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後記「第4回 特許の鉄人(第2試合発明者)」(株式会社知財塾)


サマリ

【他の登壇者】

【テーマ】
ソフトウェア対決「VUEVO」

概要

リアルタイムでクレームを作成する。
その様子を同業者に一部始終覗かれる。
終いには、投票により勝敗を決められる。

普段、「審査基準」等の画一的な基準と、「クライアントとの関係性」という自己努力でコントロール可能な指標によって評価される弁理士の成果の代表格がクレームであろう。

それを、第三者がそれぞれの価値基準(要するに好み)で勝敗を決する。
特許の鉄人とはそんな気が狂ったイベントである。

僕は、第2回大会(2020年)に選手として(敗けたけど)、第3回(2023年)に審査員として、そして今回大会(第4回)は発明者として出させてもらった。

なお、僕の負けっぷりは、ちざたまごさんがブログ「特許の鉄人第2回 現地レポート 〜特許クレーム作成は、いかにしてエンタメ化されたか〜」に残してくれているのでこちらを参照されたい。

選手としての経験を思い出しながら、選手に全力を出し切ってもらえるように問題を作ろうと思って臨んだが、これがまた難しい取り組みだった。

正直、情報不足が甚だしいことは自覚しており、申し訳ない気持ちで発明品を説明した。
しかし、お二方とも、僕の想像以上に芯を喰ったクレームを書き上げられていたことに素直に感嘆した。

軍配は室伏先生に上がったが、金子先生のクレームも発明者である僕の意図を組み上げたものであった。

良いクレームとは何か?

クレームの良し悪しを決めるのであれば、審査基準である「良いクレームとは何か?」を考えねばならない。

これは絶対解のある問いではないが、事業会社に身を起いて発明者として出た立場で言うと、「クライアントが依頼したいと思うクレーム」が良いクレームだと思う。

もちろん、不要な限定が入っていないことや、先行技術との相違点を考慮することも重要である。
重要であるのだが、出願依頼時により強く思うのは「この人に任せたいか」という点に尽きる。

題材「VUEVO」

今回、題材として取り上げたのは、僕が知財責任者として見ていた(出願や中間処理も対応したことがある)実在の製品「VUEVO」(ビューボ)である。

VUEVOは、特殊なマイクを使って、音声データと方向データを取得し、それらのデータを用いて独自のUIを実現したプロダクトだ。

VUEVOについての詳細はこちらを参照されたい。
余談だが、弁理士業務にも使えるプロダクトだと思っていて、弁理士実務への使い方なんかも提案できたらいいなと思っている。
(ご興味のある方は木本までお問い合わせ下さい!)

さて、本題。
VUEVOは、いわゆる「IoT」に該当するプロダクトである。
そのため、クレームのカテゴリにも選択肢がある(装置、方法、プログラム、システムの何れも書き分けられる)。

独立クレームには差が出ないだろうと予想して、従属クレームで差が出るように問題を作った。

クレームバトルを通して思ったこと

25分でクレームを作成するということ

これは、昨年の「第3回 特許の鉄人」の後記の一節だ。

「25分の短さ」にフォーカスされがちだが、このイベントの厳しさは、時間の短さではなく、制限時間と対戦相手の存在にある。
打ち合わせで即興クレームを書くこと自体はよくやる手法だろう。
だが、その即興クレームはあくまで「たたき台」である。
クライアントの要求を外していれば直せば良いし、隣に座っている弁理士に仕事を持っていかれることはない。
今回は、一度書き上げたら直せない一発勝負。
その相手は隣にいて、時間制限がかかっている。
この状況が手を震わせるのだ。

後記「第3回 特許の鉄人(第1試合審査員)」(株式会社知財塾)

控室から両選手の顔を眺めていたが、めちゃくちゃ緊張されていた。。。
それはそうだろう。
5年も前だが、自分が選手だったときの手の震えを今でも覚えている。
こればかりは選手にしかわからない体験である。

