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【ディスクレビュー】AZKiの名刺代わりになる1枚「3枚目の地図」

2023年10月4日にビクターエンターテインメントからAZKiのメジャーデビューEP「3枚目の地図」が発売された。本記事では「3枚目の地図」に収録されている4楽曲をレビューしていく。

エンドロールは終わらない

2018年11月15日から約5年、音楽にひたすら向き合ってきたAZKiのメジャーデビューEPの1曲目を飾るにふさわしい、AZKiから開拓者への切実な想いのこもった歌に胸が熱くなった。

これまで数多くの名曲を輩出し開拓者を何度も「床(感情があふれてしまいオタクが足元から崩れ落ちる様子)」にしてきた、AZKiと瀬名航のタッグは今回も健在だった。

歌詞の情報量は濃密で重いのに、曲調はとても軽快だ。メロディだけ聴いていれば、ウォーキング中に聴きたくなるようなポップな楽しさすら感じるのは、瀬名航のサウンドメイキングの妙だろう。

そして「このまま終われば誰かの美談として消費されていくのでしょうか?」という歌詞に、2022年7月に活動を終えるはずだったルートαのIFに思いを馳せる。筆者はAZKiの活動を観測していて「もしも」を考えない日はない。

「もしもルートαのまま活動終了していたら」「もしもINNKが解散しなかったら」「もしもコロナがない世界で現地ライブができていたら」

はたまたもっと以前、かつて秋葉原エンタスで開催されたAZKiの3rdライブで彼女自身が語った「もしも『自分』が『AZKi』じゃなかったら、別の人だった方が『AZKi』は幸せだったかもしれない」という言葉。

そんな「もしも」を乗り越えて、切れそうになる、か細い糸をつないで辿り着いたのが、ルートγという今だ。

これまでずっと儚く脆い存在だった彼女が、この曲で「きっと間違ってないから 間違いになんて絶対にしないよ」と力強く宣言したことには、最高も最悪も含めて過去を背負い前を向く熱い覚悟を感じた。

AZKiの2ndアルバム「Re:Creating world」のライナーノーツで自身の考えや内面を晒すことを恥ずかしいと言っていたAZKiが「こんなみすぼらしくて恥ずかしくて真面目過ぎる僕を隠さずに晒すよ」と歌うことからも、彼女の内面の変化を感じられる。

この曲はAZKiが今までの活動の中で抱いてきた葛藤と、様々な経験を経て、DiVAとして成長していく様子を描いているように感じた。夢の世界は残酷だけど、誰かの心に残ると信じて、がむしゃらに歌い続けてきたAZKiの、現時点の集大成とも言える珠玉の一曲だ。

藍深く

ストレートど真ん中のバラードで悲恋の歌という、AZKiの澄んだ歌声がこの上なく映える楽曲だ。玲瓏なピアノの主旋律と、AZKiの昏く繊細な声との相乗効果で聴く者の耳を放さない。

「これじゃあまりにも この恋があまりにも」「まだこんなにも 君をただこんなにも」と余韻を持たせるアウトロのおかげで、聴き終わった後にもしばらく胸の奥に鈍痛が残る情緒的な一曲だった。

FreeGeo

「エンドロールは終わらない」「藍深く」と開拓者の感情を揺さぶる前2曲と打って変わって、エレクトロポップの身も心も跳ねたくなる曲が3曲目に登場。「旅路」「ランドマーク」「真っ白な地図」など、AZKiがバズるきっかけにもなったGeoGuessrの地図要素が歌詞に散りばめられている。

この楽曲もまたAZKiの心境を投影した歌詞に読めるが「エンドロールは終わらない」と比べて明るく前向きな面が強調されている。この曲を聴いていると、18歳(永遠)の年相応に旅が好きではしゃいでいるAZKiの姿が目に浮かんだ。

ω猫

ナユタン星人節全開のライブで開拓者の皆でコールを入れたくなるノリノリの、AZKiにとっては「猫ならばいける」以来の猫曲だ。この曲も「猫ならばいける」と同様に、清楚で真面目なAZKiのイメージを破壊してくれるカオスな歌詞と、AZKiのにゃんにゃんという可愛い声がたくさん聴ける中毒性の高い曲だ。

ただの電波曲かと思いきや「アルファ・ベータ・ガンマ(略)目指すはオメガ」と、これまでAZKiの歩んできたルートαβγのさらに向こう、ギリシャ文字の最後=オメガまで一緒に行きたいという、強いテーマも込めてくるあたりが、ナユタン星人のにくい演出力だろう。「にゃんってかまって!にゃんにゃん!」と、どこかで聴いたことのあるテンポを使ってくる遊び心も忘れない。

こんなにコールの入れがいのある曲をEPの最後に持ってこられたら、AZKiのライブに1日も早く行きたいと思った開拓者は筆者だけではないはず。

総評

AZKi文脈強めの床曲、聴かせるバラード、地図要素満載のエレクトロポップ、猫曲、というAZKi楽曲欲張りセットのような4曲だった。これはAZKiの名刺代わりと言っても過言ではないEPだろう。ルートγというAZKiの3枚目の地図には、どんな歩みが刻まれていくのか楽しみにしつつ、いち開拓者としてこれからも彼女を見守りたいと思う。

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