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感謝と加害と被害

「感謝」とよく部室などに書かれていて、若い時は典型的な体育会の文化に思えて鼻で笑っていましたが、さまざまな経験をして今はとても重要な考え方だと感じるようになりました。人間の認知バイアスの最たるものは「加害」を少なく見積り「被害」を多く見積もるというものです。

この「被害者意識」は人を卑屈にし、人に加害を加えることを正当化します。されたんだからしてもいいという攻撃性を芽生えさせます。また、自分より持っている相手を見つけてはそれを羨んでしまいます。このような意識は隠そうとしてもわかる人には見えます。この人は嫉妬心の強い人である。卑屈な人である。世の中を恨んでいる人である。というのは所作に、言葉に表れ隠しきれません。

また現実を冷静に見られないことで損をします。世界を歪んで見ているので、人間や関係性を見る目も歪み、仕事や友人関係においてうまくいかないことが増えます。そのうまくいかないことを観察する目もまた歪んでいるので、周囲が自分に加害行為をしている、不当に扱われていると感じたりします。このサイクルから抜け出られず、被害者意識がより強まるということもおきます。

そこで感謝が登場します。感謝にはまず認知バイアスを是正する効果があります。善意や好意に目を向けさせ、被害もあったがもらっているものもたくさんあった、と気が付きやすくなります。この視点に立つと、世の中もまたそう見えてきて他人の行動の理解の仕方が180度変わります。相手の行為の奥に悪意があったのか好意があったのか、前提が変われば意味がまったく変わってしまうようにです。

このような視点に立つと、人には余裕が生まれます。身を守る必要がないからです。余裕があれば人は感情的になることが少なくなり、そうするとそれに呼応するように相手の態度もまた柔らかくなります。感謝できる人間は感情的に余裕がある人だ認識され、そういう人に私たちは魅力を感じ仲良くなりたいと思います。

また、ないものよりあるものに目がいくことで幸福を感じやすくなります。被害は奪われたものに着目させますが、感謝は何をもらっているかに着目をさせますから、今自分が持っているものに注意が向かいます。「ないもの」ではなく「あるもの」に目がいくと心は充足しやすくなります。100歳を超えた方の調査研究では100歳を超えるとどの文化圏においても、幸福感が増すことが知られています。それは「無くしたもの」より「いまあるもの」に目が向くようになるからなのだそうです。

感謝はとても効率が良い考え方だと思います。三浦梅園は「枯れ木に花咲くより、生木に花咲くを驚け」と言いました。当たり前を面白がれということだと理解しています。その背景には今あるものが当たり前ではないという瞬間瞬間を新しく見る気持ちがあると思います。知的好奇心の背後にはこのような感謝が潜んでいると私は思います。

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