教える仕事をして学んだこと
自己紹介
G'sアカデミーのアドベントカレンダー23日目を担当します。Daiskyと申します。私は4年間G’sアカデミーで教える仕事をしていました。
そこで、この4年間で教えるために学んだ事、学んで実践した事をまとめます。同じように教える仕事をする後進の指針になればと願います。
教えるための勉強の始まり
私は元々テクニカルディレクターとして働いていたので、エンジニアに技術的な事を教えたり、クライアントへ要件や仕様の説明を日常的にしていました。
そのためG'sで教える仕事をオファーされた時も自分ならできるだろうと気軽に請け負ったのですが、これが大間違い。
初めて担当した授業で私は文字ばかりのスライドを作り、3時間技術についてまくしたてました。
結果大失敗。受講生は静まり返り、アンケート結果も散々・・・であればまだしもコメントで気遣われる始末。
そこで、その日の夜にG’sアカデミー総責任者の児玉さんに相談しました。
私:『教育ってなんですか』
こだまさん:『教育はモチベート』
私:『なるほど!』(技術は? 🤔)
この日から『教育』に関する研究がはじまりました。
研究を始めてすぐに、一筋縄ではいかない事がわかりました。
そもそも世に出回る教育に関する書籍や論文は学校教育について書かれたものが殆どです。一方でG'sアカデミーは年齢もキャリアも多種多様な方が入学されます。よって一般的な学校教育とは前提が異なるのです。
そこで本稿では種々雑多な知識をプログラミング教育に落とし込み、G'sアカデミーのフルタイム総合コース(LABコース)で実践して効果の認められた取り組みをまとめようと思います。
教える仕事①:日常のコミュニケーション編
コロナ以前ですが、私は授業後にかなりの頻度で受講生と飲みに行ってました。
師匠でもあるG'sアカデミー学校長の山崎先生からは飲んでないでコードを書けと何度もお叱りを受けたのですが、この行動には自分なりの理由がありました。
それは『仲良くならねば仕事が始まらない』という考えです。
授業中に「何か質問ありますか?」と講師から問いかけられた時、聞きたい事があるけどちょっと質問しづらい。。。という経験を誰しも一度はした事があると思います。
さらに言うと、勇気を出して質問した結果、講師の回答がよく理解できなくても「わかりました」と言ってしまった経験もあると思います。(私はありました)
入学して間もない受講生には『こんな初歩的な質問をして良いのだろうか?』という心理状態が多かれ少なかれ存在します。これはスタッフのまえたつが書いている心理的安全性に関する記事の中の無知だと思われる不安に起因する心理です。
この状態ではそもそも質問が来ないので仕事になりませんし、自分の教え方でちゃんと伝わったかどうか判断する方法が無い事になります。
ではどうすれば不安を取り除けるのか、その答えはこの本にあります。
この本はグーグルの元CEOであるエリック・シュミット が自身のコーチであったビル・キャンベルの教えをまとめたものです。
ビル・キャンベルは一般にはあまり知られていないかもしれませんが、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツなどなどにコーチングをしていた驚くべき人物です。
元アメフトのコーチであったビル・キャンベルは、人とコミュニケーションを大切にしていた事がよくわかります。以下に引用します。
君らを気にかけている、愛している、と伝える。
これが教えるために必要な事のほぼ全てです。
実はビル・キャンベルこそがGoogleが提唱した心理的安全性の元ネタになっている人物なのです。
我々はビル・キャンベルほどの人物にはなれないかもしれませんが、 彼の行動をマネする事が出来れば良い結果を得られそうです。
具体的には重要な事が3つあります。
話しかける事
雑談する事
話をよく聞く事
特にこちらから積極的に話しかけていく事が教える仕事の初期としては重要かなと考えています。
話す内容は何でも良いと思います。天気でも趣味でも今日のニュースでも昨日の出来事でも。
プログラミングの疑問などはそれらの雑談の中で出てくるくらいが丁度良いと私は思います。
そして関係性ができていれば「わかりました」の代わりに「全然わかりません」とのレスポンスが返ってくるようになります。
そこからが本当の仕事の始まりです。
教える仕事:チューター編
この章では質問対応に関する事を記します。
私はこの4年間、受講生から千変万化の質問を浴びるように受けていて気付いた事があります。
質問は基本的に「○○がわかりません」の形でくるのですが、「わからない」という状態は大まかに3種類に分類する事ができます。
何が何だかわからない
情報の論理的つながりが分からない
前提が分からない
まずこれらの『わからない』を整理します。
『何が何だか分からない』という現象
『何が何だか分からない』という現象は1000年前のアルファベットの事情で説明がつきます。