両選手のクレームについて思ったこと

「あの情報量でよく合わせてきたな…」という驚き。
これが、最初にお二人の独立クレームを見たときの率直な感想だ。

記憶が確かならば、請求項1は、僕が担当した実際の出願とほとんど変わらなかったからだ。

1時間もあれば、実際の出願と同じ形をつくることはそれほど難しくないだろう(問題にも独立クレームのヒントはわかりやすく書いたつもりだった)。

しかしそれを25分(実際には、僕のトークも入るから15分くらいだろう)で書き上げたのだ。

いや、弁理士ってすごいな。

金子先生は、独立クレームを何度か書き直されていたが、心の中で「そのままでいいんだよ」と思いながら見ていた(笑)。
「従属クレームをもっと見せて欲しい」と思っていた。
良い意味で僕の想像と違う観点のクレームになっていて、「なるほど」と舌を巻いた。

室伏先生からは、商品の提供価値を刺しに行く姿勢を強く感じた。
質問も技術的なことではなく、商品の提供価値を意識した質問をされていたのも印象的だった。
これは僕の持論だが、従属クレームでは、特許性の前に、商品の提供価値を追い求めるべきだと思っている。
ここで言う「提供価値」とは、カタログに掲載できる解像度のもの(つまり、顧客に分かるように書いたもの)だ。
その特許出願が何のために出され、それにより事業をどう変容させるのか。出願要否の判断では、そんな出願ストーリーの思考に相当のリソースをかけるわけだが、そのストーリーは、従属項にこそ現れてくる。
最初に書き上げた時点で、良い意味で僕の想像していたストーリーラインに乗ったものが出来上がったので、「お見事!」と思った。

そして、以前から思っていたことであり、実務上も意識していることなのだが、勝負ポイントは請求項3(正確に言うと請求項1及び請求項2にマルチ従属する最上位クレーム)である。
請求項1は抽象的に(わかりにくく)書き、請求項2はそれを明確化することが多い(僕は、請求項1をあえて狭く書いてから、請求項2に移動させることで請求項1を広げるスタイルだから、自然とそうなる)。

事業会社における知財のステークホルダーは発明者、事業担当者、そして経営者である。
おおよそ知財素人の彼らに説明するときにいつも思うのだが、請求項3あたりからようやくキャッチアップしてもらえるのだ。

請求項1と請求項2は、ある意味で発明のキャッチアップ力が支配的だが、請求項3で初めて、「さて、どう展開していくか」という思考力が問われる。

そういう意味では、今回のお二方のクレームにも、請求項3にそれぞれの個性が現れていたのではないだろうか。

請求項3は弁理士を語る。

唯一の元選手発明者として重視したかったこと

これも、昨年の「第3回 特許の鉄人」の後記の一節だ。

唯一の事業会社系審査員として重視したかったポイント
採点基準は、以下の3つだった。
(観点1)発明のポイントを抽出できているか?
(観点2)従来技術との差異を出せているか?
(観点3)ビジネスへの有用性はあるか?

後記「第3回 特許の鉄人(第1試合審査員)」(株式会社知財塾)

審査員として臨んだときにも書いたが、今回は、発明者(事業会社の立場)だったので、上記の中で「観点3」を重視した問題にしたかった。

なぜなら、ビジネスへの有用性(言い換えるならば、企業における実用性)の高いクレームを書く弁理士に依頼したいと思うからだ。

その点において、両選手とも、従属クレームから「実用的なクレームを書こう」というスタイルを感じた点は、とても好印象だった。

僕が審査員だったら、差をつけるのは難しかっただろう。
僕にとっては、「どちらに依頼するか」を迷うレベルの差だった。

審査について

例にも漏れず、今回も審査はとても難しかったと思う。

おそらく、3人の審査員は全員「自分が書くならこう書く」と想像しながら採点したのではないか(僕は前回大会でそうして審査した)。
自分の書くクレームと似ている方に加点するという行為は、自分の書くクレームが正解であるという前提に立たねばならない、という大きなプレッシャーと隣合わせである。

