自作問題解説 その5

ダイキリです。最近人と話して、そういえば作問でかなり大事にしてるのに文章化してないことを見つけたので文章化します。「理解のレベルを操作しよう」という話です。

「理解のレベル」というのは私が使っているだけの言葉(学習心理学の影響を受けているが……)です。有り体に言うと「ある物事をどれだけ深く/多面的に理解しているか/知っているか」ということです。

結論から言うと、クイズの作問とは、どれだけの理解のレベルにある人に答えてもらうかを選択する営みであると換言しても良く、特に難易度設定に関してはこの考え方が使えそう、という感じです。難しく言ってますが、作問者は普通によくこれを行っています。

私がこの視点を重視するようになったのはQuizKnockで一般向けの択一クイズを作るようになってからです。択一クイズは、「理解のレベル」の操作がしやすい形式の1つです。

例えば、

Q.『赤いスイートピー』『青い珊瑚礁』などの名曲で知られる、昭和のアイドルは誰?
松田聖子
竹田聖子
梅田聖子

という問題を「7種競技」の1問目に提出しました。かなり簡単めの問題であるという想定です。この問題をAとします。ここで、選択肢を

松田聖子
山口百恵
中森明菜

に変えた問題Bを考えましょう。

「理解のレベル」を考えると、
問題Aは「松田聖子という名前を知っている(他の知らない名前と見分けられる)」という理解のレベルの人でも正解できる難易度に、
問題Bは「(他のアイドル歌手がいる中で)曲名と松田聖子という歌手を結びつけられる」という理解のレベルに達さねば正解できない難易度になっています。
この題材に関しては元が簡単なので難易度に大きな変化はないかもしれませんが、2つの理解レベルの差が大きな難易度の変化につながることも当然あり得るでしょう。

同じ題材では例えば
松田聖子
松田誠子
松田清子
とかにすれば、今度は視点を変えて、松田聖子の表記を知っているか問う問題にすることもできます(そうなった場合は問題文は変えた方が良い気がしますが)。
現状、文章題の早押しクイズが主流の界隈では、択一クイズの利点を単に機械的に採点できる、とか、限定が取りにくい問題を選択肢によって限定できる、とかいう便宜上のメリットがよく注目されている気がします。しかし、択一クイズの最大とも言えるメリットは「選択肢によって理解のレベルを操作しやすい」という点にあると思っています。

さて、では選択肢なしで

Q.『赤いスイートピー』『青い珊瑚礁』などの名曲で知られる、昭和のアイドルは誰?
A. 松田聖子

という一問一答だとどうでしょう。この場合、択一と比べると「松田聖子という文字列を想起する」という行為が追加されることになります。この点は、意外と見逃している人もいるかもしれません。しかし、概念を知っていることと、その概念についた名前を想起することは、ヒトの認知の上では別の処理(関連はあるだろうが)だと思われるので、少なくとも作問者は気をつかうべき点だと思っています。

ちなみに、「選択肢があった方が正確な想起がしにくくなる」パターンも当然考えられます。自分があまりそういう問題を作っていないので例示しにくいですが、歌詞穴埋め選択肢問題で「どれもあったような気がする」みたいな場合が分かりやすいでしょうか。もちろん解答者の個人差はありますが、個人差は全てのクイズにあり、この形式固有の話にはならないので割愛します。

ここまで択一クイズの話をしてきました。択一クイズは「理解のレベル」の操作(特に、聞いたことがある、どんなジャンルの言葉かは分かる、くらいから、しっかりと線結びができるレベルまでの幅広い操作が可能)がしやすい形式であると思っていますが、その他の形式で理解のレベルの操作ができないわけではありません。

