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「プロジェクトX 〜 挑戦者たち 〜」の再放送について

2000年〜2005年までNHKで放送された「プロジェクトX 〜 挑戦者たち 〜」が4Kリストア版としてNHK・BSで再放送されました。好評だったドキュメンタリー番組ですが、へそ曲がりの私には?マークの付く番組でした。再放送で初めてご覧になられた方は、特に若い方はこの番組をどのように受け止めたのでしょうか?小興味です。

2001年11月15日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

私が子供の頃、大人はいつも働いていた。

週休2日制度が導入されて、それが定着化してきたのは、つい最近のような気がする。

昭和40年代前半、1960年代の半ばの頃、大人は土曜日でも普通に働いていたし、子供の方も当時は土曜日でも昼まで授業があった。

だから週末に両親とどこかへ遊びに行った記憶はほとんど無い。

我が家だけが特別だったということも大いに考えられる。しかし土曜日の午後、日曜日はいつも近所の子供たちや友達と近所の空き地や小学校のグラウンド、昔はいつも解放されていた、で遊んでいた。野球をしたり、ドッジボールをしたり、隣町まで探検に行ったり、そんなことをして過ごしていた。

つまり他の子供たちも週末に両親と外出することはほとんど無かったから何時でも一緒に遊べた訳だ。

その頃は日本の高度成長期。大人は週末返上で忙しく働いていたので、子供と遊ぶ時間や今で言う家庭サービスなど無かったのだろう。会社の業績は右肩上がりでぐんぐん伸び、子供たちの背丈もぐんぐん伸びた。それは少年期から青年期へと移行する節目の時代だった。

伸び盛りの時代

NHKの人気番組、「プロジェクトX」で主に取り上げられるのはそんな伸び盛りの頃の日本企業で働くサラリーマンたちの姿が多い。

存亡の危機に立たされた会社を救うため、仕事に邁進し、難題に直面しながらも最終的には成功を納める人々のサクセス・ストーリー。富士通の国産コンピューター開発、マツダのロータリー・エンジン開発や日本ビクターのVHS開発など、技術系のテーマが多い。

部下を掌握し、奮い立たせる理想的な上司のキャラクターや泣かせる名台詞も随所にちりばめられている。それに音楽はモダン演歌(?)の中島みゆき。彼女の歌う 《地上の星》 や 《ヘッドライト・テールライト》 も効果的に使われ、エンディングの部分ではお涙頂戴的な雰囲気を盛り上げる。

高度成長期に子供時代を過ごし、今やデフレやリストラに苦しむ中年層のサラリーマンたちにとって「プロジェクトX」に登場する主人公たちは理想の上司像なのかもしれない。それに誰でも人生に一度は大きなプロジェクトに参加し、存分に腕をふるってみたい、と思うだろう。

番組が終わり、「う~ん、凄いなぁ... 」と唸ること約数分。しかしあまりにも献身的に働く姿を、これでもか!と見せつけられると、本当にこれでいいのか? という単純な疑問が次第に湧いてくる。

「プロジェクトX」の底辺にあるのは難問・難題に立ち向かう人のヒューマン・ドキュメントを装った労働礼賛ではないだろうか? 高度成長期の熱病のようなオーバー・ワークを肯定的に描かないと成立しない番組ではないだろうか? そこにはいつ過労死を迎えてもおかしくない過酷な労働条件に対する批判的な視線は感じられない。

日本人は盲目的に働きに働き続け、その結果1980年代には繁栄のピークであるバブル期を迎えた。そして21世紀の今はその歪んだ繁栄の後始末、負の遺産の対処に苦しんでいる。そんな時に “かつての栄光を再び” 的な番組は何かの役に立つのだろうか?

これからは年間5週間ぐらいの有給休暇が誰でも自由に取れるようになり、余暇を大切にしながらゆっくりと人生を過ごせる社会になってほしい。

個人個人が自分自身の「プロジェクトX」を探し、見つけ、実行し、豊かな人生を過ごせるような社会になってほしい。

その国の “文化の厚み” はそんなところから長い時間をかけて腐葉土のように少しづつ蓄積され、生まれると思う。

そんな豊かな社会を子供たちの子供たちの子供たちのために残してあげるのが本当の「プロジェクトX」ではないだろうか。

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