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影のオペレーター : 妄想ショートショート031


タイトル:「影のオペレーター」

深海の闇の中で、アバターロボットの「アルタイ」が一人、静かに作業を進めていた。彼の背中には強力なライトがついており、その光の中で奇妙な形のサンゴや小さな生物たちが泳いでいた。アルタイの全ての動きは、地上のコントロールセンターにいるオペレーター、ユウキによって制御されていた。

日常のルーチン作業に疲れたユウキは、コントロールセンターのモニターに映し出される深海の映像に心を落ち着かせていた。センターは静かで、ただロボットの微細な音とモニターの静かなノイズだけが聞こえる。彼の同僚たちはコンピューターの前で自分の仕事に没頭しており、お互いの間にはほとんどコミュニケーションはなかった。

彼は深海のアバターロボットを遠隔操作する仕事を選んだ。一部は冒険心からだったが、もう一部は人々との接触を避けるためでもあった。ユウキはコミュニケーションが得意ではなく、人々と深い関係を築くのが難しいと感じていた。

深海での仕事を選んだユウキ。彼の日常は、人とのコミュニケーションよりも、遠隔操作するアバターロボットとの連携に集中することができた。ロボットには感情も言葉もない。それだけに、ユウキの心の中は孤独で静かだった。

ある日、彼の操作するロボットが未知の物体を発見する。その物体は、どこか古代のアーティファクトのような美しさを持っていた。ユウキはその物体を中心に調査を進めるが、その時、彼の頭の中に突如として響く「声」を感じた。しかし、それは言葉ではない。感情やイメージ、色や音として伝わってくるものだった。

深海の静寂の中、ユウキの操作するロボットが未知の物体に近づいた瞬間、彼の頭の中に突如として感情の波が押し寄せてきたのだ。それは、初めて家を離れたときの不安や、子供の頃の夏の思い出のような温かさ、そして青春時代の切ない恋心のようなものだった。

次に、彼の心の中には色が広がっていく。深い紫色の中に、金色のきらめきや、鮮やかな緑の光が瞬く。それはまるで、夜空の星や森の中の光のようだった。

さらに、ユウキの耳には、遠くから聞こえてくるような音が響いた。波の音、風の音、鳥のさえずりや、心地よい旋律のようなもの。それらの音は、彼の心を温め、安らぎを感じさせた。

この感情やイメージ、色や音は、未知の物体が持っていた古代の記憶や感情を伝えるものかも知れない。ユウキは、それを直感的に感じ、この物体との非言語的なコミュニケーションを通じて、自分自身の感情や記憶を思い出していた。

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このストーリーは、言語以外の思考やコミュニケーションに焦点を当てています。

非言語的なコミュニケーションとして、ユウキが未知の物体との間で経験する「声」は言葉を伴わず、感情やイメージ、色や音として直接的に伝わってきます。
ユウキが感じる感情の波や色、音は、言葉では表現しきれない感覚的な深い体験です。
ユウキは、未知の物体から伝わる感情やイメージを直感的に理解し、それが古代の記憶や感情である可能性を感じ取ります。これは、直感や感覚が言語的な思考とは異なる方法で情報を解釈する力を持っていることを示しています。
我々は言語があるから思考できるのだと思います。しかしながら、言語に加えて感覚的なものが絡まり、人間の直感や知覚能力を高めているのだと思います。

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