見出し画像

表現の自由と影響力


事件が起きるたび、原因はゲームや漫画などのコンテンツにあったのではないかというメディアの報道がある。それに対しての反論で、だったら海賊漫画を読んだ人はみんな海賊になるのかというものがある。これはもう少し整理した方がよく、考えていくと、対象の実現可能性と、コンテンツの影響力に行き着くだろう。

私たちの世代にバスケットボール選手が多いのはスラムダンクの影響が大きいだろう。少し前のサッカー選手はキャプテン翼、女子バレーに厳しい指導が多いのはアタックナンバーワンの影響だろうと思われる。本、漫画、ドラマの影響で人の行動が変わるということを示した一例ではないか。なぜそれが可能かというと現実的に一歩を踏み出せる対象だからだ。

一方、ワンピースが流行っても海賊を目指す人が少ないのはどのようなプロセスで海賊になれるかがわからないからだ。人がコンテンツで影響を受けた後に行動に移すかどうかは、そこに至る道が目の前にあるかどうかで決まる。リアルに近い描写ほど、人の行動に影響を与えることができる。が故に、映画などのコンテンツでは若年層に対して、喫煙や暴力の描写が一定禁じられている。

北一輝が書いた「日本改造法案大綱」という本がある。これらが2.26事件の青年将校たちの理論的支柱となり、行動を起こさせたとして北は逮捕された。人間はモヤモヤした不満や欲求を抱えるが、それを具体的にどうやって解決したらいいかはなかなか思いつかない。その時にコンテンツの力で解決方法や発揮方法を示すと、堰を切ったように人が行動する。余談だけれども北は片目が義眼だったそうで、しかも義眼の方で相手を見る癖があり、その目で見られると皆一様に身動きが取れないほどの圧を感じたそうだ。

世界中で発禁処分になった本はいくつもある。境目はシンプルに言えば影響力だ。テレビでも深夜番組で許された表現が、夜8時に放送すると許されなくなる。コンテンツを作る人間はより多くの人間に読まれ、感動や面白さを与えたいと思う。自由に表現する一番いい方法は面白くないままでいることだ。

表現者はいつも人を楽しませたり、影響を与えたいと思うが、大事なことはどの程度のレベルを求めるかということだ。ずっと小さなままでいるなら自由でいればいいが、ディズニーのような世界を目指すなら世界中のタブーを知る必要がある。志の高さと影響力の範囲で表現の自由は決まる。

所詮漫画だから人の行動は変わらないよというのは、裏を返すとこのコンテンツはただの観賞用で人の行動を変えるほどの力を持っていないよ、ということでもある。影響とは読む前と読んだ後で何がどの程度変わるかによって決まる。私は日本の漫画はかなりの影響力を持っているのではないかと思う。

With great power comes great responsibility
大いなる力には、大いなる責任が伴う
スパイダーマンの中に出てくる言葉だ。大いなる力を目指すかどうかは、本人の自覚と選択によって決まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?