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後記「審査官OBに審査のことをとことん質問しよう」(安高史朗の知財解説チャンネル)

サマリ

【媒体】Youtube
【他の登壇者】

  • ファシリテータ:安高史朗さん(IPTech弁理士法人)

  • ゲスト:塩崎 義晃さん(株式会社IP Bridge)

  • ゲスト:下井 功介さん(kakeruIP弁理士法人 代表弁理士/@佐賀)

【トークテーマ】
・AIが審査できるか?
・何を考えて審査していたか?
・審査をしていて「ここがもどかしい!」と感じること。
・審査でこういうことは、案外気にしていません。

概要

運営者である安高さんにTwitterで企画提案したところ、言い出しっぺということでモデレータの依頼を受けた。
特許庁には、小学校からの友人や、日々の仕事でお世話になっている方がたくさんいる。
非書面主義の場では特許庁か特許庁じゃないかなんて感じないんだけど、書面主義の看板を背負うと、出願人も代理人も審査官もなぜかもどかしさがある。
そう感じている人も少なくないのではないか。
そういう想いで、「少しでも審査官の人間性を晒してやろう」という構えで望んだ。
結局は、コミュニケーションを通して、法の下で「適切な」権利を世に残していく、ことが共通ミッションであることがわかった。
課題は、コミュニケーションだった。

雑感

AIに審査ができるか?

冒頭から、Chat GPTを意識して、「AIに審査ができるか?」というお題を投げ込んでみた。

方法論としての議論は予想通り。
調査は多分できるだろうし、審査だってできる。

特許庁の立場としては、「透明性」と「納得感」を担保することが課題である、という指摘は、意外にも意外であった。

代理人としても事業会社の知財担当としても、自分の出願については「なんで特許にならないんだ!」(審査官がわかってない!)と思うことや、競合の出願については「なんでこんなのが特許になるんだ!」と思うことはあった。

しかし、「透明性」や「納得感」というフィルタを通したことは正直ない。
このあたりは、公務員という立場の色が出ているように感じた。

AI審査官にも「透明性」と「納得感」が必要だという文脈であったが、少なくとも「納得感」は国民が受け入れてしまえれば良いわけで、今の流れからすると、Generated AIに極度の法規制でも適用しない限り、時間の問題のようにも思う。

審査の手法

塩崎さんも下井さんも、審査そのものに対するアプローチはあまり変わらないと感じた。
効果の主張の有用性(ひいては、意見書のストーリー構成)に対する感度の差は感じたが、これは技術分野に依存することが大きいのだろう。
事実、安高さんからも「木本さんの専門分野(電気・ソフトウェア)では効果の主張はそのまま持ってこれるものではない」という趣旨の発言があった。

審査官としてのマインドセット

塩崎さんからは、出願人とパス交換しよう、という意思が強く伝わってきた。
終始、その話をされていたように思う。
想像だが、書面を通すコミュニケーションの限界(もどかしさ)を特許庁の中から感じられていたのではないだろうか。
ビジネスマンみたいだった。

一方の下井さんは、論理付けへのこだわりを強く感じた。
審査官の論理付け vs  出願人の反論
審査基準という教科書に対して、忠実に従いながら、その上に自分の色を差し込んでいく、という職人魂を感じた。
優劣の問題ではなく、ホームポジションの違いがそこにあった。

審査という共同作業の課題

今回の登壇を通して改めて感じたことは、「審査は権利化のための共同作業」であるという点。
特許法がある以上は、その枠を出ることはできないが、一方で、その枠の中では自由だ。
僕は審査をクリエイティブの小さい仕事(与えられた材料の中でパズルをはめる仕事)のように捉えていた。
しかし、お二方からは「審査はとてもクリエイティブな仕事」だという熱い想いを強く感じた。

審査官だって特許にしたいんだ。

むすび

審査の本質は、「最適な特許を世に残すための共同作業」と言えるのではないだろうか。
これはオープンイノベーションのそれととても似ている。

だからこそ、オープンイノベーションと同様に、コミュニケーション不足がLose-Loseの結果を招く。
最大の課題はコミュニケーションだ。

だって、審査官も人間だもの。

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