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CBC⑱「ペット虐待の裏側にあったもの。そして未来」

ポジションチェンジの話が続きます。

今日のケースは10年近く前の話です。もっと別のやりかた、別の結末もあったケースだと思います。ただこういうケースも見てもらうことで、何か参考になればと思います。
※このケースは児童やペットへの虐待に関する表現があります。苦手な方は、この先ご遠慮ください。これ以外のケースからでもカウンセリングは学べます。

クライアントはアラサー女性。最近カウンセリングを学び始めたといいます。そのスクールで先生からもらった課題で混乱してしまったと言います。

カウンセリングをするためには、自分もカウンセリングを受けることが大切です。受ける体験のなかから学べることがあるのです。自分の色々な面と向き合い、自分の課題を克服することは、カウンセラーとしてクライアントに向き合う上で必要なことです。

だから、カウンセリングを受けることもそうですが、自分を知ったり、自分に向き合うために課題を出されることがあります。

けれど、

彼女「とにかく、その課題によって、いろんな感情が湧いてきてしまって、どうしたらいいかわからないんです」
僕「何があったの?」

この「何があったの?」は僕がよく使う質問です
・クライアントの状況とこれまでの経緯がきける
・それによって、コーチはどう関わるかの指針が持てる
・クライアントは一旦受け止めてもらえるから落ち着ける

みたいな効果があります。

ただし、目的はそれだけではありません。
「それがあったからこのような(大変な)状況になったんだね」ということを、相手に伝えたいという想いもあるのです。

人は基本的には大丈夫なんです。でも何かによって混乱してしまうことがある。だから、その何かを特定して、クライアントと切り離したいのです。それがあったからこうなった。それがなければこうなってない。と。

彼女「スクールの課題に取り組んでいたら、忘れてた過去を思い出してしまって。。。」
僕「うん。。。。どんな?」
彼女「。。。。。。。私、昔、飼ってた犬を虐待していました」
僕「虐待?」

このとき、僕はどんな気持ちできいているか
・彼女がいう虐待ってなんのことだろう
・彼女はそのこと(虐待)をどう思っているのだろう
・彼女はそのことをどうしていま話しているのだろう

そんなことが知りたいわけです。
良いとか悪いとかの評価判断はありません。
ただただなんの話かしりたいのです。
これからどうするかもこの段階ではもちろん考えていません。

コーチング・カウンセリングで、これからどうするかを悩んでしまう人は、知っておいた方が良いことがあります。

どうしたらいいかがわからないのは情報が少ないからです。

クライアントに今何が起きているのか?クライアントはどうしたがっているのか?クライアントの周りの状態はどうなっているのか?

それらがちゃんとわかれば、どうしたらいいか?は自ずと明らかになります。(もちろん、このケースは自分には無理だから別の人に頼もう!とかの結論でもいいのです)

どこかでこの考え方きいたことありますか?

そうです。これはコーチングです!

何が起こってる?
どうなったらいい?(G)
どんなリソースがある?(R)
何ができそう?(O)
何をやってみる?(W)

という順番に話をきいていけば、コーチはクライアントにどうかかわってあげたらいいかわかります。

なんならコーチのアドバイスなんかなくても、クライアントが自分で、何をどうしたらいいかが分かっちゃうんです。

もちろん、このケースで語られることが、警察に自首すべきような事柄であれば、それを促します。だけど実際はそうじゃない。

だからいつも通りに僕はききます。「虐待?」

彼女「。。。。。。飼っていた犬がいたんですけど。。。。繋いでたロープで叩いてしまって。。。。」
僕「そっか。。。。そういうことがあったんだね」

叩くこと自体は誉められないと思います。でも、僕はそこは見ていない。
彼女だってそんなこと分かってるんです。叩いたらいけないなんて。

彼女は20年近くの時を経て、まだそれを傷として持っている

それくらい、そんなことしたくなかった。
それくらい、そのワンちゃんが可愛かった。

そういうことなんじゃないかな?と思っているわけです。

そんなことを思いながらも
他にも確認したいことがあるので、まずはそちらからききました

僕「そのことを思い出して、どうなったの?」
彼女「。。。。自分のことが嫌になって。。。。どうしていいかわからない」
僕「どうしていいかわからない、っていうのは?」
彼女「。。。カウンセリングスクールをどうするかもだけど、いまは仕事とかも手につかないくらい混乱してて」

