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スペイン巡礼 1日目


6:30起床。

巡礼者の朝は早い。

特に初日はフランスとスペインの国境の山、ピレネー山脈を超える。

標高差1200m。

最初で最期の試練と言われている。

宿のリビングに降りていくとホスピタレイロ(宿主)が朝食の準備をしている。

オレンジジュース、コーヒー、ジャム、パン。

いかにも安宿の朝食という感じでちょっと拍子抜けした。

仙豆のようなものが出ることを期待していたのだが。

どちらかというと始まりの街サンジャンピエドポーはスペイン巡礼のスタート地点としてお祭り的な雰囲気も感じる。

確かに宿もまぁまぁな値段だ。

僕の場合とりあえず泊まれる宿を探したので、少し高め18€くらいだった。

探せば巡礼宿、アルベルゲもあったのだろう。

アルベルゲとは巡礼者専用の宿のことだ。

公営と私営があり、公営の宿は寄付で泊まれるところや、5€〜泊まれるがある。

それこそボランティアで成り立っているようなものなので、設備は最低限だ。

ベッド、シャワー、キッチン。

これもそのアルベルゲによって整い具合が違くて面白い。

後々いろいろ話すことになる。

私営の宿は個人経営の宿だったりするので公営よりは比較的高めの値段だ。

比較的設備は整っているが、10€〜くらいだ。

僕みたいな金なし巡礼者には厳しい。

ただ、冷静に考えてみよう。

ヨーロッパで10€で泊まれて普通のゲストハウス並みの設備があるだけでもめちゃすごい。

まして5€。。

恐ろしい安さだ。

それもこれもこの巡礼にはある掟があるのだ。

巡礼者は同じ宿に連泊してはならない。

つまり、歩き続けなければいけないのだ。

ただ、無理する必要はない。

歩き疲れた翌日、どうして疲れていたり、気分が乗らなかったら、少しだけ、歩いてその街のアルベルゲを目指せばいい。

例えば、大きな街で見たいところ、行きたいところがどうしても一日では周りきれない。

そんな時はその街の別のアルベルゲに泊まれいい。

大きな街にはそれだけ多くのアルベルゲが用意されている。

旅人たちが宿からはぐれることがないように。

そんな風に、掟はあるけれど、大したことなくて、巡礼は自由なものだ。

決めて、動く。

その繰り返しだ。

ただ、すごく大切なことで、日本にいると見落としてしまいそうになることだった。

旅が進むに連れてこのこともわかるようになってくる。

この話ままたあとで。

パンが焼けるのを待っているとだんだんと巡礼者たちが集まってきた。

フランス人の夫婦、スペイン人の男性、同じテーブルに着いた。

全くわからないスペイン語だが基本的なスペイン語が載っている本片手にスペイン人と話してみる。

なんとなく身振り手振りで。

全然わからないけど、スペイン人はいい人そうだと感じた。

いやに僕が出されたパンを熱心に食べているからフランス人のマダムがパンくれた。

フランスで買ってきたのかな?

かなり重い。

詰まっている。

全粒粉じゃないけど、濃い味。

粉はかなり黄色。

食べきれないのでお礼を言い大切にリュックにつめた。

朝食を食べ終え、みんな準備で忙しない感じだ。

なんたってこれから今日中にピレネー山脈を越えなければならない。

宿は26キロ先にしかないからだ。

みんなで健闘を祈り、

ブエンカミーノ!

