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【①】宇宙兄弟(part1)

今回はアニメ化・実写化も果たした『宇宙兄弟』を読んでいく。

1巻 兄弟コンプレックス

宇宙兄弟は、兄弟という一番近い存在で、一番厄介な存在を徹底的にクローズアップしていた。とくに主人公のムッタは「兄は常に弟の先を行っていなければならない」という呪いと格闘している。
これが非常に共感できるのだ。私自身、四人兄弟の長男であり、特に次男とは年も近く、何かと「比較」されてきた。そのおかげで劣等感に苛まれたこともあるが、それはまさしくこの呪いによるものだ。これは兄弟に限ったことではない。だが一番近い兄弟であるからこそ呪いの効力は絶大なものになる。『タッチ』などもその類であろう。この万人共通の呪いに苦しむ主人公ムッタへの共感が生まれると思われる。

  • 分かりやすく、共感できるコンプレックスが物語には必要!!

2巻 運も実力の内

強烈な劣等感を抱えながらも選抜試験を受けるムッタ。二次試験では、そこそこの手ごたえを感じながらも、最初の頭突きによる退職が素行調査に見事に引っかかる。悪運に苛まれ、弟に「諦めるぐらいなら、夢ではない」と言われ完全に心が折れかけるムッタ。
ただここで悪運のおかげで、起死回生の合格を果たす。例えば、消火器で店を荒らす男を捕まえてヒーローになったり、幼いころに兄弟でJAXAに通っていたことを知る人が面接官であったり、、。そして最終的には合格をつかみ取るわけだが、「運も実力の内」と形容している。しかしとくに後者に見えるのが、何かをやらなければそもそも「運」をつかみ取ることができないというもの(1巻のシャロンおばさんの発言参照)。過去は戻らないが、過去は積み重なる。こうして『宇宙兄弟』を読んでいることで、私は幸運に巡り合えるかもしれない。

  • 「運も実力の内」単純明快な教訓

3巻 「憧れ」がすべての原動力

シャロンに試験の仲間と比べて大それた大志がなく、「何もない」と悩みを打ち明けるムッタ。それに対しシャロンは「憧れがすべての原動力」だと諭している。私自身もものすごく共感できた。例えばたまたま上手くいったときでも(客観的に見ればそうでもないことが多々あるが)、周りと比べて自分を卑下してしまう。そして次第にそれを言い訳にして歩みを止めていく。そんな我々人間に対して、「なったときに悩め」とシャロンは語るのだ。
うだうだ悩まずに、とにかく動け。『宇宙兄弟』のすごさはこの教訓が一巻ごとに必ず出てくるところかもしれない。

おそらく1巻から『宇宙兄弟』が産声を上げる。1から2巻はムッタのコンプレックスと向き合いながら読者の共感をさらい、3巻からは王道の「仲間との共同試験」に突入する。キャラクター論については全くの門外漢であるが、ときおりピックアップして、それを述べていきたい。

ピックアップ:サンクコストにおぼれた福田さん

最年長の福田さんは、全てを失ってきている。家庭・仕事、そして何より費やした時間。「夢は年を取らない」という呪いにこれまた憑りつかれてしまっているのだ。特に上の人達には「バカたれ」と言われてしまうかもしれない。だがサンクコストにおびえていては何事もできない。もちろん損切りも大事なのかもしれないが、損をし続けた先に得られる何かがあるのだ、と教えてくれる。ちなみに私は圧倒的に損切り肯定派である。

4巻 ライバル≒仲間

いよいよ二週間の共同生活が終わりを迎えるが、「5人の内から2人を選べ」というミッション、いわゆるデスゲームの要素がある中での仲間との向き合い方がテーマとして描かれている。宇宙飛行士試験は大前提として、互いにライバルである。そのライバルを蹴落とすこともできるはずだが、それをしない。人間は極めて社会的な動物である。一人でできることはたかが知れていて、人間は社会的動物として互いに関係を構築する事で、何かを成し遂げていく。その基本原理を理解していない人は想像以上に多い。
ムッタは他の4人を「仲間」として接する道を選んだ。仲間、超大事。

5巻 世間体を超える「好き」

じゃんけんのシーンは、『宇宙兄弟』を象徴するワンシーンなのだろう。だが正直、シャロン伯母さんの受け売り感が強いのはあんまり納得いかない部分でもある。私がこの巻のハイライトとして挙げるなら、「ユーリの辞退」だ。これは父親の期待を背負って、宇宙飛行士の道を歩んでいた有利が、本当に好きな未確認生命体の道に進むことに決めた話だ。
世間知らずの私ではあるが、「世間体」にとらわれることはままある。
「期待に応えたい」もしくは「客観的評価を低くしたくない」ということで、もっぱら人間はその本性を隠す。私だって、『私に天使が舞い降りた』という作品を好きだと声を大にしては言えない。でも、それを「開示」した瞬間に道は開けるのだ。これは本当に大事だと思う。最近の漫画でいうと『ブルーピリオド』『海が走るエンドロール』もこの系譜だ。

  • 「本当の好き」の発露!!

6巻 正直者になる覚悟はあるか???

「死ぬ覚悟はあるか?」。それに対して、「YES!!」と思う人はまずいないだろう。だが、言葉で嘘をつく人はいる。宇宙飛行士試験であれば、「NOって言ったら落とされる、、、」という思考がよぎってしまうだろう。しかし、ここで正直であるかどうかは、全然違う。ムッタはわりとどうしようもない人間だし、嘘をつくが、ここで正直になれるからこそ試験に残っている。
私はできない人間だ、とはっきり断言できる。就職活動の時も面接官のお眼鏡にかなうためにで、心にもない言葉を何度もはいてきたと思う。
だが嘘は必ずしも悪ではない。ただ「正直者」になるのは覚悟がいる。私は正直者になれるならなりたい。真の「自己開示」、その覚悟はまだ持てていないようだ。

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