書評『ミステリアスセッティング』阿部和重(講談社)
もし自分が音痴で歌の才能がないと分かったら、作詞家になって、歌の上手い人に自分の作った歌を歌ってほしいと願う。阿部和重による小説、『ミステリアスセッティング』の主人公は、そんな夢を持つ少女だ。名前はシオリという。それは私が勝手に決めたのではなく、だだっ広い公園で紙芝居をしていた、おじいさんがそう言ったのだ。彼女は音痴だったが歌が大好きで、何か感じ入ることがあるとすぐに唄ってみる癖があった。唄ってばかりいたから、歌とともに生きてゆくことが自分の宿命なのだと信じて疑わなかった。
ここから先は
1,164字
¥ 300
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?