ヴァンフォーレ甲府選手紹介#5 〜心優しきエアバトラーの挑戦〜
ルーキーイヤーから活躍した甲府の選手は誰?
そう聞かれてあなたは誰を思い浮かべるだろうか。
今や日の丸を背負う我らが伊東純也、佐々木翔あたりが有力になるだろう。
最近サポーターなった方だと長谷川元希、鳥海芳樹、関口正大あたりも候補だろうか。
ちなみに筆者は伊東純也のドリブルとスピードが未だに脳裏に焼き付いて離れない。
しかし、鳴り物入りで入団した“超高校級”や“大卒No. 1〇〇”と呼ばれるようなプレイヤーが怪我やチームの戦術理解などで苦しみ、夢破れて引退していくということもプロの世界では不思議ではない。
プロになるだけでも狭き門。甲府に限った話をしても、将来を嘱望され、期待されながら若くしてユニフォームを脱いだ選手も少なくない。
ここ数年の甲府はルーキーの発掘に定評があり、今シーズンも4人の大卒ルーキーが加わった。
遠藤光
水野颯太
三浦颯太
そして、井上詩音 である。
プレスリリースを見た時の私の感想は正直なところ
「この選手全然知らないな。」「専修大学から2人セットで入団か。心配だな。」
というような不安に近い感情を抱いていた。
専修大学から甲府というルートは下田北斗や小林岩魚などいるものの、長澤和輝、仲川輝人らを擁し、強豪と言われていた時代の専修大学ではなく、今や関東3部リーグまでカテゴリーを下げてしまったチームだ。
神奈川大学から世界へと羽ばたいた伊東の例こそあるものの、下部カテゴリーを主戦場に戦う選手がプロ1年目からレギュラーに定着するのはごく稀と考えても可笑しくはないだろう。
現実問題、井上詩音も甲府以外のチームから声が掛からず、企業に内定受諾のメールを送るか決めかねていた。その時の状況を彼自身の言葉で綴ったものがある。
彼の引退ブログには主将としての苦悩や葛藤が綴られている。同じ大卒の三浦や水野とは違い、全国的に有名な選手ではなく、プロはおろか、サッカーを続けることすら迷うほどに悩み、もがいていた。
しかし不思議と期待せずにはいられなかった。今シーズンの大卒ルーキーは筆者と同い年。そして慧眼、森淳の目に止まった選手だ。写真から伝わる覚悟に満ちた表情からも「やってくれそう」な感は十分に伝わっていた。
まさか、その予感がシーズン序盤から的中するとはこの時は思っていなかったが…
2023年1月11日(水)
この日、筆者は甲府の一次キャンプの練習見学に足を運んだ。彼のプレーを見たのはこの日が初めてだったが、声をよく出し、溌剌とプレーする井上の姿がそこにはあった。
「詩音!!」
篠田監督や周りの選手から頻りに掛けられる声。それに応え直向きに取り組む様子が素人目にも伝わった。(真横で布教され続けた影響もあるが、、笑)
ビルドアップこそ、ややぎこちなさが否めないが、高い打点でボールを捉える力やボディコンタクトには希望を感じた記憶がある。あくまで素人の感想だが、近いうちにメンバー入りしても可笑しくないポテンシャルは持ち合わせているように感じた。
「今年はDFの層が薄いから夏までに試合に絡めるようになって欲しいな。」
筆者の期待は膨らみ2度のキャンプ見学は終わった。
ここで少し彼の内面について触れようと思う。
彼の人柄を表しているエピソードがある。
専修大学時代、ポジション争いをする選手が累積警告で出場できなくなった。するとフレンドリーに外部広報に話しかけ、
「俺、次節出れるっすかね??」
と尋ねたそうだ。ようやく訪れた試合出場の千載一遇のチャンスを前に、のんきにニコニコしながら話をする。これが井上詩音である。
こうした人懐っこい一面を見せる一方で、目を見てきちんと挨拶をしたり、後輩を想って涙を流したりと礼儀正しく情に熱い一面も持ち合わせているのだから堪らない。
たかがファンBに向けられた笑顔があれなら恐ろしい人である。
ファンサが解禁されれば、今以上にファンが増えるに違いないだろう。筆者も勿論軽く沼っている()
甲府サポの皆さん、ようこそ詩音沼へ
さて、プレーの面に話を戻したい。
期待に応えるようにFUJIFILMスーパーカップのメンバーに名を連ねた背番号49は第2節から出場機会を得ると、持ち前のヘディングの強さと体を張った守備でチームに貢献。守備の立て直しに一役買い、瞬く間にレギュラーの奪取に成功した。
第4節藤枝MYFC戦ではチームの勝利に大きく貢献。試合中は集中した守備で頼もしかったファイターが勝利に沸くスタジアムで、目を潤ませ勝利を噛み締めた。まさに彼の人柄が垣間見えた瞬間だった。
22歳の若武者は今節終了時点で、第2節から数えて8試合をフルタイムで闘っている。粘り強い守備とクリアリングには絶大な信頼を作者も置いているが、まだまだビルドアップの面では拙さも感じる。
数節前から気になってはいたが、須貝への横パスが短くなったり、精度が悪かったりしてピンチを招くシーンがあることは否めない。
実際、0-3で敗戦を喫した仙台戦でも狙われているシーンや危ないシーンが見受けられた。
コンビを務めるマンシャのいい部分を吸収し、足元にも強いDFになれば、J屈指のCBになれるポテンシャルは十二分に持っていると筆者は考える。
どん底にいた自分をプロの世界に導いて下さった森さんへの感謝の気持ちを忘れず、大学時代身についた雑草魂で、何度踏まれても立ち上がり甲府のゴールを守ってみせる。
専修大学サッカー部の引退ブログに綴られた彼の覚悟と決意だ。去年まで甲府でプレーした浦上仁騎の“雑草魂”は背番号49へと受け継がれた。
先日、名古屋グランパスのユース時代の同期で海外でプレーする菅原由勢が上々のデビューを飾り、井上も刺激を受けているに違いない。
いつか日の丸を身に纏い、代表戦のピッチに共に立つ姿が見れる日が来るのだろうか。
雑草の如く逞しく
心優しきエアバトラーの挑戦は始まったばかりだ。
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