「メディア」ではないライブ配信をつくるーPocochaの設計思想
はじめまして、水田大輔です。2017年にサービスを立ち上げてから4年間、ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」のプロダクトオーナーをしています。
おかげさまでPocochaはサービス開始以来、規模を拡大することができています。最近では、IR説明会などの機会に業界の方が話題として取り上げてくださることも増えてきました。
実は僕は学生時代からサービスを立ち上げてはつぶす、を10回繰り返していて、Pocochaは11個目のサービスです。なかば心も折れそうになっていた中で、11個目にしてようやく人が話題にしてくれるサービスを作ることができました。
Pocochaについて売上の文脈で話題にしていただくことが多い反面、プロダクトの話が出ることが少なく、プロダクトオーナーとしては寂しさも感じています。もっとPocochaというプロダクト自体、そしてPocochaにいるユーザーやコミュニティに興味を持っていただければと考え、このnoteでPocochaの設計思想について話すことにしました。
Pocochaとは?
Pocochaは「ソーシャルライブ」のサービスです。
ライブ配信といえば、アイドルやインフルエンサーなどの芸能人が配信するイメージを持つ方が多いかもしれません。しかしPocochaではもともと芸能活動をしていた方は少数派で、会社員や専業主婦・専業主夫など「一般人」だったライバーが多く活躍しています。
また、Pocochaでは男性ライバーも少なくなく、また女性ライバーの約30%がお子さんのいる「ママライバー」であったりと、老若男女問わず多様なライバーが活動しています。
コンテンツについても、Pocochaは一般的なライブ配信のイメージとは少し異なるかもしれません。ライブ配信に対して、ライバーがトークを披露し、リスナーはライバーにリアクションをとってもらうためにアイテムを使用するというイメージを持っている方も多いと思います。しかし、Pocochaで行われる配信は一般的なイメージよりはるかに双方向的です。ライバーは配信内のほぼ全てのコメントを読み上げ、リスナー同士はコメント内でメンションをつけあって会話し、その場にいる全員がコミュニケーションに参加して楽しみます。配信がコミュニケーションを楽しむ場になっているからこそ、Pocochaでは多くのライバーが毎日数時間の配信を行い、コアなリスナーはその全てに参加しつづけます。
SNSと同様にソーシャルなコミュニティの中でコミュニケーションを楽しむという意味で、Pocochaは「ソーシャルライブ」というジャンルに位置づけられます。類似の「ソーシャルライブ」サービスは2015年あたりから中国で爆発的に人気が高まっていて、アンドリーセン・ホロウィッツからも独自の考察記事が公開されています。
ちなみに、現在は「ソーシャルライブ」という言葉が一般的でないことから、Pocochaは公式には「ライブコミュニケーションアプリ」と呼んでいます。
「メディア」を拒絶し、「ロングテール」を信じる
「ソーシャルライブ」であるPocochaのプロダクト設計において最も大切にしているのは、「ロングテール」なサービスを作ることです。ロングテールとは、ある一部のコンテンツだけにトラフィックを集中させるのではなく、コンテンツの投稿ハードルを下げ、サービスを使う一人ひとりのユーザーそれぞれの居場所をつくるサービス構造のことです。ロングテールこそがプラットフォームビジネスにおける最強の戦略であり、その根幹をなすものだと僕は信じています。
世にある多くのライブ配信サービスは「メディア」型の設計です。誰もが知る著名な有名人がライブ配信をはじめたり、何十万人ものフォロワーを持つライバーが生まれたりといったニュースを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
そのような業界の中で、Pocochaは「メディア」を明確に拒絶します。Pocochaが模索するのは「ロングテール」なライブ配信サービスを作ることです。有名人でなくても、老若男女誰でも配信を始められ、報酬を得ることもできる。そんな世界観を目指しています。
「そうは言っても、ライブ配信はライバーがリスナーの前に立つという構造がある以上”メディア”なのでは?」という反論があるかもしれません。しかし、僕は「配信枠の中でライバーが特別な存在であること」は必ずしもロングテールなサービスをつくる妨げにはならないと考えています。