言葉を交わし合った。

おぉーー!これが噂のブエンカミーノ。

とりあえずこれを言っておけばいいらしいワードナンバーワンだ。

高校に入って、とりあえず会う人に、お前どこ中?って聞くみたいな。

長い旅が始まった。

小心者な僕はとりあえず新島さんについていくことに。

元々ソニーで働いていた新島さん。話し振りから察するに、部長クラスか。

そのあとほかの電子系の会社に入り、メキシコで何年か仕事をしていたらしい。

マラソンが趣味。

話せば話すほどドMなのが伝わってきた。

ぼくたちはとにかく歩くのが早かった。

というか新島さんが早いので僕もついていってただけだが。

多分前に誰かいると、抜かしたくなってしまうのだ。

ランナーだから。

はじめは少し霧がかかって霧雨の天気模様も登り始めるとだんだんと晴れ間が差してきた。

みんなトレッキング棒を持っているのに使っていない。

多分使い方があまりわかっていないんだ。

安易な僕はもちろんそんなもの装備せずに巡礼に乗り込んだ。

後々この棒にどれだけ助けられることか。

なだらかな登り道を歩く。

最初はお互い話しながら歩いていたが、だんだんと口数は減っていった。

疲れたというよりも、歩くのに夢中になっていった。

霧も晴れてきた。

気持ちがいい。

登ればまた違う表情を見せる山。天空っぽい。

天空にある自然美。

休憩中カナダ人のガールズ。

美脚。

こんな感じの道をひたすら。

なぜかあまり登り切った感がないままいつの間にか山下りに。

これがきつかった。

登りと違ってピレネーの下りは急だ。

最短ルートで作られたのでは、と思うほど急だ。

この時すでに棒を持ってこなかったことを後悔した。

常に身体は少し後ろに仰け反らせつつも足は斜面を捉えている状態なので相当な負担が膝に来る。

新島さんは棒を装備していたから早い早い。

走ってるじゃないかと思うほどに、どんどん突き進む。

僕は走ることにした。

10キロのリュック背負って。

これが正解だった。

リュックはバシッと身体に固定させているので走ってもあまり違和感は感じない。

むしろ追い風のごとく重さで押される。

早い早い。

みんな笑ってる。

そうこうしているうちに麓らしき場所に到着。

旅人を待つかのような穏やかな川辺。

すぐさまパンイチになり川に浸かる。

昇天。

笑点。

言葉なんて通じないけど、なんか通じてる。

そんな初日のピレネー越えでした。

山を下るとそこにあるのは大きな教会が1つ。

14時くらいに到着。

みんな荷物置いてトイレやらなにやらで入口がごった返している。

汗をかいて疲れた表情の女性は妙に色っぽい。

いかんいかん。

全然勝手がわからないのでとりあえず行列に並ぶ。

後ろに並んだ台湾人の女性と話す。

どうやら子供が日本に留学しているらしい。

とりあえず笑顔でイエス。

なんとなく聞き取って理解はできるけど、即座に英語変換することに慣れていない。

そうこうしているうちに、自分の受付的なものの順番に。

年齢やら国籍やら、パスポート番号やら、ディナーと朝食付きか、ディナーだけか、とかいろいろ。

宗教っていう項目が。

仏教、ヒンズー、カトリック、プロテスタント、いろい

スペイン巡礼とはキリスト教の聖地、サンティアゴデコンポステーラを目指すものだ。

ただ、こうして宗教に関する記入欄があるということは、そこまでガチガチに宗教色が強いものというわけではないという気がした。

15€を支払いディナー朝食付きにした。

受付を済ませ階段を登ると2段ベッドが2つで1つのボックスのようなもの並んでいる。

結構みんな元気そう、というか楽しそう。

本当に天候に恵まれたピレネー越えだった。

後々日本人の女性から聞いた話だけれど、ひどい嵐のような天候で雪まで降ったらしい。

一緒に歩いていた友達は凍傷寸前だったとか。

聞いた話だからどうしても頭では怖いなぁと理解できてもどうしても他人事になってしまう。

運がよかった。

そう思うことにした。

洗濯もの戦争が終わり無事自分の服を干せる場所を確保。

なにせ今日到着した巡礼者は100人を超えている。

洗濯をする人も多いだろうから天日で、干せるか部屋のベッド干しになるかは雲泥の差だ。

ディナーまでつかの間の自由時間だ。

みんな思い思いの時間を過ごしている。

すぐにいびきをかいて寝始めるおっちゃん。

声は抜群に大きいコリアン達。

教会へミサに行く者。

ぼくは、

久美さんと電話してたなぁ。

ほとんどのアルベルゲはwifiが使える。

ただ巡礼者が多くなればなるほど通信は遅くなる。

巡礼しててもスマートフォンはみんな使う。

そんな時代だ。

とにかく心細かったから、ぼくにとってはこちらにいて話せるだけでありがたかった。

向こうは夜中だったろうにいつも付き合ってくれて、本当に感謝しかない。

ありがとう。

こちらに来て初めて食事らしい食事をした。

ワイン、パン、パスタ、グリルされた鶏肉。

26キロ歩いてた後の食事。

涙が出るほどうまかった。

普通は、旅効果とか、な食べ慣れていない味だからとか、お腹が空いているからとか、そんな感じだと思うが、

ここには少しぼくの考えがあって、

普段日本で普通に生活していたらそんな何十キロも荷物持ってただ、矢印しかない道を進んだり、ましてそれが山道だったり言葉も通じない場所であることなんてない。き

そんな精神的にも肉体的にも披露困憊な時の空腹時に食べる食事なんて、涙が出るほどうまいに決まってる。

それに加えてうまいワインが飲み放題だ。

隣に座ったコリアンのジョーと片言の日本語混じり英語で楽しく飲み明かした。

コリアンの人達はセカンドネームみたいなのがみんなあって、自分で好きな名前を付けれるらしい。

たしかにアルファベッドでハングルは発音しづらい。

ジョーはイギリス留学中でエンジニアになる勉強中。

待ち受け画面が彼女の写真。

いつも音楽聴きながら歩いている。

why do yo do?

聞いてみた。

小さいころからの夢だったんだって。

すっげーーー!ぢゃぁ今夢真っ只中ぢゃん?

なんで旅してるの?

巡礼の本とかインタネットサイトとか見てるとよく見るフレーズ。

いざ自分が歩いてみてその質問をしたりされた時、なんでその質問をするかがわかったような気がする。

そんなことを考えながらワインに溺れてベッドに埋まった。

明日の朝は早い。

2日目は40キロの道のりだ。

“なんで旅してるの?”

Saint-Jean-Pied-de-Port

→Roncesvalles


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