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モノセンス2 : 妄想ショートショート027

モノセンス: 物の語る物語り


ニューヨークの繁華街にあるアートギャラリーで、特別展示が開催されていた。その名も「モノセンス・エクスペリエンス」。展示のニュースは、ひっそりとしたものだったが、それを体験した人々には驚きとともに受容れられた。

アメリカの古き良き時代のアンティークをモノセンスにかざすと、それらの物から様々な物語が語りかけてきた。50年前の古いギターは、60年代のフリーダムと愛の文化を、木製の古時計は、20世紀初頭のアメリカの家庭の日常を伝えてきた。

エミリーという名の若い女性は、先日購入したヨーロッパ製の古いロケットをモノセンスにかざした。すると、そのロケットからは、第一次世界大戦の兵士とその恋人の切ない物語が聞こえてきた。彼らの手紙のやり取り、遠く離れた二人の愛の確認、それを通しての戦争の悲惨さが伝わってきた。

この展示を通じて、訪れた人々は自分たちの文化や歴史、さらには異文化にも深い関心を抱くようになった。モノセンスは、単なるテクノロジーツールではなく、異文化理解や感受性を高めるツールとしても認知されるようになった。

展示の最後の日、エミリーはそのロケットを胸に抱きながら、目に涙を浮かべていた。「私たちの歴史や文化、愛や喪失、全ての物語が、この小さなデバイスを通して繋がるんだ」と彼女はつぶやいた。モノセンスは、国境や文化を超えて人々の心を繋ぐ架け橋となったのだった。

モノセンスを体験した多くの人々は、初めはその先進的なテクノロジーに驚き、それをリスペクトしていた。しかし、モノセンスを通して物の持つ物語や感情に触れるうちに、その感情はテクノロジーの裏にある、モノに宿る魂やエネルギーに向けられるようになった。

テクノロジーはあくまでその物語や感情を伝える手段であり、実際に感動や共感を呼び起こすのは、物が持つ歴史や背景、それにまつわる人々のエピソードだった。モノセンスが開く扉の先には、人々の日常の中で繰り広げられた感動や悲しみ、愛や絆の物語があり、それが人々の心を打つのだ。
人々はモノセンスを通じてモノに宿る魂やエネルギー、そしてその物が経験した歴史や背後にある物語を尊重し、感じ取るようになった。モノセンスは、物と人との間の新しい関係性を築く役割を果たしたのだ。

モノセンスが知れ渡るようになってから、科学者たちはこのデバイスがどのようにモノの「魂」や「物語」を読み取るのか、そのメカニズムに興味を持ち始めた。そして、多くの研究の結果、驚くべき発見がされたのだ。

このセンシング能力は、特定の遺伝子によって引き起こされるものと類似しており、その遺伝子は特に日本人の多くに存在していたものだった。長い歴史の中で、日本の文化や環境が、モノとの深い関係性や共感を育むこの遺伝子を進化させてきたのかもしれない。

モノセンスは、この遺伝的な感覚を強化し、可視化する役割を果たしていた。実は、モノセンスなしでも、多くの日本人は物の背後にあるエネルギーや物語を感じ取る能力を持っているが、それが普段の生活の中で意識されることは少なかった。

この発見は、日本国内はもちろん、世界中で大きな話題となった。人々は、モノセンスを使用することで、自分たちの中に眠るこの遺伝的な感覚を目覚めさせ、より深いレベルで物や環境、そして人々との関係を築くことができるようになったのだ。

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