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焼きたてチーズタルトのPABLOをマーケティングトレースしてみた

1ヵ月ほど前に友人のお土産でチーズタルトをいただいたのをきっかけに、そういえば、大阪に在住の時はPABLOのチーズタルトが好きで、数ヵ月に1度は食べてたなーと思い出しました。
大阪に住んでいたときは、梅田・心斎橋・なんばといった中心街にカフェ併設店もあったのでよく目にしたけど、昨年東京に転勤して来て、そういえば都心部でPABLOを見かけないなーと思って調べてみたら、関東の店舗は新宿・秋葉原・北千住と都心部での出店は少ないよう。都心部のメイン店舗は数年前に閉店してしまったようですね。
※渋谷:2016年閉店、表参道:2018年閉店

PABLOは大阪本社という会社もあり、関東は注力していないのかなーとか、競合(東京だとBAKEが多い印象)多くて厳しいのかなーとか色々気になりだしたので、PABLOのマーケティングトレースしてみようと思います。

テイクアウトスイーツの市場環境

まずはPABLOが置かれる市場環境をテイクアウトスイーツ市場と位置づけで分析してみよう!と思いましたが、残念ながら、お金を掛けないデスクリサーチではドンピシャな情報ソースがなく、ネットでようやく見つけたのが富士経済さんの「スイーツ市場のメニュー×チャネル別需要分析調査 2018」のプレスリリース記事。

こちらの記事を要約すると、

コンビニエンスストアやチョコレートや焼き菓子(チーズケーキ)といった専門系のチェーン洋菓子店が拡大路線で成長。量販店は堅調な推移。
それに対して個人洋菓子店は、量販店やコンビニの台頭により売り上げ不振や閉店する店舗も多く、縮小傾向が続くとみられ、2018年の国内スイーツ市場を前年比0.3%減の1兆4,179億円と予測。(2017年度に引き続き微減)

こちらのレポート結果からチェーン系洋菓子店に位置付けられるPABLOとしては、追い風な環境と言えそうです。
この市場背景を元にPABLOの置かれている状況を外部情報のみでできる限りの分析をしてみます。

PABLOってどんな会社?

記事を読まれている方でPABLOのことをよく知らないという方もいらっしゃると思うので、まずはPABLOの業態や規模感を整理してみます。

PABLOの運営母体は株式会社ドロキア・オラシータという企業。
自社商品を通してお客様に新しい「オドロキ」を届けることをミッションとして掲げられ、2018年の「働きがいのある会社ランキング」でベストカンパニー(438社中17位)に選出されています。

2008年に立ち上げた前身の総合洋菓子店「パティスリーブラザーズ」を2年足らずで突如閉店させて、2011年に商品をチーズタルトに絞った「PABLO」を立ち上げます。※当時の苦労話はこちらのリンクに詳しく↓

主な商品はホール型のチーズタルト PABLO(680円〜2000円)と、最近流行りの手軽につまめる小さいサイズのミニチーズタルトPABLO mini(220円〜)。お手頃価格ですね。
パティスリーブラザーズの教訓を生かして立ち上がった「PABLO」。
「チーズケーキ業界に革命を」をコンセプトに、「焼きたてチーズタルト」「焼き具合を選べるチーズタルト」としてチーズタルトに付加価値をつけることで、創業当初からTV・雑誌など多方面のメディアに取り上げられます。また、企業コラボを多角的に進めて、店舗以外でのブランド認知を広げる戦略が功を奏します。オープンから数年で爆発的な成長を見せます。

店舗:
 国内:51店舗 海外:18店舗
 →中期計画では 世界100店舗まで広げる予定。

売上:
 2013年度:20億円 →オープン2年で20億円
 2014年度:26億円(昨年比130%)
 2015年度:30億円(昨年比115%)
 2016年度:45億円(昨年比150%)
 2017年度:51億円(昨年比113%)
 2018年度:47億円(昨年比92%)

従業員数:
 2014年頃:350名
 2017.6時点:650名
 2018.4時点:548名
 2019.3時点:626名

上記データは公式サイトやネット上の求人メディアなどから拾い集めました

メディアPR戦略は今でも積極的に行われており、朝のニュース番組や情報番組を中心としたTVやファッション・トレンド系雑誌などへの露出が多いです。※下記は公式サイトより