というのも「ロングテール」なサービスの中にも、誰もがフラットな立場で「情報」によって判断されるのではなく、「誰かにとっての特別な存在」をつくる=「アカウント」に価値があるサービスは存在しているからです。例えば、facebookの投稿やLINEのトークは「他でもない特別な”その人”」が発信するからこそ価値がありますが、誰もが自分の人間関係の中で使うことができます。
僕は、Pocochaを他のソーシャルサービスと比肩するロングテールなサービスに成長させたいと考えています。ここからは、Pocochaが「ロングテール」なサービスを実現するために、日々取り組んでいることを紹介します。
ロングテールなサービスをつくるために① 「みんなにとってベターなもの」をつくらない
ロングテールなサービス構造をつくるためにまず必要とされるのは、徹底した「メディア」の拒絶です。たとえばタイムラインで「多くのリスナーにとってベターな配信」を上位に表示すると、すでに人気の高い一部のライバーにトラフィックが集中してしまいます。リスナーがライバー名で検索することを主導線にした場合も同様に、すでに知名度の高いライバーに多くの人がアクセスするようになってしまいます。
トラフィックを分散させるためには、リスナーがそれぞれに合ったライバーを応援できるよう、個人最適化していくことが重要です。 TikTokやYouTubeでも「検索からレコメンドへ」というトレンドがあるといわれています。この流れは、既存のメガプラットフォームも「みんなが見ているTOPコンテンツをつくる」ことよりも、「一人ひとりに最適化する」ことを重視する流れにあることを示しています。
「一人ひとりへの最適化」を実現するため、Pocochaではリスナーに対して、タイムラインにおけるライバーのレコメンドを実施し、トラフィックやグラフの個人最適化を行っています。
また、ライバーに対しては「配信した時間」に応じて報酬を支払うシステムを導入しています。この仕組みではルールさえ守れば、その日配信をはじめた方もファンが一人しかいないい方も、Pocochaで配信するすべてのライバーが報酬を得ることができます。
ロングテールなサービスをつくるために②「コンテンツを投稿するための準備」を不要にする
個人最適化の仕組みを作っても、発信する人が限られているとロングテールなサービスを作ることはできません。そこで大切にしているのが、「コンテンツを投稿するための準備」を不要にし、誰でも投稿できるようにすることです。
YouTubeやTikTokをふくむ従来型のソーシャルサービスの「投稿」は事前に準備を重ねます。しかし発信後の反応については予測も操作もできずに、視聴数が伸びることを祈ることしかできません。つまり、準備段階でのコストが最大となり、発信→アフターフォローと進むにつれコストが低下していきます。
それに対し、ソーシャルライブの「投稿」は従来型の投稿とは異なります。事前に何も考えずに配信ボタンを押し、自分自身をインターネットに接続することこそが「投稿」にあたります。そしてライバーは、「投稿」のあとに、その場に来たリスナーと向き合い、リアルタイムに考えて答えを導き出していきます。
また、より一層「まずは何も考えずに投稿してみる」ことを可能にするため、Pocochaでは高性能なフィルターを用意して配信ボタンを押す心理的ハードルを下げたり、サムネイル等を作りこむ技術のない初心者ライバーでもリスナーを集められるような視聴インセンティブを用意したりしています。実際にPocochaでは、最初は「顔出しで配信するなんてありえない」と思っていたような元リスナーの方がライバーとして活躍するケースがよく見られます。
ロングテールなサービスをつくるために③ 「ナラティブエコノミー」で「何者でもなかった人」のアカウントの価値を増幅させる
このようにロングテールなPocochaにおいて、ライバーの多くは、もともと多くのファンを持つ有名人や特殊なスキル・ビジュアルの持ち主ではありません。今までの人生で人前に立つことがなかった主婦・主夫や会社員の方が配信を始めることも多くあります。
そこで必要になるのが、もともと「何者でもなかった人」が「誰かにとっての特別な存在」になるよう「ナラティブ」を紡いでいくことです。その先にこそ僕たちが信じるロングテールプラットフォームにおける最大の価値があります。
2020年にけんすうさんが自らのnote記事で「プロセス・エコノミー」という概念を提唱しました。プロセス・エコノミーを簡単に説明すると「最終的なアウトプットではなく、プロセスにお金を払う」というビジネスのあり方です。この記事で、Pocochaも例として挙げていただいています。
「プロセス・エコノミー」の中でも、Pocochaは、発信者がプロセスを見せるだけでなくライバーとリスナーが同じ物語を共有し共につくりあげる、いわば「ナラティブ・エコノミー」だと考えています。