審査員のコメントからも、それぞれの審査員の方の日頃のクレームドラフティングのこだわりポイントが見て取れた。

審査員と選手のやり取りの中で、「それは僕が答えたいなー」と思うツッコミもいくつかあって、「いや、もう僕に審査させてくれ」と思ったりもしたが、結果的にマイクを振ってくれたので、最低限のアピールはできた(笑)。

むすび

まずは、勝った室伏先生を称賛したい。
横から見ていたが、独立クレームから従属クレームに至るまで、1つのストーリーラインに乗っていたし、そのラインが僕が作問しているときのイメージの芯を喰っていた。
あれだけの情報量と短時間でよく仕上げたなー、と心から感心した。

残念ながら敗けてしまった金子先生には試合前にも伝えた言葉を改めて送りたい。

このイベントは「敗けた方が美味しい」。

僕は、5年も前の敗戦をいまだにネタにしてもらえる。
つまり、この敗戦は賞味期限がとても長いのだ。

悔しさはあるだろうが、発明者の立場からすると、「十分に依頼したいと思えるレベル」だったことも添えておきたい。
タラレバだが、あと10分あったらクオリティが跳ね上がったのではないか。
評価のポイントにはならなかったのかもしれないが、ヒアリング中に描いた手書きの絵は、発明品の要点を端的にまとめられていたと思う。
プロセスも評価対象であって、かつ、僕が審査員だったら結構加点していただろう。
僕の早口をあれだけすっきりとまとめられたということは、相応の数を重ねた結果として定着したフレーム構造をお持ちなのだろう。

最後に、上池さん、miyaさん、あずさんをはじめとする知財塾スタッフの方々には、大阪での開催というハードルを超えて、大盛況のイベントに仕上げたことを心から称賛したいし、そこに関わらせて頂いたことに感謝の意を評したい。

自分が選手のときには、大阪でこれだけの盛り上がりを見せる未来は想像していなかった。

出場のプレッシャーは年々上がってきてるのではないだろうか(笑)。

次回以降の大会に向けての期待

次回以降の大会にも期待したいという想いから少しだけ提言させて頂こうと思う。

実は、時間の都合で割愛したのだが、問題文には幻の2ページがあった。

幻のページ1
幻のページ2

出願の狙いと依頼のポイントだ。

仕事の依頼には「依頼者の狙い」が必ずあって、その狙いを正確に伝えることが、依頼の第一歩だと思っている。
これは何も特許出願に限ったことではないだろう。

受任する立場で言えば、「依頼者の想い」を汲むことにこそ信頼を勝ち取るポイントがあるわけで、弁理士が「良い」と思うクレームを書いても、依頼者がそこに価値を感じなければ何の意味もない。

今回は時間の都合で割愛したが、良いクレームの定義が「クライアントが依頼したいと思うクレーム」であるならば、「依頼者の立場」を反映した審査基準にした方が良いだろう。

どうしても独立クレームの広狭や進歩性に目が行きがちだが、請求項3以降にこそストーリーが現れるのだとすれば、「請求項1〜請求項5の流れがクライアントの芯を喰っているか?」という観点が評価できると、もっと良いイベントに仕上がるのではないだろうか。

ちなみに、上記のページは、「プレスリリースで素人でも「すごい!」と思えるクレーム」や「経営者が1分で「いいね」と思えるプレゼンテーション」を引き出したいと思って作ったものだ。

さらに言えば、発明者役にも審査の票を渡しても良いのではないか。
ま、これは、今回の審査コメントを聞いていて、「それは僕に話させてくれ!」って思いながら耐えていた経験が一番大きいんだけど…。

関連情報

写真

クレームと向き合う両選手
つぶやきもなく手を動かす金子先生
見事勝利した室伏先生
戦いを終えて
発明者特権で記念撮影してもらいました!

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