企業コラボについても調べてみましたが、過去のコラボ商品を見てみると、なかなかすごい数の企画を実施されているようです。コンビニなどでPABLOのコラボ商品を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。

▪️過去にコラボした企業
  ・赤城乳業
  ・おやつカンパニー
  ・ポムの樹
  ・ロッテ
  ・ケンタッキー
  ・大麦工房ロア(ダックワーズというお菓子で有名だそうです)
  ・ファミマ
  ・ミスタードーナツ
  ・ふなっしー
  ・北川半兵衛商店(京都の抹茶の老舗とGREEN PABLOを展開)
  ・ANA(羽田空港にコラボ店舗をオープン)

そんなPABLOのマーケティングミックスをまとめてみるとこんな感じ。

成功要因をまとめると、次の3点がうまくハマったのかなと考えています。
①お菓子として一般的だったチーズタルトに「焼きたて」や「焼き加減を選べる」といった付加価値をつけたこと
③メディア戦略と企業コラボで話題性と幅広い層にブランド認知を作れたこと
②マス層に届きやすい低価格設定を貫いたこと

5Forceの観点でPABLOの競合状況を分析

●買い手の交渉力
テイクアウトスイーツ業界は、競合が多く他ブランド・他商品に目移りしやすいのもあり、価格・味・話題性のバランスが重要で消費者はそのバランスも見ながら商品購入しているのかなと考えます。
1,000円未満の個人用から、2,000~3,000円前後の家庭/グループ用と、相場価格から飛び抜けた価格帯を提示するブランドがほとんどないのが特徴。同じような価格帯でカジュアル&デイリーユースの市場は競合ひしめき合うレッドオーシャン。買い手側の力が強い市場と言えますね。

●売り手の交渉力
スイーツ(特にテイクアウト)は差別化がしづらい業界の1つと言えます。
著作権もとりづらいので新しい商品を投下してもすぐに模倣品が生まれてしまう。ゆえに1社が圧倒的なシェアを作る構図にはなりにくいのではないでしょうか。また買い手の交渉力でも書いた通り、お手軽テイクアウトスイーツは積極的な価格設定が難しく。総合的に見て売り手側の力は弱いと言えます。

●新規参入
初期投資は低く新規参入しやすい業態だがすでにレッドオーシャン。スイーツそのものだけで勝負は難しいが、+αの要素で差別化してくるブランドも。

●代替品の脅威
常に新しい商品/ブランドが出て消費者の目移りが激しい。話題を作ったとしても常にトレンドが変わるので、顧客が代替品にシフトしやすい業界と言えます。
少し話は脱線しますが、そんな業界の中で関西圏(特に大阪)の人にはチーズケーキでお馴染み、りくろーおじさんのお店は、なんと1984年から「焼きたてチーズケーキ」を売り始め未だに看板商品として不動の人気を誇っています。

代替品の多い市場ではありますが、地域密着で地元民に愛されることで長生きできているブランドもあるようですね。

●競争企業間の敵対関係
チーズタルト・チーズケーキを同一ドメインとして見たときに競合企業をあげるとまず思いつくのはBAKEではないでしょうか。
(大阪人はりくろーおじさんって言うかも知れません)

他にも、銀のぶどうの「チーズケーキ かご盛り 白しらら」、「タント・マリーのチーズタルト」、チーズケーキ専門店の「FORMA」、クリオロの「幻のチーズケーキ」、お取り寄せチーズケーキで有名な「御用邸チーズケーキ」など、個人店も挙げだすとキリがありませんね。

これらの市場環境を5Forceのフレームワークで整理するとこうなりました。

チーズタルト・チーズケーキに限らず、どのスイーツ市場も同じような構造になると思いますが、こう見るとスイーツ市場で戦っていくことの難しさを感じます。
PABLOはメディア戦略・企業コラボを積極的に実施することで話題を作り続け、消費者の注目を集め続けることで、売り手の交渉力を高めることで成長できたのかも知れません。