ナラティブ・エコノミーの中で重要な役割を果たすのが「雑談」です。Pocochaで行われる配信の多くは「雑談」なので、YouTubeやTikTokと同じイメージで覗きにくると、すぐにはおもしろさが分かりづらいかもしれません。「雑談」はその中身・情報を楽しむのではなく、関係性を紡いでいくために行われるものです。「好きな人とのLINEが一番のコンテンツ」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。第三者から見れば他愛のないやりとりであっても、「雑談」を通してその人と関係値を深めていくことに価値が生まれるのです。
「プロセス」という言葉では表しきれない「ナラティブ」の特性は、人間関係の積み重ねがあるからこそ生まれる感情の深さです。たとえば、Pocochaで開催するイベントに、テレビCMや雑誌モデルの出演権利、オリジナルグッズなどのプライズをかけて、配信枠同士で盛り上がりを競い合うというものがあります。
イベントの最終日には、緊張しながらも高揚しているライバーの表情を見ることができます。リスナーにも、ライバーの感情が伝染し、緊張や高揚をライバーと共有しているコメントが見て取れます。イベント終了直前の数分間はこの緊張が最高潮に達し、指先が震え声が上擦ったり、耐えきれず泣き出してしまったり、祈りに似た姿勢で固まるライバーもいます。リスナーも同じで、最後の集計時間にはスマホ画面を直視できず、配信枠を思わず退室する人もいるほどです。実は僕もリスナーとしてはそのタイプです。
ここまで感情が突き動かされるのは、ライバー・リスナーがそれまでに体験を共有し、「他でもない誰か」として深い関係を築いてきたからです。この感動は、決してライブ配信に特有のものではありません。中高生のときの文化祭や体育祭、仕事での大きなプロジェクト、友人の結婚式など、一人ひとりの人生にとって重要な感動の場面はどれも、プロセスを共有し、雑談を積み重ねて相手との関係性を深めてきたからこそ生まれたものではないでしょうか。ライバー・リスナーの関係は、彼らにとって人生の中での重要な出来事になっているのです。
そして、このように一人ひとりにとってのかけがえのない「ナラティブ」が圧倒的な規模で、無限に生み出されていくのが、ロングテールなプラットフォームの可能性です。
描かれつつある未来像
Pocochaは「ナラティブ・エコノミー」をロングテールに実現することを目指してプロダクト設計をしてきました。
しかし実は、この一年はユーザー規模拡大とグローバルリリースに向けた安定性やパフォーマンス改善に注力しており、新機能追加などは止まっている状態でした。直近ようやく技術的負債の返済に区切りがつき、開発を再始動できるようになりました。
そんなPocochaが目指している未来のビジョンは、下記の図で表されます。
プラットフォームマネジメント(PfM)トライアングルはPococha独自のフレームワークです。プロダクトマネジメント(PdM)トライアングルをベースとして、プラットフォームの開発で行うべきことの輪郭を描いています。そして、このプラットフォームマネジメント(PfM)プロトコルそれぞれにビジョンを描き、フェーズ1,2,3,という形でロードマップを定義しています。
フェーズ1,2,3という形で定義していると言ったものの、実はまだPocochaはフェーズ1の道半ばです。というのも、最近になってようやく、Pocochaというプラットフォームについてあるべき姿の輪郭がつかめてきた、それを実現するためのプロトコルの分解ができてきたという状況だからです。
Pocochaはプラットフォームビジネスにおいて、ようやくビジョンを描けるようになってきました。そして自分たちのサービスとしての現在地はまだまだ初期段階で、大目に見てもグロースフェーズの初期段階だと考えています。逆に言えば、ソーシャルライブドメインは今後圧倒的に規模を拡大するポテンシャルを秘めていると信じています。
Pocochaでは、共に「ロングテール」なプラットフォームが勝利することを信じ、ソーシャルライブというメガドメインを切り開く仲間を募集しています。
まだまだ未完成なチーム、未完成なプロダクトです。あるべき姿に向けて、具体的な戦略や仮説などに興味を持ってくださる方がいればぜひZoomなどでお話したいです。TwitterDMにご連絡お待ちしています!
Twitter:https://twitter.com/daisukemzt
採用サイト:https://jobs-pococha.com/
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