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【はじめに全文公開】世界最強の医局チームが編み出した、最高のパフォーマンスを生む「休息の科学」と「前進の科学」とは?

大和書房は『スタンフォード式 脳と体の強化書』を8月19日に発売いたします。

【オビあり】スタンフォード式脳と体の強化書

意欲高く仕事に集中できる時もあるけれど、なんだか調子が出ない時ってありますよね。
眠っているのに昨日の疲れが取れなくて、スッキリしない日もあると思います。

常にベストパフォーマンスができたらどれだけいいだろう……。
そんな悩みにぶつかったことはありませんか?

現役金メダリスト、全米記録保持者……トップアスリート集団を支えるスタンフォード大学スポーツ医局に19年所属する著者が、大学で実践している「超疲労回復と覚醒力」をもたらす方法を教えます。

本書のはじめにを公開します。

はじめに

「世界最強の医局チーム」が編み出した
「超回復」と「覚醒」の全手法

「自分史上、最高の自分」を目指す

心身が健やかで、楽しい気持ちや幸福感と共に、常に意欲的に物事に取り組む。
これは仕事に限らず、勉強であれ子育てであれ、あらゆる人生のステージにおいて重要なことです。これができる人は、間違いなく充実した幸せな人生を送ることができます。
そんな当たり前の話をされても……と思った人もいるかもしれません。それがなかなかできないから困ってるんじゃないか、と。
では、どうしたら心身を健やかに保ち、楽しい気持ちや幸福感と共に常にモチベーション高く物事に取り組めるようになるのでしょう? その問いにお答えするために本書を書きました。
何かを獲得するには「知識」、そして「実践法」という2つの武器が欠かせません。本書でみなさんに獲得していただきたいのは、「自分史上、最高の自分」です。

なぜ人は疲れるのか? そもそも疲労とは?
ストレスとは? いいストレスと悪いストレスの違いとは?
どうしたら疲労を解消できるのか?
人の「意欲」とは、どうやって生まれるものなのか?
失敗を恐れずに常に前進し、成果を挙げていくには、どうした
らいいのか?

上記のような「疲労とストレスに関わる脳と体のメカニズム」や「前進できる心身に関わるモチベーションの科学」を噛み砕いて説明しつつ、「では、実際にどうすればいいのか?」という実践法もふんだんに紹介することで、「ベストな自分(The best version of myself)」を目指していただく。それが本書の目標です。というのも、「他人と比べて一番の自分」ではなく「自分史上で一番の自分」を目指してこそ、個々の人生の充実感も幸せも最大化するはずだからです。

私たちの体は非常に複雑にできています。すべてを司るのは脳ですが、脳の働きは完全に決定づけられたものではなく、多くは日々の行動によって決まります。
日々の行動とは、たとえば、朝、起きたら何をするか、朝・昼・晩に何を食べるか、いつ、どれくらい、どのように休むか、周囲からの刺激をどう受け取り、それに対してどんな態度を見せ、言葉を選び、発言し、どんな行動をとるか……などなど。
こうした1つひとつの行動が、脳の働きを通じて心身の健康度に影響し、ひいては「楽しい気持ちや幸福感と共に、モチベーション高く物事に取り組める人」になるか、それとも「努力を苦しいとしか感じず、すぐに物事を諦めたり投げ出したりする人」になるかをも左右するのです。
いかなる「結果」にも「成果」にも、「持って生まれた資質」や「天賦の才能」などほとんど関係ありません。「自分史上、最高の自分」は、ほかでもない、自分自身の行動を選択することによってつくっていけるのです。

なぜスタンフォード大学は「成果を出す集団」なのか?