驚くべきことに(驚いてばかりですが)1000年前の英語は単語と単語の区切りが無かったそうです。こうなると一目瞭然。
分けられている事はわかる。
分けられていない事は分からない。
我々はプログラミング宇宙の法則に慣れきっているのでコードが以下のように見えますが、
同じコードを見て初学者が受ける印象はこうです。
最も重要な事は同じものを見ても自分と相手で受け取り方が同じとは限らないという事です。
『情報のつながりが分からない』という現象
これは料理で説明できます。
例えばオムレツを作る手順はざっくり
卵を割る
卵黄と卵白を混ぜる
焼く
となります。
卵を割らずに殻ごと焼く事はまず無いと思いますが、これが起こり得るのがプログラミング学習の初期です。
例えば
フォームからPOSTでデータを送る
$_POSTで受け取る
PDOを使ってDBに保存する
という一連の手順があった時に 1 をせずに 2 → 3 を繰り返して動かない動かない。のようなケースがそこそこあります。
この現象の理由は単純で、卵を割る → 焼くという手順の間には論理的因果関係があることを我々は知っていますが、 1フォームからデータを送る → 2 $_POSTで受け取るの論理的因果関係はプログラマーのみが知っている事だからです。
手順の論理的因果関係が
手順 X とY と Z が完全に等価の場合、組み合わせは3の階乗で6通り。
W と X と Y と Z の時は4の階乗で24通り
もし手順が5つだった場合・・・手順の組み合わせは120通りになります。
我々はよかれと思ってあれやこれやとアドバイスしがちですが、情報が増えるほど記憶する事は困難になると言えます。
前提がわからないという現象
これは最も簡単です。
Phpの場合関数外の変数を関数内から参照する時にスコープの問題で global 接頭詞をつけなければならない。という言語のルールがありますが、それを知らない。などごく一般的な質問の範囲になります。
この問題への対処法はただ単にプログラミングに関する広範な知識をつけるだけです。
工夫は特にいりません。
『分からない』への対処法
チューターの時の教える仕事で重要な事は2つです。
要約する事
図解する事
要約する事
プログラミングを始めたばかりの人にとってプログラマーの説明はほぼ全て情報過多になりがちです。そこで役にたつのがこちらの本です。
この本によるとインプットのためには要約が良いとなっていますが、拡大解釈すると聞く技術の向上のための方法が書かれていると言えます。
濁流のごとく押し寄せる質問内容は要約すると何がしたいのか。
そのために伝えるべき情報を要約するとどうなるのか。
この本にはトレーニング方法も書かれているので是非お勧めです。
図解する事
これは過去に今日の授業を10分間で要約してみよう!という試みをした時に受講生が提出したものです。
図解する事で文章だけの説明より情報が圧倒的に分かれます。
分ける事が理解にとって重要なので教える際には常にiPadで図解できるようにしています。
授業の時も図解は重要です。
これは単一責任の原則についての説明のために使った図解です。
プログラミング周りには言葉だけでは説明できない事がたくさんあります。
そんな時は図解が良いです。
結び
最後に一冊の本を紹介します。
この本は私が教育の研究を始めた時に、大学で教育学を専攻していたスタッフから教えてもらった本です。
ざっくり説明すると、人間の知能は下記の8種類に分類する事ができ、それぞれの知能の強弱は人それぞれなのでケースバイケースで教えましょうという内容です。これを多重知理論やMultiple Inteligence(MI)と呼びます。ハーバード大学のハワード・ガードナー博士が提唱しました。
多重知理論をそのままプログラミング教育に応用する事は中々に難しかったのですが、同じものをみて自分と他人で異なる印象を持つ事に対する示唆がとても勉強になりました。
結局のところビル・キャンベルとガードナー博士が言っている事は根本の部分では一緒です。
人に教える時は人を注意深く観察すること。
もっと直截的な言葉で言うと『人を好きになる事』です。
G'sアカデミーのフルタイム総合コースの受講生はほとんどが仕事を辞めて全く未知のプログラミングという領域に挑戦しています。みんながハードなカリキュラムを協力して乗り越え、情熱的に自身の作りたいものを作っています。
私は受講生みんなが好きでした。
飲みに行ってあれやこれやと議論することも楽しかったし、教えていた生徒が成長する瞬間はどんな芸術作品よりも感動的でした。
教育の研究はまさに暗中模索で、本当にこれで良いのかとの自問自答の繰り返しでした。
でも好きな人たちのために何かをしたいという気持ちが私を研究に駆り立てました。
今では多くの受講生が活躍し、私が教えた受講生が新たな受講生に教えています。
私はみなさんのことを誇りに思います
みなさんをプライドとして私は新しい挑戦ができます。
4年間ありがとうございました。
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