ちょっと気になるパブロの最近の動向

しかし、直近では2017-2018期で売上減少となり、採用メディアでも「第二期創業期」という文言が明記され、今後の動きが気になるところ。
そう思ってこの1年での店舗の出退店を下記の通り整理してみると、

 ▪️直近での国内閉店。ホールケーキ店(?)の閉店が目立つ。
  2019/1/16 ららぽーと立川立飛店
  2019/1/14 アリオ八尾店
  2019/1/20 さんてす岡山店
  2019/2/24 郡山フェスタ店
  2019/2/24 道頓堀店
  2019/2/28 天満屋岡山店
  2019/2/28 イオン南風原店
  2019/3/10 姫路店
  2019/3/17 神戸さんちか店
  2019/3/28 阿部野橋店

 ▪️2018年下期にかけてPABLO mini店が続々新規オープン
  2018/9/10 PABLO mini 小田急多摩センター店
  2018/11/9 PABLO mini イオンモール津南店
  2018/11/15 PABLO mini エスパル仙台店
  2018/12/20 PABLO mini ららぽーと富士見店
  2019/3/1 PABLO mini アミュプラザ博多店
  2019/3/20 PABLO mini イオンモールウイング新橋店

 ▪️GREEN PABLO、 ANAコラボカフェがオープン
  2018/11/1 京都八坂神社前店 GREEN PABLOへリニューアルオープン
  2019/2/13 なんばCITY店 GREEN PABLOへリニューアルオープン
  2018/12/19 ANA Hangar bay Cafe by PABLO 

 ▪️オンラインストア
  2019/1/30 ドロキアオンラインストアオープン

PABLO mini主体の店舗展開に方針転換しているように見られます。

背景にあるのは、富士経済さんのレポートにもあった「デイリーユースのシーン拡大や催事のカジュアル化」。家や職場に持って帰って食べることに制限されたホールチーズケーキではなく、手づかみでファーストフード感覚で食べられて、利用シーンを選ばないミニスイーツに市場ニーズがシフトしており、それに合わせてPABLO mini中心の店舗展開に変えた動きと見て取れます。
新業態の抹茶×チーズタルト専門のGREEN PABLOやANAとのコラボ店舗、オンラインストア立ち上げで新しい販売チャネルを作ったりと、この1年での変化が激しいですね。この方針展開によってPABLOが業績回復するのか見所ではないでしょうか。

最後に

もしも自分がPABLOのマーケティング担当だと仮定して、会社から業績回復を後押しする施策を考えろと言われれば、「PABLO miniのリブランディング」「オンラインチャネルの再構築」を提案したいと思います。
まず、店舗展開の中心になったPABLO miniですが、残念ながらその独自性がわからない。BAKEの焼きたてチーズタルトやコートダジュールの半熟チーズタルト、他の類似製品と何が違うの?と言われると説明が難しい。工房一体型店舗での出来立てを販売する点においてもBAKEとの違いはほとんど見つかりません。ホールタルトでは「焼き加減が選べる」といった付加価値がありましたが、PABLO miniになって差別化ポイントがなくなってしまったのでは?と感じます。PABLO miniを中心に店舗販売していくのであれば、他の焼きたてミニチーズタルトとの差別化ポイントを作って、自ブランドのポジションを明確にしたいと思います。
もう1点の「オンラインチャネルの再構築」について、話題ピークだった頃のPABLOはSNSでの反響作りもうまかったようですが、直近のSNS投稿内容を見ると新商品紹介コンテンツがほとんどです。
PABLOのターゲットの中心は若い世代+家族層だと思うので、それぞれに適したSNSでの情報発信やユーザを巻き込んで双方コミュニケーションを活性化させてユーザ発信コンテンツ(UGC)が自然発生しやすいような仕組み作りであったり、PR戦略・企業コラボとの連動企画やオンラインストア導線の強化などもまだまだテコ入れできそうな状況だと感じます。
オンラインとオフラインのクロスチャネルでのタッチポイントを最適化するのは簡単では無いですが、PR施策をトリガーにしたユーザ行動促進と、それに合わせて短期的なオンラインプロモーションを企画するなど、PABLOならではのデジタル領域でできることはたくさんありそうです。


以下はデスクリサーチで活用させていただいたサイトです。


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