ちょっと不思議ですね。もちろん自分の過去から、びっくりするような記憶が出てきたら混乱するのはわかります。だけど、このケースは少し反応が大きい感じもする。。。何があるんだろう。。。。とは言え、先にまたべつの質問

僕「なるほど。。ところで、いま20分くらいしか時間ないけど、まずば何について手伝えると良さそう?」
彼女「。。。。。感情的に少しでも落ち着けたら」
僕「落ち着いたら。。。」
彼女「どうするかは自分で決められそうです」

これは朗報。こんなふうに言える強さ。効力感。このケースは仕事の合間に突然話しかけられたので、そんなに時間がなかったので、正直ホッとしました。でももう一つ確認したいことがあります

僕「素晴らしい。。。ちなみにね、課題をくれたカウンセリングの先生と話したらいいのでは?とも思うだけど。。。。どうかしら」
彼女「。。。。。。。話したんだけど、受け止めてもらえなくて」

課題を出した先生には意図があるはずです。またこのように混乱することだって想定内なのかもしれない。であれば、その先生と話したほうがよいのではと思ったのですが。。。。この感じだと、先生のところに行って話してもらうのは、いまは難しいかな。。。

ということで、いまここでやれることをやろうと決めました。

こんな風に記憶がフラッシュバックしてして、強い感情に振り回される場合にもいろんなアプローチ方があります。

GROWモデル的なアプローチだっていいんです。

例えば
・フラッシュバックが起こらない
・フラッシュバックが起こっても巻き込まれなず◯◯できる
などをゴールにして、

現在の状態とか、これまでの体験からヒントを得ながら、
何をするのが良さそうか?どんなリソースを使えると良さそうか?
を探すなどしてみてもよいのです。

コーチがするカウンセリング⑤で紹介したSPACEモデルも役にたちます。

とは言え、このとき僕は、彼女の記憶自体を再解釈したいと思っていました。きっと彼女の行動には意味があった。だから、自分のことをひどい人間だと思わなくてもいいのでは。そう思ったのです

で、

僕「ねぇ。その時のこと思い出してほしいんだけど。。。。何歳くらいだったの」
彼女「小学校あがる前くらい。。。」
僕「そっか。どうしてそのとき。。。ワンちゃんのこと、叩いちゃったのかな。。。なんかあったんでしょ
彼女「嫌なことがあって。。。。それで泣いてたら(犬が)こっちに来るから。。。。向こうに行ってって言ったけど、言うこときいてくれなくて。。。。それで」
僕「ふぅぅ。。そっか。。。ちなみに、嫌なことって何があったの。。。」
彼女「。。。。。その頃。。。親から。。。。」

彼女の表情、声の発し方。。。聴かなくても分かりました。彼女も虐待を受けていた。。。それで一人でいたところに、ワンちゃんが来たのです。。。

なんて悲しい話だろう。。。。僕は自分を落ち着かせるためにも、深い呼吸をしました。

僕「そっか。。。。つらいけどやってみようね。。。。あの日の自分に戻って。。。。目の前にワンちゃんをイメージして。。。近づいてくるよ。。。。叩いているふりをしながら。。。。こっちにこないで。。。。遊んであげられないから。。。。言ってみよう。。。。」
彼女「こっちに。。。。。こないで。。。。。(涙)。。。。私。。。いま。。。遊んであげられない。。。。」
僕「ありがとう。。。では、今度はワンちゃんの中に入ってみよう。。。」

彼女は床に四つ這いになりました。

僕「ねぇ。。。あの子の声をきいて。。。。『こっちに来ないで。。。。いまは。。遊んであげられない』だって」
彼女(犬)「。。。。。わかってるよ。。。。ただ。。。。一緒にいたくて。。。。。。。心配だから。。。。(涙)」

この繋がり。この信頼感。だから彼女も辛かったんだろうな。。。

僕「ねぇ。この子は君にごめんねって言ってるよ。どうしていいかわからなくて、叩いちゃってごめんね。。。」
彼女(犬)「わかってるよ。。。ごめんなんて言わないで。。。。大丈夫だから。。。」

