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【ディスクレビュー】SorAZ二人の”自由な遊び場”「Futurity Step」

ときのそらとAZKiによるユニット「SorAZ(読み:ソラアズ)」のメジャーデビューアルバム「Futurity Step」が、2023年12月20日にリリースされました。2020年3月、SorAZとして初のオリジナルソング「刹那ティックコード」をリリースしてから3年以上、ついにビクターエンタテインメントからのSorAZがメジャーデビューしました。

各曲の感想を書く前にアルバム全体の感想を一言で述べてしまうと、実験的なアルバムです。そらちゃんやAZKi先生のソロ活動では歌わなかったであろう曲をSorAZでなら歌っていることから、そう感じました。また「宇宙」というコンセプトが、このアルバムの多くの曲の中に流れていることを感じて、SorAZの1stライブのタイトルが「First Gravity」だったり、キービジュアルにも宇宙っぽいことにも得心しました。

また「自分たちの好きな音楽をただひたすらに楽しく歌ってみんなで遊ぼう」というメッセージを様々な曲から受け取りました。「Scale the wall」の「意味のない評価で世界比べないで」や「試さないとほら何も始まらない」という歌詞は、本アルバムの象徴的なフレーズのように感じます。人間の抱く悩みの多くは自分自身や他者に向けられた評価や、できっこないという思い込みに根差しています。そんな悲しい思考を粉砕するような、SorAZの全力の音がこのアルバムの曲に込められています。このアルバムに収録されている、とても美しくて温かい想いのこもった歌声、グルーヴィーな演奏、そして眩しく感じるほどのアイドル2人の輝きを目いっぱいに噛み締める時、たくさんの元気と笑顔を授けてくれます。

また、余談としてアルバムの特典の「刹那ティックコード」「紅藍クロニクル」のアコースティックアレンジと、SorAZクッキングの感想を述べておくと、先の2曲のアコースティックverはアレンジひとつでここまで曲のイメージが変わるのかと驚くとともに、いつかアコースティックライブもやって欲しいという欲が湧いてきました。そしてSorAZクッキングは二人が仲良く楽しく?料理をする様子が聞けて、そらまめ(SorAZのファンの総称)が求めているものが、そこにはありました。SorAZクッキングは続編希望です。

総括が終わったところで、それでは各曲の感想を以下に述べていきます。

・君と僕はアルビレオ 惹かれ合う彗星テイル

アルバム最初の曲にふさわしいアニメのOP感のある曲。OP感と書いたけれど、アニメの終盤でOP曲がEDとして流れる演出も大好物なので、この曲がアルバムの最後にふさわしいという意見もよくわかります。曲の感じだけでなく、歌詞に宇宙にまつわる言葉が多用されていたり、SorAZの二人の歌声がソロパートからユニゾンしていく様子が二筋の彗星が寄り添い飛んでいくようで、アルバムのコンセプトを明確に打ち出している1曲に感じました。SorAZや大勢のクリエイターの才能を引き出しつつ、アルバムの全楽曲に1本筋が通しているプロデューサー陣の手腕にも感服します。

・テレパシー

思わずノリたくなるビートと「SorAZビーム!」というパワーワード、もう開始数秒でハートをキャッチされてしまう曲。ピアノのアルペジオや曲の最後のギターなど、バンド演奏にも最初から最後まで楽しさが詰まっていました。「一人じゃ叶えられないことも二人が一緒ならキセキがほら舞い降りてく」という、SorAZを体現するような歌詞も気持ちいい。聴いていて楽しい曲の要素を1つ1つ挙げていって詰め込んだような楽曲でした。

・せーので!