Q. 富⼠通ゼネラルの「コモドギア」やソニーの「レオンポケット」などの商品を、"ある家電製品"に例えて端的に説明した表現といえば「着る"何"」︖
A. エアコン (クーラー)

これは、みんはや大会に出した問題です。この問題では、「コモドギア」や「レオンポケット」という固有名詞を想起できなくても、性質さえ知っていれば答えられるようにしたつもりです。両商品はこの表現とセットになる記事が多かったので、純粋に知識がある人はもちろん答えられます。
(ちなみに、当時は着るクーラーという表記があまりなく、クーラーを○にしにくかったので頭文字で限定を取れるみんはや用問題にした。)

また、例えばHot100(イギリスの人が作ったクイズを各国の人が解けるペーパークイズ大会)では歴史の問題で「何世紀か」「何十年代か」という聞き方がされていました。年号をピンポイントで聞くのではなく、時代感覚を問うやり方として良いと思います(これはペーパーだからとも言えます。早押しでもやりようはありますが)。

そもそも、早押しクイズの「前フリ+落とし」の構文を見ても、前フリが難しめ、落としが簡単めと、理解のレベルが1問の中で操作されていると言えます。この構文を使う場合は「落とし」が理解のレベルの最小値になってしまいがちなこと、「固有名詞を想起できる」という点が追加の難しさとして存在することを意識しておくと良いでしょう。

さて、少し話は変わりますが、一問一答式クイズで「理解のレベル」を操作するとき、「選択肢が思い浮かべられること自体が理解のレベルが高い」題材について、「事実自体は知らなくても、選択肢が思い浮かぶ人には一択」という作問の仕方を紹介します。

Q. 「まがつびよふたたびここに来るなかれ平和をいのる人のみぞここは」という歌が広島の平和の像「若葉」に刻まれている科学者は誰?
A. 湯川秀樹

Q. 今日(2020年10月20日)、寝具会社の「フランスベッド」とのコラボが発表された、現在放送中のアニメ作品は何?
A. 『魔王城でおやすみ』

湯川秀樹の問題は、平和・短歌(湯川秀樹は父が古典の古文研究者)・科学者という要素、割と簡単めの問題群に混ぜたことからメタ読みも含め、おそらくそうだろうという問題です。「こういう感じのことやってるのは湯川秀樹だよね」みたいな、ある程度詳しい人の感覚を問う出題と言えます。
『魔王城でおやすみ』の問題は「一択」感がわかりやすいと思います。現在やっているアニメのリストが何となく頭にある人なら、正解はこれしかないと分かる問題です。正確に言うと「放送中のアニメ」もしくは「寝具会社とコラボしそうなアニメ」と言われて『魔王城でおやすみ』が思いつける人が解ける問題ですね。

このような問題は、最も知られた業績から人物を聞いたり、あらすじや作者名から作品を聞くのとは違い、言語化が難しい感覚を扱う種類の問題であり、これも「理解のレベル」の操作と言えます。

こういう問題を作りたい場合、『魔王城でおやすみ』の問題のように、「頭の中にいくつか選択肢を思い浮かべられる人」を対象にすると作りやすいと思っています。
この発想は解答者としての自分の勉強法に由来があるかもしれません。というのも、ペーパーなどで「そもそも択にならなかった(「〜、××な○○は何?」という問題に対して、××な○○が1つも出てこなかった、など)」問題があった場合、そのジャンルを苦手と捉え、重点的に対策するという勉強法を昔から使っているからです。
繰り返しになりますが、上記のような問題を作るコツは「頭の中に択がある人が解ける」「こういう○○はこれじゃないかと思える人が解ける」を意識することだと思います。これは択一クイズではやりにくい「理解のレベル」の操作ですね。

ここまで読んでくださってありがとうございました。面白い作問のためには、「理解のレベルの操作」を軸に多様な形式の利点を把握し、その都度選びとる必要があると考えます。そのためには、多様な出題の場を自ら作るなどして、1つの形式を相対化していくことが大事だと思っています。

次は「難易度感覚」と「ミーハーと逆張りのバランス」について書きたい気分でいます。

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