英国の文芸評論家ジョン・ベイリーがアルツハイマー病を患った妻で人気作家アイリス・マードックとの思い出と介護の日々を交互に描いた物語。「世界一でいちばん長いラブレターのひとつ」と評されたとあとがきにありますが、たしかに、その通りで、その分ちょっとラブラブすぎるような気もしました。
アイリスの小説や英国の文壇、そしてオックスフォードというアカデミックな社会に通じていればさらに面白く読めるでしょう。私はどうもそちらに暗くて人名にもピンとこないので困りました。オックスフォードといえば、大昔に数日間だけ滞在したことがあり、イギリスにしてはグレー調の建物といい、雰囲気のいい町だと思いました。
学生時代、ジョンは自転車に乗っているアイリスを見かけ恋に落ちます。それから間もなくコレッジの教授ミス・グリフィスの自宅に招かれたとき、そこにアイリスがいたので、彼女についてあれこれ妄想します。そのなかにこんなくだりがあります。
一九五〇年代の初め《その世界の女性がズボンをはくことはまれだった》というくだりから、先日取り上げた勅使河原蒼風『ヨーロッパの旅』にズボンの女性が写っていたことを思い出しました。パリの近代美術館でのスナップです。蒼風のパリ旅行は五五年ですから、ジョン・ベイリーの回想とそう隔たっているわけではありません。
パリの屋根の上
https://note.com/daily_sumus/n/n972d4cd2de1f
おそらく女性のズボン姿というのは第二次世界大戦と関係があるのでしょうが、戦後は実存主義の象徴となっていたわけです。
もうひとつ、二人はエルジェの少年記者タンタンのファンでした。とてつもないウィットに富むフランス語の会話はとうてい英語には直せないと書かれています。
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他にはオックスフォードのアンティーク・オークションで1ポンドで古いベッドを買った話を面白いなと思いました。