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子どもに自由にすごしてほしい(「教育と人間」寄稿)

「よ!」と少年が、やってきました。友達と一緒に、中山道に面した入口から、土間を通り抜け、靴をぬぎ、膝を床につけながら、部屋に入ってきます。額には、大粒の汗を光らせています。

ここは、滋賀県米原市。米原駅すぐ近くの築200年を超える古民家です。ここで、子どもたちが自由に集り過ごせるようにと、約9年間、ぼくたちが開けられるときに参加費無料・申し込み不要で、開けています。

使い込まれた床や天井の板は、飴色になり光沢もあります。大人たちは、ここに来ると「懐かしい」とか「落ち着く」と言ってくれます。とても、いい場所です。

ここにやってくる子どもたちにとっても、この建物のもつ落ち着く雰囲気は何かしら意味をもつのかもしれないです。しかし、「よ!」とやってくる少年が「落ち着く」とか「いい雰囲気やね」と建物を見ていうことはありません。

先日も、どんどんと大きな足音を立てながら建物に入り、「地球グミ、ないんか」と少し前にYoutubeで流行った、お菓子を催促します。「ごめん、高いから買えない」と言うと「なんやねん」と少し文句も言います。でも、文句を言ったまま、暑いなあと言い扇風機にあたります。

そんな彼も、ここに、しょっちゅうくるわけでは、ありません。学校が少し早く終わった日や、長期休暇などに、ふらっと立ち寄ります。

ただ、彼らの登下校の通路に古民家があるので、開けているときは、とくに下校中の彼と話すことはあります。

「おかえり」「お。」とか「暑いなあ」「うん」と話していると言えるのか、わからないやりとりを日々重ねています。

サメの絵 

いまでは、小学校の同級生と自転車でやってくる彼も、ここに来始めたときは、親と一緒にやってきていました。古民家を、あけはじめたときからの常連です。そして、ここに来ると、絵をよく描いていました。サメの絵を描いては、見せてくれていました。

彼は、何も見ずに、サメをすらすらと描きます。その絵がとっても上手で、「うまいなあ」というと、サメの種類を教えてくれます。

ホオジロザメが好きなことも教えてくれました。「この3本線なんなん?」と聞くと、「ここはサメのエラやねん」と教えてくれました。

そんな彼も、小学校に入るとなかなか来ることはなくなりました。下校中の、彼に聞くと習い事をはじめたようです。「忙しいんやって」と言います。

しばらく来なくなっていた彼が、ふたたび、ちらほら来るようになったのは、コロナ禍で学校休校になったことがきっかけです。コロナ禍が猛威を振るった時、彼は日中をずっと家で過ごすことになりました。

当時、古民家を内緒で開けていました。シャッターをおろして開いているようには見えなくして、でも来たい子どもは、よかったらどうぞと開けていました。

すると、彼の友達が、平日の昼間に古民家に短い時間ですが、遊びに来るようになりました。そして、しばらくすると彼も一緒にやってきました。みんなでゲーム機のSwitchをもってきて、古民家でゲームをする。そして、時間になったら帰っていきます。ぼくは、それを眺めていて、ときどき「お腹すいた」と言えば、古民家にあるものでご飯を作っていました。

学校休校がおわり、学校が始まると彼はまた、来なくなりました。

また来てくれる

そんな彼が、先日ふらっと来ました。彼が帰ったあと、部屋を掃除しているとサメの絵がありました。あのときと変わらず、エラが描かれている。変わらないなあと嬉しくなりました。

この先、中学生になると、下校中の彼と会うことも減っていくのだろうと思います。それでも、ときどき、ふと古民家のことを思いだして「行ってみようかな」と思ってくれたら、嬉しいです。

ぼくが食べたいものを食べて、読みたいものを読むために使います!