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神のDB(011)

(011)ありえない現実の中の人の温もり~|ω・)どうぞ~

前のお話:https://note.com/daikiha/n/na0d28e2b98fc

後のお話:https://note.com/daikiha/n/n812277ab81f7

【十三】


その世界はボクの知らない世界。

ピリピリとして、緊張感がただより、なによりも匂いが違う。

匂い、血の匂いだ。

纏わりつくようなその匂いは、さらなる緊張感を与える。

そして感覚が狂い始める。

狂ってしまうんだ。自分が、自分としての感覚が、狂ってくる。

その世界から正気が消えて、狂気に支配される。

そして思い出す。
この世界に居たことを。
そして思い出す。
その狂気に支配されたことを。
そしてボクは・・・


【17】


ガチャ
家にいた。

そして、家の中の、玄関を背にして立っていた。


習慣とは怖いもので、何も考えられなくても自分の家までは辿り着けられるらしい。
マンションの入り口にはオートロックがあるはずだから、鍵を取り出し
そしてエレベータでは、自分の階数のボタンを押し
自分の部屋の玄関の前にきたら、鍵でドアを開け
ドアを開けたて入ったら、玄関の鍵を閉めてチェーンを掛ける。

振り向いて玄関を確認したら、現実にちゃんと鍵は掛けられ、ご丁寧にチェーンまで掛けている。
それを確認して、ボクは思う。「夢」だったんじゃないのか、と。
でも、部屋に上がろうと振り向き歩き出そうとした時、ボクの左手にある大きな長方形の鏡には確かにその現実を映しだしていた。
顔に、胸に、腕に付いていた「赤い斑点」を。
そしてボクは現実に引き戻される。思い出す。あの光景を、あの感覚を。
気持ち悪くなる。こみ上げる。急いでボクはトイレに駆け込んだ。

『はぁはぁはぁはぁ』

駄目だ。全然追いついていない。この状況に。この現実に。
ボクはトイレで涙目になりながら、懸命に考えていた。整理していたんだ、気持ちを。
これからどうするのか?いや、違う。ボクが考えていたのは、この時、考えていたのは・・・
ガチャ、ドン!
『ダイキ。開けて。』

声がした。
そうだ、ボクが考えていたのは、

ボクはふらつきながら玄関まで行き、鍵とチェーンを外す。と、直ぐに玄関が開き、ますみが入ってきて、
『ダイキ、大丈夫なの?途中で誰かに襲われなかった?』
と、直ぐにボクの体を触りだし、怪我がないかを調べる。

そう、ボクが考えていたのは、

ボクは反射的にますみから、離れた。
『? どうしたのダイキ。どこか痛いところあった?』
ますみは薄暗い玄関で、ボクのほうを見ていた。その顔は、多分、心配している顔なんだろうけど、ボクは、ますみをみることができなかった。

そう、ボクが考えていたのは、

ボクは後ろに後ずさりして部屋のほうに。
『ダイキ?』
ますみもこちらに向かってきた、その時

『来るな!』
ボクは発していた、拒絶の言葉を。
『ダイキ?どうしたの?なにがあった・・』
『来ないでくれ、それ以上、近寄らないでくれ。。』

そう、ボクが考えていたのは・・・・、ますみと、どう接しればいいのか、ということ。
ボクは考えていた、いや、迷っていた。いや、違う。
ボクはこの時、恐れていたんだと思う。さっきの、いや、その前にもますみから感じたあの殺気に、ボクは・・・

『ダイキ・・』
ますみは、拒絶するボクをみて、ボクの名前を言って、寂しそうな、そして悔しさも感じられる語気で、そして言葉を続けた。
『ダイキ、ごめんなさい。あんな戦闘にあなたを巻き込んでしまって。でも、よかった。あなたが無事で。敵を退けられて、』

『ふざけるな!!』


『え?』ますみは言葉を止めた。ボクのさえぎるような否定の言葉に。
そしてボクは
『なにが退けただよ、なんだよ、あれ。あんな、なんなひどい惨劇、あそこまでする必要があったのか?相手の戦闘力を奪えばいいだけじゃいけないのか?あんな、なんなの』
『ダイキ、確かにあなたにはショックなことだと思う。でも、これが私たちの戦いなの。あそこで甘い対応をしたら、今度はこちらが死ぬことになるの。一度のミスであなたに何かあっては遅いのよ、だから、』

『ふざけるな!』

ボクはますみの方に振り返りながらもう一度、拒絶の言葉を言う。
そして、ボクは言ってはいけない言葉を、それを言ったら全てが終わってしまう言葉を、言ってはいけないと、わかっている言葉を

『この人殺し!!』

言った。

ボクの言葉に、ますみは目を見開いたまま、止まっていた。
ボクを見ていたその目は、信じられないものを見るかのように、見開いて。そして、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・涙が流れた。


バン!
瞬間、ますみは振り向いてドアを開け、出て行った。
その姿をボクは、ただ見てるだけだった。

・・・わかっている。わかっているんだ。ますみが言っていることは全て正しいし、それがボクを護ることに必要なことなんだと。でも、

でも、怖かったんだ。ボクは、あの血の惨劇の現場に、血まみれのますみをみて。ボクはこの前のことを思い出していた。そして感じてしまった。感じてしまったことに恐怖した。
ますみを、綺麗だと思ってしまったことに。


