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法律事務所の潰し方


はじめに

グループ代表から「組織の人」と言われ、素直に受け取ってまずは組織の話を書くことにしました。組織といっても所詮は法律事務所ですから、大げさに組織と言えるような規模を想定した話ではありませんが。

タイトルが少々ドラスティックではあるものの、私が普段意識していることの一つに「どうすれば事務所を潰せるか?」ということがあり、今日はそれについて書いていこうと思います。

何故「潰し方」を考えるのか?

どうすれば良い組織を作れるか?という問いを追求すると、必然的に成功している組織がどのような取り組みをしているかを分析することになります。しかし、私にはその共通項を抽出するのは非常に難しいように思えます。

そもそも法律事務所は、代表弁護士をトップとする小規模組織であることが一般的です。このような組織では、代表のパーソナリティが人をまとめ上げていることが多く、成功しているチームを分析して同じことを実行しても、なかなか同じ効果は得られないのではないかと感じます。

人を組織としてまとめる最大の武器は言葉です。その言葉は、内容よりも誰がそれを言っているかに大きく影響されます。そのため、「私は◯◯という方法で効果が出た」というのは、その人だからこそその言葉が伝わっていることが少なくない。

それよりも、どのような状態に陥ると組織が機能しなくなるかを考える方が、思考がシンプルになります。そのため、私は組織が潰れる状態をイメージしながら、そうならないように注意を払うようにしています。

潰し方1 経営陣をイジる

「イジる」というと言葉のニュアンスが難しいところですが、経営意思を発信する人(=リーダーシップを発揮する人)を嘲笑するということです。これはかなり簡単に法律事務所を潰せる方法じゃないかなと思います。

私は、リーダーシップを、人との関係性を表す概念だと理解しています。よく「リーダーシップがある人・ない人」のような形で、それがスキルや能力のように表現されることがありますが、リーダーシップはそういうものではないと思う。

リーダーシップは、導く人と、それについていく人との関係性によって成立するものです。スキルや能力のある人に、万人が付き従うわけではない。そういう意味で、むしろ多くの場面で重要なのは、自分が経営を委ねた人の能力を最大化するべく、経営意思に付き合うメンバー側の覚悟だと思います。

嘲笑の文化は、これを簡単に阻害します。またこの文化は、誰でも簡単に作り出すことができる点が厄介です。組織運営を見ていると、リーダーシップが、実は一番若手のスタッフに阻害されているということが案外多いのではないか?と思うことがあります。

また嘲笑の文化は、組織全体の心理的安全性を根本から削ぎ落とします。少しの嘲笑が怖くて、思ったことを発言できなくなってしまうとか、その嘲笑に迎合したような態度を取ってしまうという人は多いのではないでしょうか。人は多分、組織が機能しなくなることよりも、近くの人間に笑われることの方が怖いのです。

なので、経営意思の発信者をイジる事態が蔓延すると、リーダーシップが阻害され、戦術の実行が不完全に終わるばかりでなく、それに影響を受けて組織全体が萎縮して、メンバーが周りの様子を伺いながら仕事をすることになる。そうなれば組織はあっさり潰せます。

潰し方2 小さなことを大事にする

「大事にする」は、大切にするということではなくて、「おおごとにする」という趣旨です。組織を運営していると、日々色々な問題が生じます。しかしそのすべてが同じ重さではなく、重要なものと、そうではないものがある。このうちの小さなことを大げさに騒ぎ立てると、そこに工数が発生しますから、当然組織は機能しなくなります。

よく乱用されるのは、「社会人としての常識」とか、「マナー」などの概念かなと思います。「私だけではなくてみんながこう思ってる」など、主語が複数形になる場合も注意です。こういう言葉は、実は中身があまりなく、その人(あるいはその親しい人)の好みに帰着する場合がかなり多い。しかしこれらの言葉を使うと、単なる好き嫌いに対して、「規律に反してる」みたいな意味を含ませることができます。

仮に規律に反してるなら、それは組織として大きな問題になり得ます。こうやって個人の好みの問題が、いきなり大きな問題に置換されてしまう。この作用を意識的に使えば、容易に組織の実行力を削ぎ落とすことができます。

潰し方3 会議を量産する

会議にはいくつか類型があるので、会議を設定する時には、この会議がどの類型に属するかと、意思決定型の会議体である場合は、その意思決定をどう行うのかについて予め設定しておくべきです。

しかし、会議を設定する場面で、それらが明示的に設定されることはむしろ稀だと思います。多くの会議は、何となく自然発生的に集まって、話し合って意見を聞いて、何かを決定するということが行われている。

結果として、会議体を量産すれば、事業上の意思決定を、徐々に多数決型か、あるいは全会一致型に持ち込むことができます。多数決型の意思決定は、どうしても無難になりがちですから、沢山の時間をかけて、とっても常識的な判断をすることになる。

「これは皆にも影響することだから、皆の意見を聞いてみたい」
上司やメンバーにこう言われて嫌な気分はしないものです。「確かに自分にも影響することだから、意見を言わせてもらえるのはむしろ有り難い」となる。つまり、会議を量産すると、周囲からの好感度をUPさせることができるわけです。そうやって、好感度をUPさせながら、皆の時間を沢山使って、とても無難な意思決定をしていく。

無難な意思決定というのは、目的に対して効果性が低い打ち手になりがちですから、結果として組織の競争力にブレーキをかけることができる。これもなかなか効果的な事務所の潰し方ではないかなと思います。

最後に

ざっと自分が気を付けている事務所の潰し方を書いてみましたが、法律事務所において、こういうことを加害意思をもってやってる人はほとんどいないはずです。他方で、これが事務所を潰し得ることを自覚せずにやってしまう人は多い。そのため、「こういうことは事務所を破壊する行為なんだ」ということを、メンバーに認識してもらうだけでも、組織の状態が大きく改善するように思います。

また、上に述べたことは、日本でもタイでも同じように当てはまります。タイにはタイのやり方があって、日本には日本のやり方があるというのはある一面では事実だと思いますが、それでも共通する運営阻害要因はある。

私がこれらすべてを一から自分で思いついてるわけでは当然ありません。こういうことを書いてくれている「サボタージュマニュアル」という本があります。「組織をうまく回らなくさせる」ためのスパイマニュアルだとのことですが、面白い本で、繰り返し目を通しています。上記2,3はそのサボタージュマニュアルの中の記述に、自分の経験を重ねて言葉にしたものです。興味のある方は是非読んでみて下さい。


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