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映画「牛首村」を整える

まえがき

2022年2月18日公開の日本映画「牛首村」を見てきました。
映画そのものは楽しんだんですが、見終わった後で気になったところがいくつかあったので感想戦がてらどこを直したらもっとスッキリしたのかというのを個人的な主観でもって綴ってみたいと思います。ネタバレを含む&バリバリ後知恵ですがご勘弁願います。

1.土地勘が逆に邪魔

まず気になったのが今回の大元になっている怪談が牛首村と坪野鉱泉のダブル主題(宮島隧道も入れるとトリプル主題)なので場所が微妙にあっちこっち飛ぶはめになっており、実在のモデルがあるからこその扱いの難しさを感じました。坪野鉱泉や宮島隧道はネタのモデルやロケ地に留めて、ストレートに架空の牛首村にある廃ホテルや心霊トンネルということにしたほうがわかりやすかったと思います。
つまり坪野鉱泉で起こる怪奇現象が牛首村由来のものなのか、怪談の牛の首は牛首村の話なのか、配信者がホテルで牛の首の話をするのはなぜなのかという部分の繋がりが薄く感じる訳ですね。
これが例えば牛首村にある牛首ホテルに来ています、牛の首って怪談知ってますか?って言うなら唐突な被り物も自然ですし導入部も飲み込みやすかったんじゃないかなと。
いっそ「うしくびくん」みたいなご当地キャラを設定してそのマスクをつけるとか。
ワープ現象も実はホテルが建つ前の村にワープしたとかにすれば過去と現在で同じ場所な訳ですしもっと直感的に納得しやすかったと思います。
峠の地蔵とトンネルの祠で異界の入口がバラけているのも気になる点です。トンネルはブラフと言ってしまえばそれまでなんですが…
トンネルは峠の真下にあって、地蔵と祠は地図上は同一軸にあるとかにしたほうが地蔵の首の重みが増したんじゃないかと思います。
つまり「牛首地蔵があるはずの祠には何もない=牛の首とは実態が無い怪談」というのは世間に広まっているカバーストーリーで、実は過去の村での出来事によって首が移動してしまっていたのだが、主人公たちの行動によってその首が戻ってくる(しかしラストで…)というプロットですね。

2.呪い/祟りの発動ルール(死亡フラグ)がはっきりしない

中盤でとある登場人物が犠牲になる展開があるのですが、どうも攻撃スイッチがどこで入ったのかがわかりづらく、死に様もショッキングではありますが一貫性が失われていたように感じました。
個人的な感想ですが、たとえホラーといえども何らかのルールに則って活動していて、終盤主人公たちの動きを通してその動機だったり手段だったりが明かされるというのがサスペンス性もあって整った話だと思うので、序盤の女子高生も含めて因習に由来する死因に寄せたほうがより原因になった犠牲者の悲劇性が高まったのではないかと思います。
具体的には全員を落下死に寄せて、女子高生コンビも山崎さんもカノンの彼氏も同じ(似た)死因で揃えたほうが「聞いたら死ぬ」という怪談の補強になったんじゃないかなと感じました。
途中で交通事故死や圧死(切断死)が入るのでそれがノイズになるというかどういう因習が元でこの霊障が発生しているのか?という推理を阻害してるんですよね。
牛の首の話をする→牛の被り物をするor何かで顔を隠す→高いところに上がる→事故死or落下死or転落死
というのをアレンジしつつ数パターン見せておいてからの謎解きパート(子どもに牛の被り物をして穴に落とす風習が原因だった)のほうがより一貫性が出たと思います。
場合によっては神の子が籠で運ばれる部分を意識して、移動するための狭い箱(エレベーターやバス)に入るとか、あとは例の童謡が聞こえるというのをフラグに加えても良かったかもしれません。
怪奇現象の前後に主人公の携帯(Siri)が誤作動する、というのはもうちょっとうまく使えたような気がしますね。なんか惜しい

