⑩NPOを支援する人材が”足りていない「機能支援」”もまだまだある

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。「NPO支援者育成試論」、今回で10本目の記事です。マニアックな連載をお読みいただいている皆さま、ありがとうございます。当初の予想通り回を追うごとに執筆スピードも落ち、マニア度が増している感じもしますが、まだまだ考えて整理していきたい話題がたくさんありますので良ければ引き続きお付き合いいただけますと幸いです。

さて、前回の記事では「機能支援(ファンドレイジング、IT、法務、デザインなど組織におけるt特定の機能的な課題の解決のための支援)」はある程度足りているのではないか、ということを書きましたが、今回は前回書いたことについて少し補足的な観点の話をしておきたいと思います。

前回書いたのは、機能支援はその定義上の構造からいってもニーズが満たされやすいのですが、もちろん個別に見ていけばニーズに対して支援者が足りていないものもありますよ、という話です。


NPO支援者が足りていない「機能支援」もある

当たり前ですが「すべての機能支援が足りている」と乱暴に言う気はありません。私自身も普段多くのNPOのみなさんとお話する中で、実際に機能的な支援において支援者が足りないと感じているものもあります。色々あるのですが、特に支援者が増える必要性を感じる分野についていくつか考えながら述べていきます。

ファンドレイジングの特化テーマ

例えば「ファンドレイジング」というのはNPO支援の中でも非常にニーズの大きいテーマですが、一口にファンドレイジングといっても相当に幅広く、ファンドレイジング支援を行っている支援者それぞれで得意分野はさまざまです。そんな中でも最近よく相談や質問(例えば「●●が得意な支援者さん知りませんか?」といった質問など)を受けるのは

・デジタルファンドレイジング(特にWeb広告の運用、戦略や企画・施策の立案、分析など)
・法人支援獲得/法人連携

です。この辺りは、ファンドレイジング自体にはすでにある程度力を入れていて、さらに強化をしていきたいという団体さんでニーズが増えているようですが、デジタルファンドレイジングであればデジタルマーケティングやWebマーケティングの知識や経験が必要ですし、法人支援獲得であれば企業への提案営業の経験や企業のCSR等社会貢献活動についての知識や経験が必要といった形でファンドレイジングに加えてビジネスパーソンとしてのこれらの業務に関する知見が求められており、それらを高いレベルで持ちつつ、NPO支援に対して強い想いを持っている人材というのがまだまだ少ないということなのだと思います。日本の寄付市場を広げていくことにかなり大きく関わっていくことのできる支援の仕方ですので、ぜひこの辺りの分野の支援者として名乗りをあげてくださる方が増えると良いなと思います。

IT/DX分野

こちらは今さら言う必要もない程以前から言われていますし、この分野でNPOを支援することのできる人材も増えてきていると思いますが、まだまだ足りていないと感じるというか、この分野で支援者として名乗りを上げてくださる方が継続的に活動してくださるケースが残念ながら少ないように感じています。もちろん長く活動してくださっている方もいらっしゃいますし、NPOの支援を始めたら辞めてはいけないということではないのですが、元々Webディレクターという隣接しているようなしていないような業種で働いていた身からすると、IT分野特有の原因のようなものもあるような気がしています。まずはそもそも非営利に限らず引く手あまたの分野であり専門性であるということ。この点についてはデジタルファンドレイジング(デジタルマーケティング)も同様です。ただ、2点目の問題点として、NPOの案件をこなす際の難易度が営利組織を相手にする場合と比べて高くなってしまいやすいという点はIT分野ならではの問題としてあるように思います。ざっくりと言ってしまえば、NPOの方が圧倒的に業務や組織のITリテラシーが低いということです。例えば、NPOへのIT/DX支援の代表的な例として、CRMツールやグループウェアなどのITツールの導入による業務効率化があります。Salesforce、サイボウズ社製品、GoogleやMicrosoftの各ツールなどがNPO向けに無償や格安で提供されているが、導入や使いこなしをしようとすると専門知識が必要ということで、有償・無償(ITプロボノ等)でNPOを支援を行う方が必要となるのですが、ツール導入によるIT化という以前にそもそもアナログのレベルでの業務や組織の仕組み化がまずできていない組織も多いのです。この場合、業務設計や組織設計からやらないといけなかったり、あるいはアナログレベルでの仕組み化はされていたとしてもそのアナログ度合いやとっ散らかり具合が営利組織の比ではないということも少なくありません。つまりは、営利組織で似たような案件を行うのに比べてめちゃくちゃ大変な訳ですね。しかし、その大変さに対して報酬が比例して大きくなるわけではなく、むしろ低価格だったり無償だったりするので、なかなか続かなくなってしまう、という状況はあるでしょう。(一方のデジタルファンドレイジングの場合は、Web広告その他のデジタルファンドレイジングならではの施策は基本的に組織の既存の業務や施策とは別に始めることになるので業務設計がしやすいですし、そもそもデジタルファンドレイジングに外部支援者を入れて取り組むというニーズがある時点で組織としてある程度以上のフェーズに達していると言えます)ということで、IT分野でNPO支援を行ってくださる方には、NPO組織の実態や文化的な面も含めた文脈を理解していただくことや、業務設計のコンサルティングも含めて広く関わること自体に楽しさを見出していただいたり、あるいはその辺りの支援ができる他のNPO支援者と組みながらNPOと関わるといったことが必要になるかと思います。

