見出し画像

試写会便り『FALL/フォール』


(C)2022 FALL MOVIE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.



評価 ★★★☆☆
一言 シリアスな雰囲気は好みが分かれそう。高所恐怖症なら悶絶必至

あらすじ
 高さ600メートルの鉄塔のてっぺんで、仲良しコンビが立ち往生


360度、見渡す限り広がる絶望の図

思っていたのと違う! という問題
 映画を見ていると、しばしば面白い・面白くない以前に「思ってたんと違う!」で悩むことがある。本作『FALL/フォール』(2022年)もそういう映画だ。だってね、動画配信者が高いところに登って降りられなくなるってあらすじを聞いたら、そりゃアレな人たちを笑う、イイ意味で悪意ある映画かなって思うじゃないですか。ところがどっこい本作は、正統派のゼロ・グラビティ』(2013年)フォロワー、つまり『アドリフト 41日間の漂流』(2018年)や『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えた2人』(2020年)なんかと同じ、極限状態ファイト一発サバイバル自分探しムービーである。悩める人が、極限状況でのサバイバルを通じて己の人生を振り返りつつ、心から「生きたい」と叫び奮闘する。本作はそういう映画だ。以下、ネタバレありなので注意。

テクテクと地獄へ登っていきます


鉄塔へ登ろう!
 本作は崖にへばりついている人々の姿から始まる。ベッキーとダンの夫婦は、ロッククライミングが趣味だった。その日も仲良く崖を登っていたが、夫のダンがウッカリ滑落死。ベッキーはロッククライミングもやめて、酒に溺れる毎日を送る。父親の言葉も上の空、絵に描いたようなドン底だ。そんな悲しみに沈んで引きこもるベッキーに、親友の動画配信者ハンターは大胆な提案をする。「恐怖に打ち勝つためには冒険でしょでしょ!」息巻くハンターが持って来た話は、地上600メートルの鉄塔をフリークライミングで登る危険なチャレンジだった。ハンターは“デンジャーD”なる少し恥ずかしい名前で動画配信活動をして、ちょっとした有名人になっていたのである。もちろん彼女がベッキーに声をかけたのは、あくまで友を思っての善意100%。優しいハンターの姿勢に、ベッキーは悩み抜いた末に、挑戦を決意。危険な場所を登り切り、亡き恋人の遺灰を空へと撒いてやろうじゃねぇか。恐怖を断ち切ってやろうじゃねぇか。I wish forever! ……と、主要登場人物が全員基本的に真面目である。「鉄塔に登る動画配信者」と聞いていたから、てっきり未来のBreakingDown強制退場選手みたいな人が出てくるかと思ったら、その真逆でビックリだ。そんなわけで迷惑YouTuberが悲惨な目に遭うのを期待して劇場に向かうと肩透かしを食らうだろう。予告は落下しているところしか見せないストロング・スタイルなので、このへんのミスマッチは要注意である。

人間vs鉄塔、ストロングスタイル一本勝負
 予想よりもずっと生真面目な映画であり、「高いところに自分で登って降りられなくなる」という一見すると間の抜けたストーリーから想像されるユーモアはゼロだ。しかし逆に高所の恐怖と、陰惨なサバイバルでテンパる人々を見たいなら、この映画はきっと期待に応えてくれるだろう。舞台となる鉄塔は古く、錆びついてあちこちガタガタ。ただでさえ高い鉄塔を登るだけでもアレなのに、ネジがポンポン抜けていくところなんて、高所恐怖症の人はマトモに画面を見れないはずだ。てっぺんで立ち往生後も、絡まった人間関係や、人情紙風船、そして人喰いハゲタカなどなど、次々とピンチが襲ってくる。悲惨すぎる脱出方法も「おわぁ」となるだろう。ジャンル『ゼロ・グラビティ』映画にまた一つ、ささやかながら面白い小品が加わった。ちなみに監督のスコット・マンさんは『ファイナル・スコア』(2018年)でサッカー会場を舞台にした奇跡的なまでに丁寧な「ダイハード」映画を撮った人物だ。職人監督として、今後も活躍を期待したい。

絶妙なタイミングで仕事をする鉄塔


まとめ
 高いところに登ったら降りられなくなった! というアイディア一発モノで、決して全てがうまく行っているわけではない。陰惨さと生真面目さが独特のバランスなので、好き嫌いもハッキリ別れるだろう(個人的には最後のダメ押し説教は無い方が良かった)。ただ、それはそれとして、高い所の怖さは確かにある。やっぱね、高い所には登らない方がいいよ。俺も小学5年生くらいの頃にマンションの7階からブラ下がって、局部を壁で刺激する高所オナニーをしていたけど、あれ、一歩間違えると死ぬからね。まだ見ぬてっぺんに憧れる気持ちは分かるが、やはり日々を安全に過ごしたいものである。

■公開情報
2月3日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

■予告


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?