3.モチーフをよくばりすぎ

牛の首の怪談と廃ホテルでの怪奇現象が村の因習によって結びつくってくらいであればシンプルだったと思うんですが、富山県の話=蜃気楼を出す=ドッペルゲンガーというミスリード=死んだ双子の霊=忌み子の口減らしという真相までの段取りが迂遠になってしまった感は否めません。
特にシオンの彼氏が廃ホテルとも村とも無関係の海に向かって入水しかける下りは結局蜃気楼の話が回収されないこともあって余計な膨らみに感じました。
そこはシオンを探しにホテルに来ていて主人公と出会う展開(=顔が同じで驚く)で良かったんじゃないかなと。わざわざ変なやつが出たらやっつけてやるとフリを作ってる訳ですし。
せめてシオンの幻を見るのはホテルから見える海にしておくとか(それで建物から落ちそうになるとか)、過去の神の子は穴の中で死んだことを確認したら海に運んだとか、何かしら蜃気楼に至る導線を作っておいてほしかったです。
回収しないのであれば蜃気楼は掘り下げず、あくまで風景としてインサートする裏モチーフ程度の描写に留めても良かったと思います。
度々入る鏡や窓ガラスや水面の要素も終盤の種明かしに関わってこないし(穴にガラスも鏡も無い)
結露の絵やチョウチョも回想シーンに出てこそ来ましたが主題との結びつきが弱いので散漫なまま終わってしまったなという印象。

4.記憶喪失の真相とアヤコ事件の関係は?

てっきり記憶喪失の原因が「アヤちゃんと遊んだ」ところに帰結するのかなという期待があったのですが、ここもあまり掘り下げが無かったので気になりました。
ワープした地点が主人公の失踪期間で、子どもの頃の失われた記憶の真相を自分で知る(アヤコとどう遊んだのかを知る)展開も見てみたかったです。再開した後にシオンから教えられるとかでも良いんですが、結局4歳児カノンの記憶喪失の前後の出来事が語られなかったので空白が残ってしまったような感覚です。
アヤコが何年も生きていたのは穴と廃ホテルが異次元でつながっていて
肝試しで行方不明になった若者が実はこの穴転送されており、それを食べて生きていたのかと思ったんですけどそれで合ってますかね?シオンが襲われてないのはあまり時間が経っていなかったとかで何とか。
それこそ2年も開けてない穴の底で他の子の遺体や虫だけで生き延びるのは少し無理筋というか、もうちょっと何かギミックがいると思うんですよね。
せっかくシオンだと思った幽霊がアヤコだったというギミックを設けているのだから単に血縁以上にアヤコと(シオンと)主人公の過去に因縁を深くしても良かったように思います。

5.結局なんでワープ出来たの?

これ村シリーズ定番らしいんですけどちょっと強引な感じですね…おばあちゃんが地蔵の首に強く反応して主人公が押さえつけたらワープっていうのはかなり「ん?」ってなりました。
舞台の部分でも話しましたけど、あれならもう一度ホテルに戻ってカノンも縦穴に飛び込んだらワープするってほうがスムーズだったと思います。
シオンの体とは制服のタイでつながってますし、急に出てきた地蔵の首より説得力はあると思います。
それでそのタイは昔アヤコと遊んだ時に貰っていたとかにすれば意外性も出たんではないかなと。
地蔵の首がお守りなのか災いなのか判然としなかったのも若干ボヤけてしまった印象。
部屋の飾りや牛頭観音で雰囲気は出てたんですけどね。いかんせん彼氏が死んだら手に持ってたってのはビックリです。

まとめ

・話を村とホテルに絞る

・ワープの強引さを減らす

・アヤコの真相と主人公の過去にリンクを作る

本文でも書きましたが最低限必要だと思ったのは概ねこの辺りでしょうか。

父親と母親の掘り下げとか、祖父母が村に戻った理由とか他にも描写不足は多いんですけどそこらへんはまあ雰囲気で何とかなるかなと。牛の皮もリアル系ばかりでなく木のお面とかも混ぜて年代が感じられるともっと良かったです。

若手の演技は頑張ってましたし、映像や音楽や演出で普通に楽しめたので脚本の流れが余計に気になるというお話でした

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