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大吉堂読書録・2023年10月

『「心」のお仕事 今日も誰かのそばに立つ24人の物語』(河出書房新社・編)
心って一体何だろう。精神科医、カウンセラー、臨床心理士、脳科学者、ソーシャルワーカー、スクールカウンセラー。様々な立場から様々な現状や様々な視点を伝えてくれる。
将来心に関わる仕事がしたい人にもお勧め。

『アリソンⅡ真昼の夜の夢』(時雨沢恵一)
王家の絶えた小さな王国、訳ありな村、囚われるふたり、迷い込む英雄、首都へと連れて行けと訴える村娘、暴かれる陰謀、真昼の夜、偽物たちの物語。
巧いなー面白いなーとぐいぐい読む。説明し過ぎず淡々としながらも、過不足なしの爽快な読後感。

『僕らが学校に行く理由』(渋谷敦志)
貧困や戦禍や病気や自然災害などの過酷な状況下でも学校が開かれ、必死に学ぼうとする子らがいる。また学ぶことができない子もいる。
フォトジャーナリストの著者の写真を交えて学ぶことの意義を見つめ、写真の力や過酷な現場を撮影する意義をも思い知る。

『この川のむこうに君がいる』(濱野京子)
震災被災者であることを知られたくない梨乃は遠く離れた高校へ行く。そこには被災者であると自ら語る遼がいた。
震災から3年後の物語。可哀想な被災者として見られたくない。同じ被災者でも全く違う。そんな想いと吹奏楽部の活動が交差する物語。

『ハンチバック』(市川沙央)
打ちのめされました。こりゃすごい。
先に著者のインタビューや寄稿文を読んでいましたが、そこにあった怒りが小説の形でここにありました。小説だからこそ表わせられること、小説だからこそ伝わるもの。
小説の力に打ちのめされ、それを読める幸せに思い至るのです。

『「その他の外国文学」の翻訳者』(白水社編集部・編)
話者が多くともマイナー言語として扱われるものもある。なるほどそうかと気づかされる。
それぞれの言語に関心を持ったきっかけや学習法が語られ、それぞれの外国文学に興味を抱かされる。外国語を習得することって楽しいのだなと気づく。
僕にとって外国文学とは、児童書やYAでお馴染みのもので抵抗感はあまりない。特に現代を舞台としたYAだと、各国の文化や習慣や制度に触れることができて楽しい。
それもこれも日本語の物語として翻訳してくれる方がいるからこそ。ありがたや。外国文学を敬遠している人も是非手に取って欲しい一冊。

『スマホアプリはなぜ無料? 10代からのマーケティング入門』(松本健太郎)
わかりやすい言葉と身近な事例を用いて経済やマーケティンを知る。
世の中の仕組みを知ることで搾取されないようになる。何となく知ったつもりになっていたものが、文章で表されることで腑に落ちて納得する面白さ。
若者が理解しやすいように彼らにとって身近なものを例に書かれているので、これを読むと今の若者の時流が見えるのも面白い。
そうかそんなにもスタバがスタンダードになっているのか。デジタル世代というのはこういう感覚なのか。そこを知るきっかけともなるから、YA向けノンフィクションは面白い。

『未来をつくるあなたへ』(中満泉)
紛争、核兵器、難民、格差、貧困、平和、人権、ジェンダーなどなど。今の世界に満ちた問題を知ることは、未来をつくることに通じる。
「善意と希望と理想をエネルギーとして世界を変えねばいけない」という言葉が胸を打つ。一歩進む勇気が希望を生み出す。

『ナイフをひねれば』(アンソニー・ホロヴィッツ、山田蘭・訳)
ミステリの面白さをこれでもかと突きつけられる快感。
実はこのシリーズの先行作を読んでいなかっただなんて、関係なしの圧倒的な面白さ。後半どこに連れていくのだろうといぶかしる先の到達点。このための道だったのかと膝を打つ悦び。

『希望の図書館』(リサ・クライン・ランサム、松浦直美・訳)
本に救われた。そんなの幻想だと思う人もいるだろうが、本に救われた人もいるのだよ。
母の死後すぐに父とふたりシカゴにやって来たラングストン。図書館に出会い本に出会い、自分の気持ちの拠り所を見つける。
そこで手にした本が詩集というのがお国柄なのだろうか。海外文学を読むと詩が身近にあることを感じる。
故郷や亡き母を想う気持ち、新天地での孤独感。自分でもわからない自分の気持ちを詩が表現してくれる。それが文学が持つ力なのだろう。
本に救われる。綺麗事じゃなく生きるのに本が必要なんだ。

『少年探偵には向かない事件』(佐藤友哉)
夏の島、誘拐予告状、人間消失、奇妙な一族、過去の事件、少年探偵、ボーイミーツガール。これは新本格を経てのミステリーランドの感覚だと喜びページを繰る。
あらゆる描写や仕掛けが楽しく、所々のセリフに鋭く胸を刺される。だって佐藤友哉だものね。

『宇宙においでよ!』(野口聡一)
宇宙飛行士野口さんによる宇宙の話。
10年以上前の本なので、宇宙開発については過去の話となりますが、基本の入口として興味と関心を沸き立たせてくれます。身近な部分から始まり大宇宙へと広がる、その語り口にのめりこみます。
宇宙のトイレの仕組みって気になるよね?

『支える、支えられる、支え合う』(サヘル・ローズ・編著)
世の中には様々な要因で困っている人がいる。その人たちのことを知るだけでも支え合う社会の形成の一歩だろう。
それが中学生向けに書かれたこの本の意義なのだろう。もちろん当事者にも助けを求めていいのだとも伝えてくれる。

『アンチ』(ヨナタン・ヤヴィン、鴨志田聡子・訳)
イスラエルのYA小説ということに興味を抱き手に取る。
おじさんを自殺で亡くした14歳の少年がヒップホップに出会い、自分の中で暴れる気持ちをラップに乗せて吐き出す。
何もかも馴染みの薄い事柄なのに、スッと共感させられることに感動。

『ぼっち現代文 わかりあえない私たちのための〈読解力〉入門』(小池陽慈)
10冊の本を読み解きながら、人と人の繋がりを考える。
無茶苦茶面白い! と思うのは、元々国語の授業が大好きだったからだろうか。テキストを丁寧に読み解くことで見える自己と他者の関係。わかりあえない先にあるもの。
「登場人物の気持ち」についても、テキストを読み解くことで導き出されるものがあると示される。(わからないものもあるとも明示される)
国語が得意な人ほど感覚で捉えてしまっているものを、きちんと説明されるとこんなにもわかりやすく面白い。国語に苦手意識を持っている人もぜひ。
また国語の試験問題としてよく揶揄される「作者が何を思っていたか」についても、語り手が作者自身ならばこの手法で導き出されるだろう。
逆に導き出せないものは問題として成り立たない。
テキストを読み解く大切さと面白さを改めて感じた。

『ステイホームの密室殺人1』(アンソロジー)
コロナ禍に於ける緊急事態宣言。4月にステイホームが唱えられ、その年の夏に本が出た素晴らしさ。
現実の状況すらもミステリの設定とし「密室」を創り出す。時代を切り取るのもミステリの役割だと思い知る。
それぞれの思い切った展開も好みです。

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