僕も泣きました。。。。このクライアントの生きている世界のなんと純粋なこと。。。

僕は彼女に、犬の体験から抜け出して、もとの場所に戻るようにお願いしました。そして問いかけます

僕「ワンちゃんをあらためて見て。。。。なんて言ってあげたい??」
彼女「本当にごめんなさい。。。こんなにいい子なのに、私はひどいことをしてしまった」

なるほど。。。そうだね。。。

ワンちゃんの気持ちに触れて「ありがとう。。。そう言ってもらえて救われた。。。」みたいな展開になる可能性もありましたが、そう都合よくは行きませんでした。

僕「なるほど。。。ちなみに。。。あなたがそう言うのをワンちゃんがきいたら、なんて言いそう?」
彼女「気にしないでって言うと思う。。。けど。。。」
僕「けどなに?」
彼女「けど、あんなことはしてはいけなかった。。。あんないい子に。。。。」
僕「そうか。。。そう思うんだね」
彼女「。。。。。。(涙)」

ではさらに、その先ではどんな結末を迎えそうかに目を向けます。

僕「そっか。。。。。ではそのまま、イメージしてもらいたいんだけど。。。。あなたが。。言い方はきついけど、自分を罰しようとする。。どんな理由であれはすべきでなかった、と。。。自分は決して許されない、と。。。。それを続けたとき。。。。天国のワンちゃんはどうなるかしら」
彼女「。。。。。。変わらない。。。」
僕「どういうこと?。。。。」
彼女「。。。。。ずっと、そんなことないよって、言い続けてる。。」
僕「あなたを心配してる感じ?」
彼女「。。。悲しんでる。。。。」

僕「そっか。。。女の子はどうだろう」
彼女「女の子?」
僕「。。。苦しくて叩いてしまった女の子。。。。彼女は。。。大人のあなたがそうやって自分を罰し続けていると。。。」
彼女「。。。変わらない。。。そのまま。。。。」

さぁここで選択です

僕「どうしようね。。。あなたが自分をゆるしたくない気持ちもわかる。。。あなたの理想と離れた行動だったから。。。。」
彼女「。。。。」
僕「一方で、あなたがそうしていると、健気な犬も、かわいそうな女の子も救われない」
彼女「。。。。」
僕「僕は小さな女の子が罪を犯したとは思わない。あの時は他に選択肢がなかったと思う。だけど、あなたが、どうしても自分の過去の行為を許さないと言うなら。それを行動に変えるのがいいのだと思います」
彼女「行動?」
僕「あなたが自分を責めていても、犬も女の子も救われない。であれば、自分を責める変わりに、わんちゃんや女の子のために、これからできる行動をしませんか」
彼女「。。。。」
僕「過去は変わらないなら、それを未来にいかそう」

罪悪感は役に立たない感情である。罪悪感を手放せなせないなら、罪悪感の代わりに罪に向き合おう。その経験を未来に活かそう。

ぼくの先生の言葉です。

ぼくは、彼女は罪悪感を感じる必要もないと思うし、罪を償う必要もないと思う。けれども彼女がそう思わないなら、せめて過去にいるより、現在、そして未来に生きたほうがいい。

彼女の答えを待ちました。しばらくの沈黙の後

彼女「前から考えていたことですけど、やっぱり児童擁護施設にボランティアに行ってみます。。。。自分が何ができるかわからないけど、辛い思いをしている子たちの何か力になれるかもしれない。そうしたら少なくともその子たちは犬に当たるようなことはなくなるかもしれないから」

彼女は時間を作って、ボランティアに行くようになりました。そして子どもたちとの触れ合いを通じて、彼女は少しずつ変わっていきました。自分でつくった仮説を実行しながら、自分の人生を変えていったのです。出会った子どもたち、そこに関わる大人たちから学んだことも多かったのではと思います。

別のやり方もあったケースだと思います。だけどクライアントと僕は、その日できることを色々と試しました。そしてクライアントはそこから生まれた仮説に取り組みました。

行動すれば、次の現実。

私たちは何からでも学べ、いつでも変われる。

決めた行動を通じてクライアントは学び変化しました。こんな体験を共にしながら僕も人生について、対人支援について学んできました。





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