採用/育成

続いては採用・育成などの人事周りの支援です。多くの団体さんから「求人を出しているけれどなかなか良い人材に出会えない」という悩みを聞きます。採用については私自身が詳しくないので、個別の団体の採用戦略の見直しを支援すれば良いのか、あるいはソーシャルセクター全体への人材流入を高めることを広く仕掛けていくようなことからやらないとどうしようもないのか、そこら辺から分からない、というか考えていきたいのですが、私が就活をしていた頃(丁度リーマンショックの年でした)に比べて格段に多くのNPOが魅力的な求人を出すようになっているのに、その求人に対して十分な応募が集まっていない、と私は感じています。この辺りを支援してくれる方は業界として求められているのではないかと感じます。

また、採用とは別に、すでに組織内・業界内で働いているNPO職員に対してのフォローも十分にはできていないと感じる団体も多くあります。というかこの辺りがしっかりできていると感じる団体の方が少ないですね。そもそもマネジメント全般ができていない団体が多いのが実情ですが、中でも育成や評価についてはそもそも必要性すら認識されていないケースがほとんどといった状況のように感じています。(まぁNPOに限らず営利組織組織でも十分にできている組織はどれだけあるんだろう、とは思いますが、人やコミュニティを支えることを掲げているNPOがそこに従事している人を大切にできていないというのはなかなか辛い状況だと考えています)私は基本的にNPO業界は非常に魅力的な職場だと私は感じていますし、働いている多くの方々もそう感じていると思いますが、一方で残念ながら離職率も高いのではないでしょうか。かなり印象や肌感覚で述べてしまっているのですが、特に若手社会人からミドル層ぐらいまでの人材が自分自身のキャリアをどのように描けば良いのか分からないといった悩みを持っているケースは非常に多いように感じています。悩みを抱えているNPO人材に個別に寄り添う形を手厚くしていくことが必要(例えばコーチングやキャリアコンサルティングなど)なのか、あるいは団体の人材育成施策やマネジメントなど組織開発的なアプローチから支援していく形を充実させていくことが有効なのか、どのような支援が適切なのかも考えていきたいですが、少なくともこの辺りの人事周りに特化して支援している方はまだまだ少ないように感じます。(支援ニーズがハッキリしているファンドレイジングに対して、人事周りの施策については支援の必要性自体を認知してもらうことも同時に行わなければならない点は難しそうだなとも思いますが)

以上、本記事では組織の特定の機能的な課題の解決を目指す支援である機能支援のうち、特にNPO支援者が足りていないと感じるテーマについて私の視点から書いてみました。これからNPO支援者を目指したいという方はご自身の専門性を深めていく上での参考にしていただけると良いかもしれません。また、今回書いていないものでもいくつかありますので、NPO支援者を目指したいけどどのような専門性で関わっていくか考えあぐねている、というような方がもしいらっしゃればご相談に乗ったりもできますのでnoteやブログの問い合わせ、TwitterのDM等でご相談ください。できる限りお答えしていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

LINE公式アカウントでnoteやブログの新着記事のお知らせをしていますので良ければご登録ください。


NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。