ピコピコサウンドと歌詞の言葉遊びが楽しい疾走感のある曲です。随所に入るクラップ音は、楽しく歌うSorAZの二人がこちらを誘っているかのようです。歌詞の「A to Z 空を賭けて」には「AZKi」と「ときのそら」の名前の要素が入っていたり、「二人のEXPO」という歌詞は毎年恒例となったホロライブEXPOを連想させます。こういう言葉遊びが嫌いなオタクはいません。またラスサビのredy go!の伸びが心地よく、高音低音のどちらも安定した歌声をしているSorAZの二人は流石としか言いようがありません。

・ハジメノイッポ

ナユタン星人さんの楽曲だけあって、もうただひたすらに楽しい曲です。ここまでテンションの高い曲はそらちゃんはともかく、AZKi先生の楽曲では中々聞けない、既存のイメージを良い意味で裏切る疾走感あふれるロックチューンです。(そら!)(あず!)など楽しいコールが散りばめられているのも、ナユタン星人節が効いてます。再生してまず、倍速再生になっていないか確認してしまったくらい、ドラムやギターサウンドが前へ前へと推進力をもって、最初から最後まで決して止まることなく駆け抜けていきます。ライブではこうやって手をあげたいなとか、ここのリズムに合わせてコールを入れたいなとか、そういう「聴きどころ」ポイントがずっと続く、この気持ち良さを何度もおかわりしたくなる遊び心あふれる曲でした。

・恋愛コスモロジー

このアルバムの中で唯一「躍る」ことができる楽曲。EDMなメロディーはクラブでDJに流して欲しくなる、熱く踊らせるよりもクールに揺らしていくアプローチの曲は聴いていて心地よいです。シンセなど使い方や反響のON/OFFなど細部までこだわりぬいたアレンジは、再生するたび発見があります。SorAZの声に宿るメランコリーと、巧みに韻を踏むリリックの絡みも中毒性高し。噛めば噛むほど味のしみ出してくるお洒落な曲です。

・惑わす星

二人の艶のある歌声に耳が幸せになるバラード曲でした。「もっと(もっと)」「ずっと(ずっと)」と繰り返す歌声とコーラスは永遠にループして聴いていたくなります。歌詞の「惑わす星」はあなただったけれど、SorAZの歌声にくらっと惑わされたのは、そらまめの方でした。「惑わす星」と「いけないんだ」のしっとり聞き入るバラード曲は、ライブでも肩を揺らしたりサイリウムを左右にウェーブさせてまったり聴きたい曲です。

・いけないんだ

ラブコメ漫画の主人公に対するヒロインの心象風景を歌ったような楽曲。鈍感な主人公にヤキモキする乙女心に思わず頬や緩みます。どこか浮遊感のあるメロディーと色気を含んだSorAZの歌声には、聴いている人を歌の世界観に引き込む力があります。こういう曲はAZKi先生の得意とする曲で、そらちゃん一人では歌わなかっただろう、というのはアルバム発売記念配信での、そらちゃんの言葉。そういう意味ではSorAZだからこそ生まれた楽曲とも言えるので、SorAZというユニットのありがたみを感じます。

・ふたりDestiny

このアルバムの中で一番情熱的な曲です。二人の歌声も挑発的で、それに呼応するような疾走感のあるピアノとギターの演奏が最高にクールでした。SorAZの二人とも、通常のイメージは可愛かったり清楚だったり柔らかいイメージがあり、歌う曲もそういう曲が比較的多いのですが、こういうピリっと来る格好良い曲も歌っているのは、日々彼女たちが色んな音楽を吸収して血肉にしているのだなと思いました。「ときのそら」と「AZKi」というシンガーのさらなる成長が楽しみになる曲です。

・MAG-NET

抽象的な物語の歌詞が、SorAZの曲として聴いた時に具体的な二人の物語とメッセージとして響く曲でした。別々の道を歩んでいた二人が、この世界で巡りあいSorAZというユニットを組んでいることを祝福しているという解釈ができる歌詞でした。もちろん普遍的なテーマの歌詞とも読めるので、こういう一種の創造的誤読ができるのも、二人の持つ文脈があってこそだと思いました。

・Scale the walls

アルバムの最後を飾るにふさわしい、SorAZの未来を見据えた楽曲です。アイドルという常に大勢の視線にさらされて評価される立場にいながら、自分の夢や叶えたいことのために壁を乗り越えていく、という意思をこの歌から感じます。この曲をSorAZの二人で歌っているのも、彼女たちがデビューしてからそれぞれ歩んできた険しい道のりを知っていると、感慨深いものがあります。あらためてアイドルというのはその生き様でもって見るものに活力を与える存在なのだなと感じました。SorAZの二人が頑張ってるのだから自分も頑張ろう、と思えるのだから推しの力はすごい。


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