私は、米スタンフォード大学でアスレチックトレーナーを務めています。アスレチックトレーナーとは、スポーツ選手を身体面と精神面の両面からサポートし、二人三脚でベストパフォーマンスを目指すという仕事です。24 歳までプロスキーヤーだった私が26 歳で渡米、大学と大学院でアスレチックトレーニングやスポーツ医学、スポーツマネジメントを修めたのち、スタンフォード大学に職を得てから早20 年が経ちました。
スタンフォード大学といえば、言わずと知れた名門大学です。学問において優秀というだけでなく、スポーツにおいても優れた結果を数え切れないほど出してきました。
比較的最近の例を見るだけでも、この夏に開催された東京2020オリンピックにはスタンフォード大学から合計53 名の選手を送り出し、私が健康管理を担当している競泳では9名が参加、2 つの金、7 つの銀、3つの銅メダルを獲得しました。
また、1970 年代から90 年代にかけてテニス界を牽引したジョン・マッケンロー、男子ゴルフのスーパースターであるタイガー・ウッズ、女子プロゴルファーのミシェル・ウィー、元メジャーリーガーで殿堂入りを果たしたマイク・ムッシーナといったプロアスリートを輩出し、オリンピック2 大会で計5 個の金メダルを獲得した水泳のケイティ・レデッキー、米国アフリカ系女子水泳選手として史上初の金メダリストとなったシモーン・マニュエルなど、プロスポーツの世界でも、スタンフォード大卒業生は目覚ましい活躍を見せてきました。
それにしても、なぜスタンフォード大学の選手は、こんなに結果を出しているのか? よく私も外部の人から聞かれるのですが、結論からいえば、その理由は主に2つあります。
第一に、選手本人たちのモチベーションの高さと、それを継続させていくアイデアの豊富さ。学業とスポーツを両立し、一度始めたらベストを尽くしてトップに近づこうとするアスリートの努力と姿勢には、いつも驚かされます。
そして第二に、そんな選手たちのバックにいて、支える「優れたサポートチーム」の存在です。
私はアスレチックトレーナーとして日々、選手と接していますが、私ひとりの力で選手をベストパフォーマンスへと導くことはできません。
スタンフォード大学には、素晴らしい専門家とリサーチャーが多数、所属しています。専門家とは、たとえば「骨筋肉の専門家」「整形外科医」「心理学や精神科の専門家」「睡眠の専門家」「栄養の専門家」「内分泌の専門家」「脳科学の専門家」「解剖学の専門家」など各ジャンルで豊富な学識をもつスペシャリスト。リサーチャーとは、研究データの集積や分析などを行なう人です。
これら専門家とリサーチャー、そして私のようにトレーニングやリハビリの現場で選手に接するアスレチックトレーナーの三者が密に連携し、選手を全方位的にサポートしているのです。
たとえば、ある科学的知見に基づいて、ある手法(トレーニング法や回復法)を試してみる。いい効果が見られたら続ける。効果が見られなければ専門家やリサーチャーにフィードバックし、また別の科学的知見をもって別の方法を探る。
こういうやり取りが、スタンフォード大学では、立場の優劣も上下もなく盛んに行なわれています。先ほど、私の仕事を「選手と二人三脚で」と表現しましたが、その実、多岐にわたる優秀なプロフェッショナルが関わっているということです。
専門家にもリサーチャーにもアスレチックトレーナーにも、誰一人として、自分だけの手柄や名声のために、といった思惑はありません。何よりも、選手を最高のコンディションに持っていくために、最新の科学的知見に基づいて「選手にとって何がベストか」を常に模索しているのです。これがスタンフォード大学の強さの秘密といえるでしょう。
したがって本書もまた、私ひとりの知見に基づいて書かれたものではありません。今まで優れた専門家、リサーチャーと協力して研究を重ねてきたことの結晶であり、1つの到達点を示したものが本書です。たまたま日本語ネイティブである私が、彼らを代表して、日本語を読むみなさんに伝えるチャンスを得たに過ぎません。

現場と研究室が結びつき、
「結果を出せる最強チーム」ができた

スタンフォード大学で選手のケガの予防とリバビリテーションに携わるなかで、私は、選手に「好不調の波」があることに気づきました。試合本番のみならず日常的な練習風景でも、気分の浮き沈みが見られたり、普段は苦もなくできることが急にできなくなったりするのです。
そんな「波」の正体とは何なのか。どんなときでも最高のコンディションへと持っていく手助けをするにはどうしたらいいのか。そのヒントを得るきっかけとなったのは、スタンスフォード大学で新たに立ち上げられた「ブレインパフォーマンスセンター」と大規模なコラボレーションを行なうようになったことです。今から6~7年前の話です。
ブレインパフォーマンスセンターとは、バーチャルリアリティ(VR)の手法などを用いて脳の状態を観察し、脳しんとうや睡眠不足などの要因が、気分やパフォーマンスにどのように関わるかを研究するために組織された研究チームです。脳科学や整形外科、睡眠、内分泌などの専門家と一緒に、アスレチックトレーナーとして関わることになりました。現場に立つ人間(私)が、直に研究室と結ばれたという初めての経験でした。
アスレチックトレーナーという仕事は常に現場第一です。トレーニングやリハビリの現場に立ち、個々の選手の状態に合わせたトレーニング法や回復法、生活習慣、食事習慣などを指導することが主な仕事です。
この仕事につくには、大学と大学院で高度な生理学、解剖学、神経学、内分泌学、心理学などを学ばなければなりません。人間の体(脳・精神・身体)の仕組みについて、ひととおりの学識をもっていることが現場に立つ条件になるわけです。
では実際に、大学や大学院での座学が現場にどう生きるのか。研究室の実験や分析で示された結果をどう噛み砕き、応用し、現場で選手たちのサポートに活かすか。そして、いかに現場で結果を出し、科学的知見を根づかせ、それらをすべての前提となる「文化」として発展させていくか。私がスタンフォード大学でキャリアをスタートさせてから十余年、それを実践するチャンスに恵まれたことが、ブレインパフォーマンスセンターに携わることになった最大の意義でした。
先ほど述べたような「専門家、リサーチャー、アスレチックトレーナーの三者の密な連携」は、このころに始まったといえます。以来、最新の科学的知見に基づいた指導というものが、スタンフォード大学のスポーツ部のスタンダードとなってきたのです。