その殺気に、魅せられていたボクが、怖かったんだ。

何もなくなったボクの部屋で、ボクは、その場に崩れ落ちることしかできなかった。


【18】


それからしばらくして、ますみは部屋に戻ってきた。

血で汚れていたその身なりは、クエリで着替えてきたのか、何事も無かったかのように、毅然として、ボクの家に戻ってきた。

ますみは買い物で買ってきた品物を部屋に片付けている。
帰ってきたときに、ますみは一言『ごめんなさい』と言った。それっきり、ますみは黙々と部屋の片づけをしている。

ボクはますみに目を向けることもできずに、でも、時々ますみをチラチラみながら、部屋に座っていた。何をするのでもなく、そのまま静かに座っていた。
その後、ますみは食事を作っていた。昨日はクエリで食事を済ましていたから、ますみが食事を作るのをみるのは初めてだ。けど、ボクは手伝うこともせず、ただ、部屋にいた。
そして、食事を作り終えたますみは「ご飯できたわよ」と言って、部屋に食事を持ってきた。
白いご飯に大根の味噌汁、ぶりの煮付けに鳥のから揚げの甘酢ソースがけ、きゅうりと大根のおしんこに、ジャコが振られたグリーンサラダ。

とてもおいしそうな食事だ。
それを部屋のテーブルに載せていく。そしてますみは「さあ、食べましょ。」と言って、テーブルのボクの向かい側に座った。


・・
・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
どうしよう。気まずい。気まずさ1万%だ。
ますみはこちらを真っ直ぐ見ている。
ボクは何か言わないと、と思い、さっき言ったひどい言葉の謝罪を言おうとして、
『ダイキ、気にしないで。』
言う前に、ますみから『しょうがないわよね。あなたはつい2日前まで普通の生活を送っていたんだもんね。私の配慮が足りなかったわ。本当にごめんなさい。』と、謝罪の言葉を受けた。

情けない。
本当に情けない。女の子に、自分よりずっと年下の女の子にこんなことを言わせている。

ボクは返す言葉も見つからずにいると、ますみが「じゃあ、食べよ。」と、いただきますを言った。ボクは、目の前のお味噌汁を持ち、汁を飲む。
『おいしい。』

ボクはそれしか言えなかった。正直、味なんかわからなかった。けど、温かかったから。だから、ただ、それしかますみに返す言葉が発せられなかった。そんななのに、そんなボクなのに、ボクの目の前にいるますみは・・・
「そう。」と言って微笑んでくれた。


その後、ボクらは特別話をすることもなく、食事をした。
ボクは少し、心が楽になっていた。
まだ罪悪感は残っているし、気持ちの整理もついていないけど、でも、ますみがあのままいなくならなくて、なんなことを言ってたボクの傍にいて、食事も作って、一緒に食事をしてくれている。
ボクは覚悟していたんだけど、ますみはボクを攻める言葉をなにひとつ言わない。そんな時は普通、凄く気になるものだけど、なんでだろう、違う。ますみが作ってくれた食事を食べて、ますみが一緒に食事をしてくれて、ますみが傍にいてくれて、時よりボクがおいしいって言うたびにボクをみて、微笑んでくれる。そんな状況にボクは、安堵していたんだと思う。

食事が終わって、ますみが片づけをしてくれている間に、ボクはお風呂に入って、それからますみがお風呂に入り、そして同じ部屋に布団を敷いて、寝る。
ますみが「おやすみなさい」と言って、電気が消える。
部屋が暗くなり、静になる。昨日とは全然違う。あんなにドタバタしていたのが、今日はなにもなく、普通に床についている。その傍にはますみがいる。ほんの少しのところに、普通にますみは寝ている。
気を使ってくれているんだろうなぁ。っとボクはここでも情けなくなる。そう、情けない。
それなのに、ボクは感じていた。心細さを、そしてボクは、

『ねえ、ますみ。起きてる?』
『なに。』
『そっちに行っていい?』
『いいわよ』
ボクはますみのいる布団に潜り込んだ。
真っ暗だから、何も見えない。でも、ますみの匂いがした。そしてボクは「ごめん」といって、ますみの胸に顔を埋めていた。
『うん』っとますみは言って、ボクの頭を両腕で抱きしめてくれた。
ボクはますみに身を預けて、その温かい胸に顔を埋めながら思う。
ますみは温かい「人」だと。
人殺しなんかじゃない、温かい心を持った「人」なんだと。
出逢ってまだ2日のこんな男にあんなひどいことを言われても、こんな男のことを想ってくれて、こんなことまで許してくれる。そんな「人」なんだ。


ボクはもう一度『ごめんね、ますみ』と言う。
ますみはもう一度『うん』って言って、ボクの頭を撫でてくれる。

そしてボクはそのまま眠りに付いた。

前のお話:https://note.com/daikiha/n/na0d28e2b98fc

後のお話:https://note.com/daikiha/n/n812277ab81f7

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