という集団で演劇の世界に挑戦しようというのだ。
この話は詳しくは書かない。既にたくさんの人が絶賛した文章をかいているから。
毎回舞台に出ていた今野さんは輝いて見えたなあ。
セリフがなかなか覚えらんなくってよお。
と言っていたが、なんか楽しそうだったなあ。そのまんまのキャラクターで役になりきっていた。当て書きだったのか。
マルセカンパニーという居場所を見つけ仲間たちができたこと。それが今野さんに力を与えていたように思う。
最後に今野さんが輝いていたのは、マルセ太郎さんが亡くなった後のお別れ会。
トークに接客に、まるで主役のように振る舞っていたような気がする。
その後の今野さんの記憶はあまりない。
しばらくして田舎の山形に帰ることにしたと聞いた。
亡くなったと知ったのもだいぶ後のことだ。
汚いストーブでやいた餅をバンバン叩いて「ほら食え」、かな漢字タイプをひっくり返して文字をバラバラにした時の「こんのお、役立たずー!」、「行けばわかるさ」のいい加減さ、間違った仕事の情報とか一千万以上の赤字つくって「ぐへへへへー。」、入れ歯の調子が悪くてプピー、新人マネージャー研修会でのかわいい表情。
全てが愛おしく想い出せる今野さんだったなあ。

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