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『マチルダは小さな大天才』 子どもであることはしんどい。

 『マチルダは小さな大天才』
ロアルド・ダール著・クェンティン・ブレイク絵・宮下嶺夫訳  評論社・2005年9月

この本の内容をシンプルに言ってしまうと、非常に頭がいい聡明な少女マチルダが、自分自身の前に立ちはだかる悪い大人をやっつけていく話である。
 娘であるマチルダの教育を放棄し、あくどい手段で金儲けをしているワームウッド夫妻は現代の言葉でいう「毒親」である。そして、マチルダが通う学校長のトランチブルは、学校に通う子どもたちを暴力で抑えつけ、支配している。
 そういった自身の前に立ちはだかる悪い大人たちに対し、マチルダは機転を利かせ、ユーモア溢れる方法で懲らしめていく。そして、そうすることで自身の未来を切り開いていく。

 内容自体はよくよく読むと重い内容ではあるものの、軽やかな文体、誇張されたコミカルなキャラクター、罵る言葉のボキャブラリーの豊富さ、かわいいイラストといった要素があることで、この本の雰囲気は明るいものになっているように思う

 自分が子どもだという状態は、なかなかしんどいのではないかと思った。まず、自身の生活は置かれた環境に大きく左右され、環境を子どもは選ぶことはできない(「親ガチャ」という言葉があるように)。そして、環境を変えるには、多大な時間とエネルギーが必要だ。

 今の自分自身を思い返してみると、大人になったことで、子どもの頃よりもコントロールできる物事は増えているように思う。大人になることは悪いことばかりではない。それは子ども時代をサバイブした結果として、今があるのではないか、そんな風に考える機会になった。

 厳しい状況に置かれる子ども時代を生き抜くことへの応援歌、それがロアルド・ダールからのユーモアの包装紙にくるまれたメッセージなのかもしれない。(終)


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