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ショートショートその9『博多の叔父』

客「こちらがよく当たる占い師『秩父の父』ですか?」
 
占い師「あ、『秩父の父』は、私の父ですね。私はその息子の、『博多の叔父』です」
 
客「……『秩父の父』の息子が、『博多の叔父』なんですか?」
 
占い師「父から言われたものでね、『お前は今日から『博多の叔父』だと。理由はわかりませんがね。海外で修行している、私の弟は、『上海の蟹』を名乗ってます」
 
客「よくわかりませんが……あの、占ってほしいんですけど」
 
占い師「みなまで言わなくてもわかります。あなたの悩みを解決するために何で占えば良いかを占ってみましょう」
 
客「何で占えばいいかを占う? その、何で占えばいいかを占うには、どうやって占うのですか?」
 
占い師「水晶玉で占います」
 
客「なら、最初から水晶玉で僕の運勢を占えばいいんじゃ……」
 
占い師「占っても構いませんが、悪い運勢が現れたとしても、私は責任は持ちませんが、それでもよろしいですか? もっといい運勢が出る占い方があったのに、と後悔しても私は知りませんよ」
 
客「それなら、何で占えばいい運勢が出るかを水晶玉で占ってください」
 
占い師「わかりました。(水晶玉を3つ取り出して)この3つの水晶玉のどれで占えば、あなたのいい運勢が出るのかをいいのかを占います」
 
客「ん?」
 
占い師「あなたの運勢を占うのには、どの方法で占えばいいかを占う水晶玉をこの3つのうちどれを選べばいいかを今から占います」
 
客「まわりくどい……そんなの、直感でいいですよ」
 
占い師「直感でよろしい?……そうですか、昨日、そうやって直感で選ばれた方が帰りに交通事故に遭われたとか。ちゃんと占いに従っていれば、遭わずに済んだものを……。では、直感でお選びください」
 
客「いいですよ、事故に遭いたくないから、占ってください」
 
占い師「わかりました。では、あなたの運勢を占う方法を占うための水晶玉を選ぶ占いには、タロットカードを使います」
 
客「なんか、まともな占いっぽいですね」
 
占い師「では、(タロットカードを3組取り出し)あなたの運勢を占うための水晶玉を選ぶ占いに使うタロットカードを、この3組のうちどれを使えばいいかを占わなければなりません」
 
客「また始まったよ。直感でいいですよ、直感で」
 
占い師「直感でよろしい?……そうですか。一昨日、直感で選ばれた方が、その翌朝、亡くなりました。ちゃんと占いに従っていれば、死なずに済んだものを……。直感で、どうぞ」
 
客「いいですよ、占ってください」
 
占い師「ちなみに、その方、98歳でした」
 
客「それ、寿命で死んでんじゃないですか」
 
占い師「では、あなたの運勢を占うための水晶玉を選ぶ占いに使うタロットカードをこの3組の中からどれを選ぶのかは、手相で占います」
 
客「……手相でわかるんですか?」
 
占い師「手相にはなんでも出ますから」
 
客「あ、虫眼鏡を3つ取り出して、『この中のどれを選べばいいかを占わなければなりません』ってやるんじゃ……」
 
占い師「虫眼鏡は、20年内愛用のこちらを使います(虫眼鏡を取り出す)」
 
客「ほ、よかった」
 
占い師「この虫眼鏡の汚れを取るためには、(メガネ拭きを3つ取り出しながら)どの3つのメガネ拭きのうちどれで拭けばいいかは……」
 
客「出た!」
 
占い師「これは、私の今の気分で決めます」
 
客「……じゃ、全部気分で良くないですか?」
 
占い師「全部、気分で決めていい? ……そうですか。1週間前に全部気分で決めた方が持ってた株が大暴落して、大損害を出して、首を吊りました。全部気分で決めたばっかりに……。では、これからは全部私の気分で決めます」
 
客「いいですよ。これだけは気分で決めてください。あとは占ってください」
 
占い師「わかりました(と、虫眼鏡を拭く)」
 
客「あなたが占った方は、ずいぶんと亡くなられてるんですね」
 
占い師「(虫眼鏡を拭きながら)亡くなる方もいれば、大きく得をする方もいらっしゃいます。イーロン・マスクを占ったのは私です」
 
客「本当ですか!」
 
占い師「ビル・ゲイツも孫正義も占いました。そのご活躍は、ご存じの通り」
 
客「うまくいく人もいるんですね!で、ではお願いします」
 
占い師「では、あなたの運勢を占うために使う水晶玉を選ぶ占いに使うタロットカードを選ぶ占いを見る手を、右手か左手か選ばないといけません」
 
客「また出た」
 
占い師「右手か左手かは、コイントスで占います」
 
客「コイントス?それって、占いなんですか?」
 
占い師「占いです。表が出れば右手。裏が出れば左手を見ます」
 
客「それは単純でいいですね」
 
占い師「では、あなたの運勢を占うためち使う水晶玉を選ぶ占いに使うタロットカードを選ぶ占いを見る手を選ぶためのコイントスに使う硬貨を、(硬貨を出しながら)1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉」
 
客「出た!」
 
占い師「どれがいいかを占います」
 
客「5円玉で」
 
占い師「へ?」
 
客「ご縁があるように、の5円玉で」
 
占い師「いいんですか?この間、語呂合わせで決めた方が、スズメバチに刺され、マムシに噛まれ、クマに襲われて……」
 
客「僕はいつも、神社のお賽銭は5円玉って決めてるんです。これに関しては、何が出ても悔いはないです」
 
占い師「でも、この間、語呂合わせで決めた方が、スズメバチとサソリに刺され、マムシとハブに噛まれ、クマとライオンに襲われて……」
 
客「構いません!」
 
占い師「そうですか……では、あなたの運勢を占うために使う水晶玉を選ぶ占いに使うタロットカードを選ぶ占いに使う手を選ぶためのコイントスに使う硬貨は5円玉に決まりましたが、では、その5円玉は、いつ鋳造された硬貨にするのか、昭和24年鋳造から令和3年鋳造のものまで、全73枚の中からどれを使うか、占いで……ちょっと、お客さん、お客さん! ……なんだよ、また逃げられちまったよ。俺、向いてないのかな、占い師……(電話をかけて)もしもし、あ、親父? 俺が占い師に向いてるかどうか、占ってくれない?」
 
【糸冬】

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