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五輪に恣意的な判定があるのではないかと感じている方へ

ここ数日で最もよくあるご質問が「今回の冬季五輪の判定が疑わしいと感じる。判定が恣意的に歪められているのではないか」です。これについて回答していきたいと思います。

まず、どのようにスポーツのルールが決まっているかをお話しします。その競技全体のルールは、最上位団体である国際スポーツ団体が決定します。各競技団体によって決め方には違いがありますが、ボードメンバーがいてそこにルール改正であれば改正案が上程され、審議され決定又は棄却されるというプロセスをたどります。そのボードメンバーは選挙や推薦によって各国から選ばれています。

よく勘違いされますが、IOCは競技のルールには関わっていません。IOCが直接運営する競技は一つもなく、あくまでそれぞれの競技団体が参加するオリンピックの運営をおこなっているのがIOCになります。もちろん五輪のレギュレーションや五輪に入る種目などは決定することができますが、陸上のルールや、スキーのルールについて口を出すことはありません。

そのルールは国際競技団体から各国の競技団体に周知されます。陸上でいえば国際陸連で決まり、日本陸連に流れ、日本陸連が各選手や地方陸上協会に伝えるという順番です。そしてそのルール通り運営し、またルール違反していないかをチェックする方(審判、ドーピング検査員、器具の検査員など)分担されています。国際大会の運営であればこのチェックをする方の重要度に応じて、厳しい運用が行われます。例えば国際大会のサッカーの審判は、審判とチームの国籍が同じにならないように配慮されています。審判は開催都市ではなく国際競技団体が選定し、現地に送り込みます。

各競技団体によって制度が違うのでなんとも言えませんが、どの競技団体も審判の中立性が疑われてしまうことはとても恐れています。なぜならばそれによって競技自体の魅力が失われると、ファンが減り競技を始める子供たちも少なくなり、結果として他競技やその他のエンターテイメントとの競争に敗れてしまうからです。また国際大会であればルールの運用で恣意的な操作をしてしまうと世界中のメディアから見られているために思いっきり疑われます。ですから試合の現場でルールを恣意的に運用する可能性はないわけではないですが、確率は低いと思っていいです。むしろ普段やっていないようなことまでやってしまって混乱を招くとか、新しいことを試して混乱を招くということはあり得ます。

陸上も過去にアジア大会でスターティングブロックに圧力を計るセンサーを仕込んでフライングを検知することをやりましたが、5,6回フライングになってしまい大変試合が遅延したのを覚えています。審判も各国からやってきていますし、個人の信用を失ってポジションがなくなることを恐れてもいます。ただ陸上競技のようなかなりはっきりとしたルールの世界で私は育っているので、もっとドロドロした世界があるとしたら現状がわかっていない可能性は否定できないです。

以前はルール変更自体が、誰にとって有利かという理由で議論されている印象がありましたが、今は放送時間に収まるかというメディアと選手とのせめぎ合いであることが多いです。陸上100mのフライングが以前は一人1度まで許容されていたので、今は一発で失格になりました。一説に放送時間内に競技をおさめるためだと言われています。

ルールを自国に有利にしようという動きが全くないわけではありません。ではどこで戦うのかというとルール設定の舞台で戦います。つまり、国際競技団体の合意形成の場が主な戦いの場となります。どの分野でもそうですが、このアジェンダセッティングとルールメイキングの場をコントロールすることに関しては、ヨーロッパ各国が長けています。国際機関がなぜ軒並み欧州にあるのかは何かを示唆していると私は思います。ルールによって、個人にも国にとっても有利不利はあると私は思っています。その戦いは今回に関してはすでに終わっています。今の戦いは次の四年後に向けてになるのだと思います。

ざっくりと言って仕舞えば一般の方が疑うことはだいたい既に問題提起され対応していることが多いです。もちろん完璧ではないですし、恣意的ではなくてもルールや運用の不具合、不手際はよくあります。ただ国際大会は選手にとっても勝負ですが、審判や国際スポーツ団体にとっても勝負になっています。もし競技自体の人気がなくなれば五輪競技から落ちてしまったり、またおかしな運営をすると選手から訴えられることもあるのでそれなりに本気で挑んでいるはずです。

ですのでこの疑問への回答は
「恣意的な運営がされていないとは言い切れないが、それを行うことは各競技団体が管理により難しい仕組みになっている。もし仮に恣意的な何かがあったとしても、国際大会の場合は各国の思惑が入り乱れて誰にとって利益があることなのかが複雑に絡み合っていて特定が難しい」
となるのではないかと思います。

ちなみにアマチュア競技はお金があまりないために、審判の方も薄給かまたは無償であることも珍しくありません。それにもかかわらず国際大会の現場はかなり修羅場で、その中でも責任感を持って対応される各国の審判の方の努力には本当に頭が下がります。


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