日本人には、もっと「上手な休息」が必要

日本は世界有数の「疲労大国」であるといわれています。会社員はかなりの割合で慢性的に疲れを感じている、世界で一、二を争うほど睡眠時間が短い―といった話をメディアで見聞きするたび、「そういえば自分も……」と、我が身を振り返っている人も多いのではないでしょうか。
疲労が著しくパフォーマンスを下げるというのは、もはやいうまでもないでしょう。それにもかかわらず、多くの人が未だに慢性疲労を感じているのだとしたら、「有効な回復方法を知らない」がゆえに「仕方がないと諦めている」ということなのかもしれません。
活動すれば疲れる。これは当然です。問題は、疲れた状態から元のフラットな状態へと、どう回復させるか。「休息し、回復する」という重要なプロセスをきちんと踏むことが、次のパフォーマンスを上げる前提条件です。
そして、ぜひここでお伝えしておきたいのは、疲労回復はまったく難しいものではない、ということです。本書で紹介している実践法を見ればわかると思いますが、ちょっとした日常習慣で、「その日の疲れ」を「その日のうち」に、あるいは「今この瞬間の疲れ」を「今この瞬間」に解消することができます。それも気合いと根性といった精神論ではなく、科学的根拠のある簡単な回復法があるのです。
私は、幼いころから「天然資源がない日本にとって、人材が最大の資源」と聞かされて育ちました。日本を離れて長く経ちますが、今もそれを忘れてはいません。時には外側から見たほうが実態を捉えやすいものです。そして海外にいる私の目からすると、現在の日本は、その「最大の資源」を活かしきれていないように映ります。
英語には「過労死」に当たる単語がありません。「働きすぎて死ぬ」という概念がないため、そのまま「karoshi」と表記されます。
つまりは、それほど日本人の「働きすぎ」は異常であり、人材を最大の資源として活かすどころか、消耗しているということ。日本人は総じて、もっと上手に休息をとるべきだと思うのです。
そもそも「努力を重ね、物事に励み、成果を出す」というのは、疲れ果て、苦しみながらでは難しいものです。適切な休息で気力体力を十分に回復してこそ、楽しく幸せに努力を重ねることができる。こういう心身の状態のときにこそ、人は最大のパフォーマンスを発揮します。

好不調の波は自分でコントロールできる

好不調の波が「不調」に傾くと、やる気が起こらない、いつものようにうまくいかない、忍耐力が低くなる、人に優しくできない、体がだるい、頭が重いといった不愉快な症状や現象が起こります。そしてこれらは、放っておくと精神的に病んでしまう入り口にもなりかねません。
気合いと根性の世界では「精神力が弱いからだ」と片づけられがちですが、決して、そのように結論づけることはできません。
人間の体の調子、気分や意欲、あるいは他人を思いやる想像力などは、脳を総司令部とする神経系や内分泌系などの相互的・総合的な働きに左右されます。つまり科学的に検証可能であり、その知見を実践に活かせば、「精神的な弱さ」と片づけることなく、実質的に心身を回復させることができる。ひとことでいえば、好不調の波は自分でコントロール可能なのです。
心身の1つひとつの仕組みを解き明かす理論は、世界的に見ても、特に日本が遅れているというわけではありません。日本でも欧米と同等の研究が行なわれており、情報を得ることは可能です。
しかし、理論をどう理解し、理論同士を結びつけ、座学ではなく実学として生活に役立てていくかという点においては、日本よりも欧米のほうが少し先を走っているように見えます。欧米を先頭として、今、日本をはじめ世界中の研究機関で次々と同じ扉が開かれつつあるといったところでしょうか。

前著『スタンフォード式 疲れない体』から、この2冊目の本を出すまでに3年という年月を費やしました。多岐にわたる研究で明らかにされたことを噛み砕いて現場に応用し、結果を吟味し、新たな手法を新たな習慣として根づかせるには時間が必要です。
日本よりも「少し先」を走っているアメリカで研究と実践に携わる者として、「これはスタンフォード大学で新たに実証され、実際に現場でも効果が認められている」というアップデートされた内容をお伝えするためには、ある程度の年月が必要でした。
というわけで、本書には、今の私にお伝えできることのうち、きっと日本でもすぐに役立ててもらえるだろうと思うものを詰め込みました。
これからお話ししていく知識と実践法が、少しでも、みなさんの人生をより充実させる手助けとなることを願っています。

2021 年8月
スタンフォード大学スポーツ医局
アソシエイトディレクター
アスレチックトレーナー
山田知生


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