小説三題噺
お題→「海猫」「マシン」「上宿」
山田は、幼い頃から冒険と発明が好きだった。
未来からやってきた猫型ロボットが出したタイムマシンで時間旅行をしたり、海賊船に乗って、あてどなく島を冒険し、そこで出会った人達と仲間になり、共に冒険する……。そういったものに、特にあこがれていた。
そんな山田は、旅行中宿泊していた上宿の旅館で、ついにあるものを完成させた。
「やったぞ、ついに完成した。これさえあれば、僕の望むことはすべて思い通りになり、誰からも常に妄想ばかりしてる奴と、言われることはない」
完成した事を歓喜していると、山田が発明したロボットが、急に話始めた。
「ご主人様、お呼びですか」
「おいおい、僕はまだ君を呼んでもいないし、スイッチも入れてはいないんだぞ。一体どうしたんだ。故障でもしたのか」
「いいえ、そうではありません。私はあなたの望む事を先行して行うようにつくられているのです。つまり、あなたが今私のメインパワーボタンをいじくろうと考えていらしてたので、先に私が自らつけたというわけです」
「なんだ、そういうことか。しかし、驚いたな、僕が必要としてる以上のものまで、行ってくれるとは。ここまで調子がいいようだと、性能テストも必要なさそうだ」
山田はひとしきり感心した後、ロボットにあるお願いをした。
「船に乗って色んな島に行きたいんだが、そういうのも出来るのかな」
「ええ、もちろんできます」
ロボットは、涼しい声で言った。
「しかし、毎回どんな島に行きたいのかを、具体的に想像していただく必要があります。例えば、その島はどんな景観で、何種類の生物が生息しているのか、その土地に実っている果物は、どんな味がするのか、といった具合です」
「ずいぶん面倒くさいんだな。適当じゃ駄目なのか」
「もちろんそれも可能です。ただ、願望とはいくらかズレた島に辿り着く恐れがあります」
山田はそれでも構わなかった。望んだ通りの島といっても、そこまで細かくなくてもよいと思っていた。
「じゃ、適当でお願いするよ」
そういうと、山田は自分の望みをロボットに送った。
「では、出発します」
夢のような気分だった。出航にあてがわれた船は、まさに自分が乗り込んでみたかった海賊船で、大砲台も錨も舵もあった。地下倉庫には食糧もたくさん詰め込まれており、山田はとても上機嫌になりながら、島に着くのを心待ちにしていた。
「あれはなんていうんだい」
「あれは海猫です。カモメの仲間ですが、あのように猫みたいに鳴くので、この名前が付いたとされています」
「君はあれがなんていってるか、分かったりするのか」
「もちろん分かります。あの鳥は今、ご主人様の事が心配なようで、少し寝たほうが良いと言っています」
「うん、それもそうだな。僕は君が完成するまで、ずっと徹夜続きで疲れていたし、少し寝るとするか」
山田は、地下室にある高級な羽毛のベッドで、島に到着するまでの間、少しだけ寝ようと、眠りについた。
目が覚めると、そこは先日泊まっていた、上宿の旅館だった。あたりを見渡すと、机の横に無機質なガラクタが転がっていた。そのガラクタからは、ピンク色のガスのようなものが出ており、部屋中に充満していた。
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